読者のみなさまには、いつも私のお話を楽しみにしていただいて、ありがとうございますひらめき電球


さて、前記事で予告いたしました一条紗江子の物語、第1話が出来上がりましたので、早速のアップ

です・・・ニコニコ


まえがき的なことは、前記事「新作予告」の中で書きましたので、何の前振りもいいわけ(?)もなしで

のスタートですよ・・・にひひ

(前記事を読んでいない方は、ぜひご一読いただいてからお話を読んでくださいね)


果たして、この展開に一条紗江子ファンの方はどう感じていただけますか…o(;-_-;)oドキドキ


どうか、気に入ってもらえますように・・・(○ `人´ ○) タノンマスー!


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    一条紗江子物語・・・

   ~未来へ続く恋~ ≪1≫



人は誰も自分の未来を知ることはできない・・・


だから、その日も私にとっては、ただ単に昨日と明日を繋ぐだけの何の変哲もない”今日”という一日

として終わるのだと何の疑いもなく信じていた・・・


いつもより早く目覚めたわけでもなく、やけに寝覚めが悪かったわけでもなく、ワイドショーの星占いも

良くも悪くもなく、ましてや何か予感があったなどというわけでもなかった・・・

それでも、後になって思えば、やはりその日は私にとって、大げさではなく運命の日だったようだ。



そう・・・その運命の日、まず最初の兆しは、思いもかけず青く晴れ渡った空からもたらされた・・・




「一条先生、どうしたんですか?・・・」
桔梗幹が、いぶかしげな表情を浮かべて急に黙り込んだ私に聞いた。


「ねえ、これ何の音?・・・」
私は、不意に聞こえてきた聞き慣れない音に耳を澄ましながら、そこにいる誰にともなく聞き返した。


斗南大学付属病院の外科病棟のナースステーション前・・・
ランチタイムを終えて何人かのナース達と立ち話をしている時に、その音は聞こえてきた。


「ああ、ヘリコプターの音ですよ・・・ほら、最近この病院にも緊急搬送用のヘリポートができたじゃない

ですか!」
私と一緒になって耳を澄ませていた桔梗幹が答えた。


「あっ!そうだったわね。へえ、病院の中にいるとこんな風に聞こえるのね?・・・なんかもっと轟音が聞

こえてきそうだけど、意外とパラパラって軽い感じの音なのね・・・」
私は、妙なことに感心しながら、だんだんと近づいてくる音をじっと聞いていた。


「もう!一条先生ったら、何のんきなこと言ってるんですか!・・・本当にこの病院への緊急搬送なら大

変だわ。ナースの応援要請もあるかもしれないから、午後の引き継ぎ済ませておかないと!」
桔梗幹は、私に向かって呆れた表情で言うと、一瞬廊下の窓から空を見上げてからすぐにナースステ

ーションの奥に消えて行った。


私は、ナース達がバタバタと散って行ったのを潮に肩をすくめながらカウンセリングルームに戻った。
その時、ヘリコプターの音がちょうど頭上に到達して止まり、廊下を足早に通り過ぎる足音やナース達

の声が聞こえていたが、しばらくすると外科病棟はいつものように静かになった。


いったい、どんな患者が運ばれてきたのか・・・
病気なのか、怪我なのか・・・いずれにしても、こういった場合私の出番はしばらくない。
私は、別段気に掛けることもなく、ラウンジの自動販売機で買ってきた缶コーヒーの蓋を開けてひと口

飲むと、あと15分程でカウンセリングにやって来ることになっている入院患者のカルテをデスクに広げた。



ランチの後は、カウンセリングルームから一歩も出ることなく、3人の患者のカウンセリングとカルテの

整理であっという間に時間が過ぎて行った。
それでも、今日は時間外のカウンセリングの予定はない。


「さて、そろそろ帰るかな・・・」
私は、カウンセリングルームの壁に掛けられた時計を見上げてつぶやいた。


―ああ、定時で帰れるのって久しぶり・・・


私は、明日のスケジュールを確認してからカウンセリングルームを出ると、ドアの横に取り付けられた
『在室中』のプレートを裏返して『不在』にしてからドアに鍵をかけた。
そして、エレベーターで一階まで下り、職員用の出入り口に向かって歩いていると、良く知っている声が

私を呼び止めた。
「一条先生、今日は定時で上がりですか?・・・」


「あら、琴子さん。あなたも?・・・」
私は、私服の入江琴子に聞き返しながら、ふとあたりを見回した。
「今日は、幹ちゃんたちも同じシフトでしょ?・・・琴子さん一人なの?」


すると、入江琴子は少し不満げな顔で答えた。
「それがお昼過ぎに運ばれてきた患者さんの処置に外科のナースが何人か呼ばれちゃって人手不足

なんですよ~それで、幹ちゃんたちは少し残業なんです。」


私は、もうすっかり忘れてしまっていた昼の出来事を思い出してさらに尋ねた。
「それって、ヘリコプターで搬送されてきた患者さんのこと?・・・」


「はい。何かどこかの山での滑落事故の患者さんらしいですよ。地元の病院では設備がなくてここまで

運ばれてきたみたいです。入江君もオペに加わって、ついさっき終わったって聞きました・・・私はこれな

んで、応援によばれることもなく普通に定時であがれちゃったんです」
入江琴子は、少しふっくらとして来たお腹を擦りながら照れたように言った。


「そうね、あと少しで産休でしょ?・・・無理は禁物よ。大事にしてね」
「はい!」


―山の滑落事故?・・・


私は、その言葉の響きに少しドキリとしながら入江琴子と並んで歩き始めた。


「一条先生!今日はこの後何か用事があるんですか?・・・デートとか?・・・」
入江琴子の探るような問いかけに私はほんのちょっとためらってから「な、ないわよそんなの・・・」と答

えた。


「それなら、少し付き合ってくださいよ~幹ちゃんたちがもう少しで上がれるからラウンジで待ってろって
言うんですけど、一人じゃ寂しいから・・・」
入江琴子は、私の返答に顔を輝かせると強引に腕を組んで歩き出した。


―たまに定時で上がれても、デートの予定も何もないのってなんだか情けない・・・


幸せ絶頂の入江琴子に私の複雑な胸の内などわかるはずもない・・・

私は、特別断る理由も見つけられず、苦笑いを浮かべながら入江琴子に引っ張られるようにラウンジに

連れて行かれてしまった。

夕方のラウンジは、職員たちの休憩スペースとしてだけ解放されている。
昼間には、ビュッフェスタイルの食事が並ぶカウンターも、キッチンスタッフが忙しく動き回る厨房も今

は明かりが落とされ、顔見知りの職員が二組ほど雑談をしている以外は誰もいなかった。
私と入江琴子は、ラウンジの隅の自動販売機で紙コップのコーヒーを買うと入口に近い席に向かい合

って腰かけた。
そして、他愛のない話に花を咲かせながら30分程過ぎた頃、桔梗幹と他2人のナース達がラウンジに

現れた。


「残業、お疲れ様。そんなに重症の患者さんだったの?・・・」
入江琴子は、疲れ切った表情で席に腰かけた桔梗幹やナース達に聞いた。


「もう、なんだか今日は外来の方もたくさんの患者さんが来てて、手薄なところにあちこち回されてきた

わ。救急の患者さんは、それはすごい怪我だったみたいで、一時は外科の先生総登場だったみたいよ」
桔梗幹がヤレヤレといった風に答えた。


「それで?・・・その患者さんは?・・・」
私は、横から言葉を挟んで結論を急かした。


「そりゃあ、入江先生や西垣先生がオペしたんですからもちろん助かりましたよ~!特に入江先生の処

置は見事だったってオペに入った先生方が口々に言ってました。あの患者さんここに搬送されてきてラ

ッキーでしたよね」
桔梗幹は、まるで自分のことのように自慢げに言った後、入江琴子に向かってウィンクをして見せた。


「そっか!よかったぁ~!それで入江君は?・・・今日はホントは日勤で一緒に帰れるかなって思ってた

んだけど・・・」
入江琴子は手を叩いて喜びながら、さらに桔梗幹に聞いた。


「どうかな~?結局、入江先生が担当医になるみたいだったし、さっきワタシ達が上がる時は搬送の時

に付き添って来た人に経過の説明をしてたみたいだったから、今夜は泊りじゃない?」
桔梗幹が無責任に結論付けた話しに入江琴子が「ええ~」と不満げな声を上げた。

そこにいるみんなは、またかというように呆れた視線を向けたが、彼女のふくれっ面を見て一斉に笑い

出した。


「それはそうと、その付き添ってきた人見た?・・・」
桔梗幹が、笑っているままみんなの顔を見回しながら言った。


「見た見た!・・・なんだか熊みたいな人!」

別のナースが食いつくように答えた。


―えっ?・・・熊?


私が目を丸くしていると、桔梗幹も含めてそこにいたナース達が口々に話し始めた。


「そうそう!顔中ヒゲだらけで!」
「髪の毛もボサボサで!」
「あはは!・・・顔も手も日焼けで真っ黒!!」


私はドキドキとしながら、大笑いしているみんなの会話を聞いていた。
なぜなら、そういった風貌を想像する時、私にははっきりと浮かぶ顔があったから・・・


そして、ナース達の会話の続きを聞いている内に、私の鼓動はさらに早まって行った。


「私、あの人知ってますよ!・・・雑誌に載ってました!」
また別のナースが言った。


「えっ?あの熊が?・・・有名人なの?・・・」
桔梗幹が興味津々といった面持ちで聞く。


「有名人っていうか・・・プロのカメラマンですよ。山の綺麗な写真を撮る山岳カメラマンです・・・確か名前

は・・・」
そう言いながら、そのナースはバッグの中から一冊の山岳雑誌を引っ張り出してページをめくり始めた。


―えっ?・・・カメラマン?


「なんでそんなこと知ってるのよ?」という桔梗幹の問いかけに、そのナースは「実は最近登山を始めた

んです」と楽しげに答えた。


そして、目当てのページを見つけるとテーブルの上に広げてそのカメラマンが撮ったという夕日に紅く染

まる山の写真を指差した。
「これです。たしか次のページにその人の写真も載ってたと思うけど・・・この写真で世界的な何とかって

いう賞を取ったみたいですよ」


―まさかね・・・


しかし、次のページがめくられると、私の視線はそこに現れたカメラマンの写真に釘付けになって動けな

くなった。


「ああ、ホントだ!ヒゲがないけど確かにこの人だわ!!」
桔梗幹が指をさして笑っている声を遠くに聞きながら、私の脳裏には過去の様々な場面が浮かんでいた。


「ん?・・・この名前何て読むの?・・・”せいばら”かな?それとも”すばら”?」
入江琴子が、恥ずかしそうにみんなに向かって聞いた。


その写真の横には「栖原惣介」という名前と彼のプロフィールが書かれていた。



『初対面で、まともに名前を呼ばれたことがない・・・』
彼は、そう言って、よく苦笑いを浮かべていた・・・



「それで”さいばら”って読むのよ・・・”さいばらそうすけ”・・・」
私は、ほとんど無意識の内に答えていた。
そこにいた全員が、一瞬にして私に注目するのがわかった。


「えっ?・・・一条先生も知ってるんですか?この人。」
入江琴子が、私の顔を覗き込むようにして聞く。


―知ってるも何も・・・


私は、曖昧に微笑むと返事を濁すつもりで、入江琴子に向かって首を横に振った・・・
しかしその時、あまりにも絶妙なタイミングで、懐かしい声が私の名前を呼ぶのが聞こえた。


「紗江子?・・・紗江子なのか?・・・」


―えっ?・・・


あの頃と変わらない、低くて優しい声・・・


あまり驚いていない自分が不思議だった。

それでも指先が震えて来るのを感じながら、私はゆっくりと声のした方へ顔を向けた。
ラウンジの入口で、目を大きく見開いた”彼”が立ってこちらを見ていた。



『俺が愛したのは・・・生身の一条紗江子だったのに・・・』
何度も夢に現れた別れの場面が蘇り、彼が最後に言った言葉が耳の中でこだましていた。



一番最初は、どうしてこんな入口に近いところに席を取ったのだろうと、変な後悔が頭を過った。
久しぶりに名前を聞いて、一瞬の内にたくさんの思い出が蘇って、今まさに彼がこの病院の中にいるの

だということにまで考えが及ばなかった自分を呪った。


「山岳カメラマン」という言葉を聞いた時点でここから立ち去っていれば良かった・・・
せめて名前が出たところですぐにラウンジを出ていたら、ほんの一瞬の差で会わずに済んだかもしれ

ないのに・・・
違う・・・元を正せば、せっかく定時で上がれたのだから、そのまま病院を出ていれば・・・


どこで切り取って悔やんでも、もう逃げも隠れもできない状況の中で、私は観念してゆっくりと立ち上が

った。


「そうよ、惣介・・・私よ・・・」
私は、なんとか返事を絞り出した。


どこか後ろめたい思いが先に立って、まともに惣介の顔を見られない・・・


それでも、何とかひきつった顔を上げた私をまっすぐに見つめ返していたのは、思いもかけずあの頃

と同じ、彼の屈託のない笑顔だった・・・



                                                      つづく


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さて、いかがでしたか・・・はてなマーク


「瞳に映っていた真実」の続編ともいえる作品ですが、続きが気になる展開になっていたでしょうか・・・


このブログにとってなくてはならないキャラクター・一条紗江子。

いつかはこの人をじっくり書いてみたいという思いが叶って、今はとても嬉しい気持ちです。


いったい何話のお話になるのか正直今回はまったく自分でもわかりません・・・2,3話で終わってしま

うかもしれませんし、長編になりそうな気もしますし・・・

次回以降、これまでなかなかご登場願えなかった「あの方」にも出番を用意しています。

・・・誰のことかなぁ~( ̄▽ ̄) ニヤ


相変わらずのキーボードまかせですが、この作品で夏を燃え尽きたいと思います・・・ニコニコ

もしお気に召していただけましたら、ぜひ感想などお聞かせくださいませ。


次回もどうぞお楽しみに・・・音譜



                                                  By キューブ



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