読者のみなさまには、いつも私のお話を楽しみにしてくださいまして、ありがとうございます![]()
またまた大変おまたせしていました、「未来へ続く恋」の第5話が出来上がりましたので、どうぞお読み
ください。
どうか、お楽しみいただけますように・・・![]()
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一条紗江子物語・・・
~未来へ続く恋~ ≪5≫
<俺が愛したのは、心理カウンセラーの君じゃない・・・生身の一条紗江子だったのに・・・>
彼の背中がどんどんと遠ざかっていく・・・
待って!・・・
追いかけるから・・・今なら迷いを振り払って追いかけられるから・・・
私は、はっとして目を開けた。
すぐに、カウンセリングルームのソファとその向こうのドアが目に飛び込んできて、私は強く頭を振った。
惣介が入江直樹に託した写真を見つめながら、ふと目を閉じただけのはずなのに・・・
これが白昼夢なのか・・・見れば壁の時計の針も5分と進んではいない。
―考えすぎね・・・
それでも、惣介と再会してから、今初めて2年前の別れの場面を夢に見た。
わかっている・・・
ずっと認められないでいたけれど、あの場面を繰り返し夢に見るのは、私自身があの別れを後悔して
いる証。
それでも、ずっと立ち尽くしていた夢の最後の場面で、今日の私は初めて彼を追いかけようとしていた。
そう・・・惣介のメッセージを読んだ瞬間、衝動的に部屋を飛び出したように。
ただ胸の中に湧き上がる思いに素直に従うこと・・・それがあの頃の私にはどうしてもできなかった。
結局、入江琴子は見つからず、午後のカウンセリングの始まる時間になってしまい、それきりカウンセ
リングルームから一歩も外へは出ていない。
部屋を飛び出した自分の行動を思い出すと、恥ずかしくて自然と顔が熱くなる・・・
『幹ちゃん、教えて!・・・琴子さんはどこ?』
『えっ?・・・琴子なら外来からまだ戻って来てませんよ。今日は直樹さんと一緒だからいつまでも残っ
てウダウダしてるんじゃないですか?まったく!もうランチの時間なのに・・・』
桔梗幹は、慌てている私を見てどう思ったのか・・・
それでも、『琴子がまた何かやらかしたんですか?』と聞かれた時は、思わず笑ってしまったけれど。
もう、入江琴子は戻ってきているだろうか・・・それでももうあれから何時間もたつと言うのに何も言って
こないところをみると、惣介は捕まらなかったのかもしれない。
私は、もう一度頭を振ると、あれこれ思い悩むのをやめて午後にカウンセリングした患者のカルテを開
いた。
やらなければならないことはたくさんある・・・
仕事に没頭していれば、その時だけは忘れていられた。
それからしばらくして、ドアの向こうから微かに聞こえてきた「お疲れ様」と言う言葉に、思わず顔をあげ
て時計を見た。
―ああ、ナース達の引き継ぎの時間か・・・
1時間以上は仕事に集中していただろうか・・・気づけば、背後の窓から差し込んだ夕日が手元のカル
テを赤く染めていた。
「一条先生、いらっしゃいますか?・・・」
ノックとともに、ドアの向こうから入江琴子の声が聞こえたのはそんな時だった。
私は、ドキンと高鳴った胸に手を当てながら「いるわよ。どうぞ」と声をかけた。
細くドアを開けて顔を見せた入江琴子は、なぜか廊下の左右を確認してからドアの隙間に体を滑り込
ませるように入ってきた。
「どうしたの?・・・なんだか行動が怪しいわ・・・」
私は、努めておどけたように尋ねた。
「私、どうしても一条先生に伝えたいことがあって!入江君は余計なことはやめろって言うんですけど
でもさっき幹ちゃんから一条先生が私を探してたって聞いて、やっぱり言おうと思って!!」
入江琴子は、少し興奮気味にまくしたてると、ドサリとソファに腰かけた。
私は、ゆっくり立ち上がると、入江琴子の正面のソファに移動した。
不思議と気持ちは落ち着いていた。
そして、きっと彼女が、私の背中を押してくれるような気がしていた。
だから私は、ただ素直な気持ちで彼女の話を聞こうと思っていた。
「入江先生から聞いたわ。琴子さん、惣介を追いかけたんですって?・・・」
私は、詰問口調にならないように気を付けながら入江琴子の目をまっすぐに見つめた。
「は、はい。戻った後も入江君にすごく怒られちゃったんですけど、外来に来た時の栖原さんの様子を
見ていたらどうしても我慢できなくて・・・ずっと私達に何か聞きたそうにしてたんですけど、結局何も言
わずに最後にあの封筒を入江君に渡したんです」
「そう・・・」
「それで私、何が言いたかったのか聞きたくて、思わず追いかけちゃったんです・・・余計なことしてご
めんなさい」
「謝ることなんてないわ・・・そうね、琴子さんならそうするでしょうね。むしろそうできるあなたが羨ましい
くらいだわ・・・」
「えっ?羨ましいって?・・・」
私の言葉に不思議そうに首を傾げた入江琴子に、私は何も答えず曖昧な微笑みを返した。
―本当に、あなたのその無鉄砲なまでの素直さが羨ましいわ・・・
「それで、惣介とは話せたの?・・・」
「はい。私、病院の門の所で栖原さんに追いついて、何か一条先生に伝えることはないかって聞いた
んです・・・」
「そうしたら惣介は何て?・・・」
「気持ちはもう伝えたからいいって。一条先生にはあれで十分通じるはずだからって」
「そう・・・そうね。十分だったわ」
「でも、私本当にそれだけでいいのかなって思って、一条先生に会って帰らないんですかって言った
んです。そしたら・・・」
「そしたら?・・・」
「栖原さんは、笑って言いました・・・”もし、もう一度始めることができるなら、紗江子の方が乗り越えな
くちゃならないものが大きいから・・・”って。ねえ、一条先生?先生が乗り越えなくちゃならないものって
なんですか?」
私は、入江琴子の話を聞きながら、思わず笑いが込み上げてきた。
いつもなら、私の方が相手の気持ちを理解して心をコントロールしてくというのに、今の私の心は完全
に惣介に見透かされコントロールされてしまっている・・・
惣介は、私から会いに行くのを待ってるんだ。
”かたくなな弱さ”を克服して、自分の中に巣くう大きな壁を乗り越えて・・・
すると、急に笑い出した私を不思議そうに見つめていた入江琴子は、突然思い出したように私に向か
って身を乗り出した。
「一条先生!!私、肝心なこと聞くのを忘れてました!!」
「な、何?・・・」
私は、入江琴子の勢いに思わず体をのけぞらせながら聞き返した。
「一条先生って、本当は今でも栖原さんのこと好きですよね?・・・だから、栖原さんを追いかけた私を
探してたんでしょ?私、そう思ったから入江君に怒られてもいいって思ってここに来たんです!!」
「はあ?・・・あははは・・・琴子さん、あなたと言う人は・・・」
私は、もう我慢が出来ず声をあげて笑い出していた。
そして、笑いながら涙が込み上げてくるのを感じていた。
「もう!どうして笑うんですか?・・・私の言ったことってそんなにおかしいことですか?」
頬を膨らませて怒る入江琴子に、私は泣き笑いの顔で必死に首を振って見せた。
そして、惣介が入江直樹に託した茶封筒を彼女の前にそっと置いた。
「見ていいんですか?・・・」
戸惑い顔の入江琴子に向かって、私はうなずいた。
「この写真がきっかけで私と惣介は出会ったの・・・」
私は、静かにあの頃のことを語り始めた。
なぜか、入江琴子に私の恋の話を聞いて欲しいと思った。
「この写真の中の惣介の目・・・私にはその目がとても哀しそうに見えたの。もちろん初めてその写真
を見たときは、理由まではわからなかったわ。でも、何度か彼に会う内にそれがわかってきたの。」
惣介は、あの写真に写っていた山で大切な友人を亡くしていた。
でも、惣介があんなに哀しい瞳をしていたのは、その友人の恋人の嘆く様に衝撃を受けたことだった。
危険は承知の上で、険しい山に登っていた。
それでも、恐怖に打ち勝って登り切った山の上で、この世のものとも思えぬ美しい景色に出会った時、
この上ない幸せを感じることもできた。
それが彼の生き甲斐でもあった。
しかし、万が一のことがあった時、もし下界に大切な人を残していたら、その嘆きはこんなにも大きな
ものなのかとその時初めて知ってしまった。
それから誰かを好きになることが怖くなったと彼は言っていた。
初めて会った時、私はもちろんそんな彼の心の闇など知らず、あの写真を見ながら惣介に聞いた。
『この写真の中の栖原さんが見つめてる哀しみは何かしら?・・・』
それまで、明るく楽しげに山の話しに興じていた惣介はその瞬間、大きく見開いた目で私を見据えた
まま動かなくなった。
その様子を見ていた田辺響子が、助け船を出してくれなかったら彼はどうしていたのか・・・
『あ、ああ。この子、心理カウンセラーなんですよ。気分を悪くさせちゃったらごめんなさいね・・・もう!
紗江子!初対面の方に失礼じゃない!』
しかし、どこでどう調べたのか・・・その当時勤めていた病院のカウンセリングルームに惣介から電話
が来たのは、写真展に行った夜から3日目のことだった。
「それから一条先生と栖原さんは付き合うようになったんですか?・・・」
入江琴子は、興味津々な顔で私を見ていた。
「うーん。付き合うって言っても、いきなり恋人とかになったわけじゃなくて、何度か会ううちにだんだん
とね・・・」
そう・・・私にとって、惣介のような男は実は好都合な相手だった。
目の前にそびえる山に登るために、未来には何も残すまいと心に決めていた男・・・それが彼。
誰かと未来を共有することを怖がっていた私には、今あるこの瞬間瞬間を大事に過ごそうとする彼と
いることが心地よかった。
しかし、時の流れはそんな彼の心にも変化をもたらした。
出会ってから2年・・・彼の口からプロポーズの言葉がこぼれた時、私は彼との別れを決めていた。
私が心理カウンセラーだったからかどうか、それはわからない・・・
それでも、私と一緒にいることで彼は心の傷を癒し、私との未来を考えるようにまでなった。
それは、人の心に携わる仕事をしている身としては、何よりもその力が発揮出来たことを喜ばなけれ
ばならないことなのに、それが自分自身のこととなると、私には受け入れることが出来なかった。
『紗江子?・・・俺はずっと君を愛するよ。それなのにどうして?・・・』
『だって、私にはそれが嘘だってわかるもの・・・』
『紗江子が見ると、俺の心にはそう書いてあるの?』
『・・・・・』
『俺が愛したのは、心理カウンセラーの君じゃない・・・生身の一条紗江子だったのに・・・』
『えっ?・・・』
別れの場面までを一気に話して、私はふうっと息を吐き出した。
見ると、私の話を聞いていた入江琴子の両の瞳から大粒の涙が零れ落ちていた。
「皮肉な話でしょう?・・・それきり先週この病院で再会するまで惣介には一度も会ってないの・・・携帯
のアドレス帳も消してしまったし、彼から連絡が来ることもなかったわ」
「私、何て言ったらいいか・・・」
入江琴子は、戸惑いの色を隠しもせず私の顔を見た。
「ふふ・・・本当にあなたは嘘のつけない人ね・・・」
「えっ?・・・」
「”一条先生が間違ってる、栖原さんが可愛そう”って顔に書いてあるわ」
「ええ~そんなこと・・・」
「私にはお見通しよ!・・・そしてあなたが思っている通り、私が間違ってたの。今ならわかるわ・・・」
そして、私は、テーブルに置かれた惣介の撮った写真を手に取りながら、言葉を飲み込んでしまった
入江琴子を慰めるように言葉を繋いだ。
「それを気づかせてくれたのは、あなたと入江先生・・・」
うつむいていた入江琴子は、髪を弾ませながら勢いよく顔をあげた。
「私と入江君が?・・・」
「そうよ。自分の気持ちに素直になることの大切さ、たとえ傷ついても相手の想いを信じる勇気、そして
未来へ続く恋の素晴らしさ・・・をね」
入江琴子の顔がぱあっと明るくなり、今度は喜びの涙が頬を伝っていた。
私は、手を伸ばして彼女の涙をぬぐうと、大きくうなずいて見せた。
『あいつに話したのが運のつきですね。かき回されても知りませんよ・・・』
午前中、私にそう言った入江直樹の顔が浮かんだ。
―ホントにそうね、入江先生。あなたの奥さんにかき回されて、決心がついたわ。
そう・・・入江琴子に向かって、あらためて自分の恋をなぞってみてはっきりとわかったことがある。
もう一度会いたい。
もう一度始めたい。
もう迷いはなかった。
―惣介?・・・私達、本当にもう一度やり直せるかしら・・・?
つづく
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さて、いかがでしたか・・・![]()
今回、このお話を1人称で書いたことで、一条先生の目線でしか過去の恋の表せないというのが、とて
も大変で、なんとかまとめはしましたが、ちょっと不満が残りますヾ(´ε`*)ゝ エヘヘ
それでも、なんとか「瞳に映っていた真実」で一条先生が繰り返し夢に見る別れの場面へとお話しを繋
げることができてC=(^◇^ ; ホッ!としています。
さぁ、一応予定としては次回が最終話となります。
9月中にアップできるかなぁ~![]()
久しぶりに通信記事で書きたいこともあるので、がんばりたいと思います![]()
では、次回もどうぞお楽しみに・・・![]()
By キューブ
