読者のみなさまには、いつも私のお話を楽しみにしてくださいまして、ありがとうございますひらめき電球


随分と長いことお待たせいたしましたあせる

ちょこっとだけ言い訳させてもらいますと・・・8月の末から先週末までは、私の神ドラマ「踊る大捜査線」

と共に、まさに踊っていましたヾ(´ε`*)ゝ エヘヘ

映画も公開されて、しっかりと観に行って、やっと正気に戻ったので、こうして4話を書き終えることがで

きました。

お恥ずかしい限りです・・・ヾ(´ε`*)ゝ エヘヘ


さて、このお話も佳境です。

どうか、お楽しみいただけますように・・・音譜


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    一条紗江子物語・・・

   ~未来へ続く恋~ ≪4≫



カウンセリングルームの自分のデスクで午後からのカウンセリングの計画を立てていた私は、ドアがノ

ックされる音で顔を上げた。
無意識に壁に掛かった時計に目を向けると、あと少しで12時になるところだった。


―こんな時間に誰かしら?・・・まさか惣介?


今日は午前中に来客やカウンセリングの予定はない。
顔なじみのナース達なら、ノックこそすれこちらの返事も待たずにドアを開けて入ってくるのはいつもの

ことだ。


「は、はい、どうぞ・・・」
私は、一瞬躊躇してから扉にはめ込まれた小さな曇りガラスの向こうに見える人影に向かって声をか

けた。ところが、ドアを開けて入って来た人物を見て私は目を丸くした。


「入江先生?・・・何のお約束もなく先生がここに来るなんて珍しいですね・・・何か?」
私は、驚きの表情を隠しもせず、入江直樹が私の前まで歩いてくるのを見つめていた。


すると、入江直樹は何も言わずに手に持っていたB5サイズほどの茶封筒を私の前に置いた。


「何ですか?これ・・・」
私は表にも裏にも何も書かれていない茶封筒を手に取ると、顔をあげて入江直樹に尋ねた。


「少し前、栖原さんが来て、一条先生にそれを渡してほしいと頼まれました。」
「えっ?・・・」


私は、すぐに封筒の中に手を入れ中のものを引き出した。


―これは・・・


それは、何の変哲もない一枚の風景写真。
しかし、私には、その写真に見覚えがあった。




惣介との思いがけない再会から1週間が過ぎていた。


あの日、動揺する心のまま田辺響子の事務所を訪れて、彼女との会話からあの頃とは変化した自分

を知ってから、にわかに胸に湧き上がってきた思い・・・


”もう一度会いたい・・・”


しかし、この1週間、彼が再びこの病院にやってきた気配はなかった。
惣介と再会した翌日いつも通りに登院すると、前日にヘリコプターでやってきた”熊”のような男が私の

元カレだということを知らない者はいなかった。
だから、もし惣介が、外来なり付き添って来た重症患者の見舞いに訪れたのであれば、噂をばらまい

た当人たちを含め、人の顔を見れば彼とのことを聞き出そうとして来るナース達が、私に報告に来ない

はずがないのだから・・・


しかし、もう一方で会いたいという思いを否定する気持ちがあるのも事実だった。
会いたいけど、私からは会いに行くことはできない・・・

それはあの恋を終わらせたのは私自身だったのだから・・・
もう一度会って私が彼に向かって微笑みを返したところでまた何かが始まるというわけではない。
何のためにもう一度会いたいのかと、自分に問いかけてみても、この1週間の間に明確な答えは見つけ

られないままだった。


それでも、カウンセリングルームのドアがノックされるたびに、小さな期待を込めて返事をしている自分

を感じずにはいられなかった。


「それじゃ、オレはこれで・・・」


私は、入江直樹の声で我に返ると、写真を封筒の中に戻しながら彼を引き留めるように尋ねていた。
「入江先生?それで栖原さんは?・・・まだ病院にいますか?」


「外来へ来たのは1時間ほど前です。傷の抜糸をして外来を出て行ったあとのことは、オレにはわかり

ません」
入江直樹は、淡々と答えた後、軽く頭を下げて私に背中を向けた。


私は、入江直樹の言葉から無意識の内に窓の外へ目を向けると、病院の門のあたりを行き来する人々

の中に惣介の姿を探していた。


「その栖原って人、一条先生の別れた恋人らしいですね・・・」

もう出て行ったと思っていた入江直樹の声が再び聞こえて私は驚いて振り返った。

彼は、開け放したドアに寄り掛かるようにしてこちらを見ていた。


「えっ?ええ。琴子さんから聞いたんですね?」
私は、自分の顔がかっと熱くなるのを感じながら答えた。
すると、入江直樹は唇の端を微かに上げてにやりと笑いながら言った。
「先週、ラウンジの前で見かけた時は、そうは思いませんでしたが、どうやら嫌いで別れた相手ではな

さそうだ・・・」


「どうしてそんなこと・・・」
私は、入江直樹のからかうような物言いに少しむっとしながら言った。


「嫌いで別れた相手なら、帰ってしまったと聞いてほっとするはずでしょう・・・でも今あなたはがっかり

した顔をした。」
入江直樹は、相変わらずにやりとしたまま言った。


―面白がってるの?・・・


すると、入江直樹は小さくため息をひとつついてから思いがけないことを言った。
「まったく・・・余計なことはするなと言ったんですが、外来が終わった後の栖原さんを、オレの制止も

聞かずに琴子が追いかけて行きましたよ。」


―琴子さんが惣介を?・・・


私は一抹の不安を感じながら、何も答えずに入江直樹の顔を見た。
すると、入江直樹は腕組みをしながら、すっと真顔になると言葉を続けた。
「あいつに話したのが運のつきですね。かき回されても知りませんよ・・・ただ、オレやあなたのように

自分の本当の気持ちがてんでわからないような人間には、あいつにかき回されるくらいが丁度いいか

もしれませんがね・・・」


―えっ?・・・えええ~~??


入江直樹は、私が驚きのあまり何も答えられないでいる内に、不敵な笑みを残して出て行ってしまった。
私は、呆然としながらたった今彼に言われた言葉を頭の中で反芻していた。


入江直樹は、きっと私の戸惑いと動揺に気づいていたに違いない・・・
彼の言った『オレやあなたのように・・・』という表現がそれを裏付けているような気がした。
そう・・・あの惣介との再会の場面に入江直樹もいたのだから・・・


私は、もう一度窓の外に目を向けながら、入江琴子が惣介を追いかけていく姿を想像して思わずクスリ

と笑った。
あの再会の場面の一部始終を見ていて、さらに私から彼が元カレだと聞かされていた彼女が、1週間

後に外来を訪れた彼が私に会わずに帰ろうとすれば彼女ならきっと気になって追いかけて行くことだ

ろう・・・


―琴子さんは、惣介を捕まえたのかしら・・・


私は、深いため息を付きながら、デスクに視線を落とした。
たった今、入江直樹が置いてい行った茶封筒が目に入り、私はそれを取り上げて中の写真を取り出した。


それは、私と惣介が知り合うきっかけになった写真。


―懐かしい・・・


私は、窓に寄り掛かりながらその写真を初めて見た日・・・つまり惣介と初めて出会った日のことを思い

出していた。




あれは、もう4年以上前のことだろうか・・・
カウンセラーとしてやっとひとり立ちした頃のことだったように記憶している。
あの日、私は仕事帰りに田辺響子と食事の約束をしていた。
ところが、待ち合わせの場所へ行くと、田辺響子は申し訳なさそうな顔をして、ある所へ付き合って欲し

いと私の前で手を合わせた。


「私の本を出してくれる出版社が主催する山岳写真展に招待されてたのをすっかり忘れちゃってて、そ

れが今日だったのよ~!さっと写真を見て、ちょっと挨拶するだけだから紗江子も一緒に行ってくれない?・・・」


山岳写真など、自分から進んで見に行くことはない・・・それでも山や海の景色というのは心を癒してく

れるもの・・・
私は、にわかに興味が湧いて田辺響子の誘いに乗った。


写真展とはいっても、どこかの大きなホールやギャラリーを使っての大々的なものではなく、出版社の

エントランスホールの一画に写真のパネルを張り付けた小規模なものだった。
展示されている作品は、プロのカメラマンが撮影したものだけでなく、アマチュアカメラマンの撮ったも

のや、さらにはスナップ写真のようなものまであった。
しかし、その日は出版関係者や名の知れた写真家達を迎えてのレセプションだったようで、会場の中央

には軽食や飲み物なども用意されて随分とたくさんの人が集まっていた。


私は、田辺響子が顔見知りの編集者に挨拶に行っている間、壁に所狭しと並べられた写真を1枚1枚

眺めて歩いた。
山岳写真展というだけのことはあって、ただひたすら山をメインに写された写真が並んでいた。
山の向こうに沈む夕日、色とりどりの花が咲き乱れる登山道、真っ白に雪化粧をした富士山など・・・

どれも確かに綺麗な写真ではあったが、正直に言って思うことはただそれだけのことで特別な感慨は

持てなかった。


しかし・・・


―そう・・・今でもはっきり覚えているわ。


今、手にしているこの写真を見た瞬間だけは違っていた。
それは、薄らと雪化粧をした山の稜線に朝日が登ってくるところを写した写真だった。
しかし、それが他の写真と違っていたのは、どこか山小屋の中からガラス越しに撮った写真だったよう

で、朝日に照らされて赤みのかかった山の景色の手前に、カメラを構えるカメラマンの顔がはっきりと

写っていた。
それは、とても不思議な奥行きを感じさせる写真で、自分の身長よりも高い位置に掛けられていたその

写真を、私は長い間眺めていた。


「随分と熱心に見てるのね・・・」
いつの間にか戻ってきた田辺響子が、冷やかすように私に声をかけた。


「ええ。この写真が妙に気になって。ねえ響子先輩。なんだか哀しくない?・・・」
私は、写真から目を逸らさずに答えた。


「哀しい?・・・この山の写真が?・・・」
田辺響子が不思議そうに尋ねた。


「ううん。このカメラマンの目が・・・何を見ているのかしら?」
私は、顔半分がカメラに隠れているカメラマンの片方だけ写っている瞳に引き寄せられていた。


「えっ?・・・あら、ホント!カメラマンも写ってるのね。なんだか不思議な写真ね。でも、山の景色を撮

ってるんだから当然この山を見てるんじゃないの?」
田辺響子は、大して興味を持った風もなく答えた。


「そうかなあ・・・なんだか、カメラのファインダーを覗いている目とは違うものを見てるように感じるの・・・」

「あら紗江子ったら、さすがひとり立ちすると言うことも違うわね。なんだかカウンセラーっぽいわよ・・・」
田辺響子は、からかうように言った。


「もう、響子先輩!っぽいんじゃなくて、一人前のカウンセラーなんです!!・・・」
私は、田辺響子を横目でにらみながら次の瞬間に声をあげて笑った。


「どれどれ、一人前になった紗江子サンがこんなに興味を示している写真を撮ったのは何ていうカメラ

マンかしら?プロかしらアマかしら?」
田辺響子は茶化すように言うと写真の下に貼られた作者名の書かれたプレートを見た。


<プロカメラマン:栖原惣介>


「”すばらそうすけ?・・・この字って”す”でいいのよね?」
田辺響子が、”栖”の字を指さしながら自信なさげに私に尋ねた。


「うーん、そうね、富士五湖の本栖湖の”す”だし・・・」
私も自信なく答えた。


すると、不意に背後からかかった低い声が、ゆっくりとした口調で私達の間違いを訂正した。


「それ・・・”さいばら”と読みます」


驚いて振り向いた私達の前に、顔の下半分はヒゲに覆われ、髪はボサボサの大男が立っていた。
彼は、一応はパーティーと呼べるこの会場にはおよそそぐわない古ぼけたTシャツとジーンズという格

好で「いつもまともに読まれたことがないんで・・・」と言いながら、照れたように頭を下げた。


「えっ?・・・ということは、あなたがこの写真のカメラマン?・・・」
私は、驚きながら尋ねた。


「はい。俺が撮った写真です。急に声をかけたりして、すみません・・・俺の写真を見ながらお2人が盛

り上がってるみたいだったんでちょっと気になって・・・名前を読み間違えてくれて良かった!声をかけ

るきっかけになりましたから・・・」
彼は、笑顔でそう言ったあと、何も言わずに目を丸くしている私達の視線をどう捉えたのか慌てたよう

に付け加えた。
「す、すみません。こんな汚い恰好で・・・さっき山から下りてきたばっかりなんで・・・」


それが、惣介との出会い・・・


私は、その時、目の前でボサボサの髪をかきながら屈託なく笑う惣介と、写真の中のガラスに写った

哀しげな瞳のカメラマンとが、すぐには結びつかないでいた。
しかし、彼が肩に掛けているカメラを見た瞬間に、不意に同一人物だと気が付いた。

そして、その時から”栖原惣介”という名前とその姿が、私の心に焼き付いて離れなくなって行った。




―あれからもう4年もたつのね・・・


私は、入江直樹が置いて行った写真を見つめながら感慨深く思った。
そして、午後のカウンセリングの計画が途中だったことを思い出し、写真を封筒にしまおうとして何気な

く裏返した時、初めてそこに惣介からのメッセージが書かれていることに気が付いた。
そして、次の瞬間には私はカウンセリングルームを飛び出していた。


もうとうに間に合わないことはわかっていた。
これから大事なカウンセリングの仕事が待っていることも・・・

それでも、確かめずにはいられなかった。
こんな衝動に駆られる思いの正体を・・・自分の本当の気持ちを。



<まるで奇跡のような偶然の再会に思いを込めて、この写真を贈ります。

この写真の中の俺の本当の気持ちを言い当てたのは後にも先にも紗江子だけ・・・そして、紗江子の

かたくなな弱さを理解できるのは、あの頃からずっと俺ひとりだけ・・・たぶん今も、そしてこれからも>


メッセージの言葉は、惣介が今も私を愛していることを教えてくれた。

もう、自分から会いには行けないなどと言ってはいられない・・・

私は今こんなにも惣介に会いたいと思っているのだから。


次第に鮮明になっていく心の声に耳を傾けながら、私は外科病棟のナースステーションの中に桔梗

幹を見つけて呼び止めた。

そして、私の剣幕に何事かと目を丸くしている桔梗幹に尋ねた。


「幹ちゃん、教えて!・・琴子さんはどこ?・・・」


                                                      つづく


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


さて、いかがでしたか・・・はてなマーク


一条先生の恋の再燃に、直樹と琴子がしっかり絡んで、まさにキューブのAnother storyの世界らしく

なって来たでしょ!?


またいやらしい終わり方にしてしまいましたが、これがしたくて連載を書いているようなものなので、ど

うかご容赦くださいませ・・・にひひ


第5話は、今回ほど間をあけないようにがんばります!!

次回も、どうぞお楽しみに・・・音譜



                                                  By キューブ



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