読者の皆さまには、いつも私のお話をたのしみにしてくださいまして、ありがとうございますひらめき電球


さて、すぐにアップ出来ると申し上げていたにも関わらず、お待たせしていた「ク・ジュンピョ編」が、書

き上がりましたので、どうぞお読みください。


で・・・今回のお話は、ご期待通り(?)長くなってしまったので「中編」とさせていただきます。

ただ、お話自体は全部を書きあげていますので、「後編」もすぐにアップいたします。


どうぞ、お楽しみいただけますように・・・ニコニコ


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  ~F4 After 3year story~ -ク・ジュンピョ編 <中編>-



俺は、会場に入るとまずは中をぐるりと見渡した。
フロアの中央に広いスペースが取ってあり、すでに何組かのカップルがダンスを踊っていた。
そして、そのスペースを囲むようにビュッフェスタイルの食事が用意され、招待客たちは思い思いの皿

やグラスを持って歓談していた。
その中に母とヌナが、親しい招待客と挨拶を交わしてるのがすぐに目に入った。
しかし、その近くにジャンディの姿はない・・・


勢いで会場に戻ったはいいが、正直何と言ってダンスを申し込もうかと思案していると、背後から聴き

なれた声が、親切にもジャンディの居場所を教えてくれた。

「中庭に出る扉のところです」


「ん?・・・チョン室長。今までどこにいた?」
俺は、いつも俺のそばに控えているこの男が、今日はずっといなかったことに今になって気付いた。


「はい、本日は朝から旦那様のおそばをなかなか離れられず申し訳ありません」
チョン室長は、静かに頭を下げると、今度は手で指し示しながら-ジャンディ様はあちらです-と言った。
会場からは、そのまま噴水のある中庭にも出られるようになっていて、ステンドグラスのはめ込まれた

大きな扉が開け放たれていた。
見ると、確かに中庭を眺めながられる場所で、父の車椅子の横に座って何やら楽しげに話しているジャ

ンディがいた。


それは、ある種不思議な光景だった。
神話グループの元総帥と庶民代表のようなクム・ジャンディ・・・
2人は、遠巻きにしている招待客たちの好奇の視線にさらされながら、なぜかそこだけは空気の色さえ

も違っているように見えた。
そして、穏やかでありながら、誰もが近づきがたい雰囲気を醸し出していた。


俺は、次々に声をかけてくる招待客からの挨拶に適当に答えながら、しばらく父とジャンディの姿を見

ていた。
そして、俺がアメリカに行っていた4年間と、ジャンディにプロポーズしてからの3年間を合わせた中で

も一番衝撃的だったひとつの場面を思い浮かべていた。




父が覚醒したという知らせを受けたのは、アメリカに発って半年が過ぎた頃のことだった。
すでに母は会長職を退き、俺自身はまだ慣れないアメリカでの生活と仕事との両立で多忙を極めてい

た時期だった。
それでも、とるものもとりあえず帰国した俺は、植物状態だった父と初めて対面した神話ホテルの一室

で、まるで奇跡のように目を開き、俺に向かって手を差し出す父と再会した。


そして、父の傍らに母とジュニヌナと俺の3人が揃ったところで、今俺の隣に立っているチョン室長から

聞かされた真実・・・


チョン室長は、俺たち家族に向かって-皆様に見ていただきたいものがあります-と言って、一枚の

DVDを取り出した。
それは、父の部屋に付けられた監視カメラの映像で、モニターに表れた映像にはまだ寝たきりだった

父が映っていた。
そして、俺達を何よりも驚かせたのは、その父の傍らにジャンディがいたことだった。
呼吸器を付けられ身動きひとつしない父に向かって、ジャンディは親しげに話しかけ、詩集を朗読し、

爪を切ってやり、顔を拭いてやっていた。


そして、チョン室長は一旦映像を停めると、静かに言った。
「今からご覧頂く映像をよくご覧ください。この時が旦那様がお目覚めになる最初の兆候を示した時で

ございます」


再び動き出した映像に映っていたジャンディには見覚えがあった。
そう・・・それは、突然ピクニックに行こうと俺を誘いに来た日のジャンディだった。
そして、ジャンディが父に別れを告げ、部屋を出ていった瞬間、父の右手が動いているのをカメラは確

かに捉えていた。


蒼ざめる母。
あまりの衝撃に言葉も出ないジュニヌナ。
そして、俺はそこに映る懐かしいジャンディを食い入るように見つめながら、あらためて苦しい程の愛お

しさを感じていた。


あの日、俺は幸せの絶頂から不幸のどん底に突き落とされた・・・
しかし、あの日のジャンディは、何もわからない父にもこんな風に別れを告げ、一人では抱えきれない

程の苦しみと悲しみを隠して俺を誘いに来たのだということを、俺はその時初めて知った。


映像が停止したモニターを見ながら、薄らと目に涙を浮かべたチョン室長が言った。
「この映像をご覧頂いたからと言って何をどうこうしようとは思いません。ただ、ジャンディ様と出逢って

坊っちゃんがどれ程変わられたかを奥さまもよくご存じのはずです。そして、今、旦那様もジャンディ様

にもう一度会えることを望んでいらっしゃいます・・・」
それは恐らくチョン室長の自らの進退をかけた告白だったと俺は思っている。


チョン室長の言葉に父を見ると、父は俺たちに向かって微かに頷いた。
俺にはそれで充分だった。
この日を境に母は俺とジャンディのことに一切口を挟まなくなった。
そして母は、父のリハビリに献身的に付き添い、俺がアメリカから帰ってくるのと入れ違うようにして、2人

でマカオに移り住んで行った。
今では、父は順調に回復し、足が不自由なだけで会話も食事も普通に出来るようになっていた。


あの時、母の心に何が起こったのかはわからない・・・
ただ、今の母が時折見せる穏やかな笑顔は、神話グループのトップに君臨していた頃の冷酷な母には決

して見られなかったものだった。


ジャンディは、随分後になってからあの寝たきりだった「おじさん」が、俺の死んだはずの父だったと聞

かされて、酷く驚いたようだった。
しかし、あの頃倒れてもなお神話グループのためにその身を犠牲にしていた父のことを、それとは知ら

ずとはいえ、心から心配し、ただ純粋に回復することを祈ってくれたのはジャンディだけだったに違いない。
訪れる人もなく、寂しい「おじさん」をずっと励まし続け、再び生きる力を与えたのは間違いなくジャンディ

だったのだから・・・




「おい、室長。ジャンディと親父はいつからあんなに仲がいいんだ?」
俺は、やきもち半分で聞いた。


「さあ、おそらく旦那様がまだ寝たきりだった頃からでしょうね・・・なんせ、ジャンディ様は旦那様によく

悩み事を打ち明けていらっしゃいましたから・・・」
チョン室長が、大真面目に答える。


「なあ?・・・ジャンディが今日ここへくることを当然お前も知ってたんだよな?・・・」
「はい、申し訳ありません・・・」
チョン室長は、平然と謝り、頭を下げた。


「くそっ、どいつもこいつも!!」
俺は、悪態をつくとチョン室長を睨んだ。


でも・・・俺はこの男に頭が上がらない。
この男なくして、今の俺はあり得ない・・・


俺は、口元に微かに笑みを浮かべて俺を見ているチョン室長に向かって、それでも精一杯の虚勢を

張るつもりで-ついて来るなよ-と釘を刺してから、ジャンディにむかって歩き始めた。
途中、俺に話しかけようとする奴らに肩を叩かれ、行く手を遮られても立ち止ることなく真っ直ぐに・・・


ジャンディと父の前に立つと、2人が同時に顔を上げた。
俺は父に向かって軽く頭を下げると、右手をジャンディの前に差し出した。
「何よ?・・・」
ジャンディは、俺がさっきの話しの続きをしに来たと思ったのか、舌を出さんばかりの勢いでそっぽを向

いた。
それでも俺が手を引っ込めずにいると、今度は不思議そうな顔をして父が言った。
「何だジュンピョ?」


俺は、あえて父に向かって言った。
「ジャンディとダンスを・・・」


「えっ?・・・」
ジャンディが驚いた顔で俺を見上げる・・・


「ほほう。私も足が不自由じゃなければ踊りたいくらいだ・・・ジャンディ、行って来なさい」
笑顔の父に促され、ジャンディは怪訝な表情を浮かべながらも俺の手を取って立ちあがった。


俺は、何も言わずにジャンディの手を引いてホールの中央に出た。
会場中の視線が、今度は俺たちに移ったのを感じたが、そんなことは知ったことじゃない。
俺は、片手をジャンディの背中に回し、もう片方の手を伸ばして繋ぐと、流れてくるワルツのリズムに合

わせて足を踏み出した。

ターンするたびに、ジャンディの淡いブルーのワンピースの裾がゆるやかなドレープを描いて回った。


ジャンディは、少し照れた顔で俺を見上げた後、小さな声で囁いた。
「機嫌なおった?」


俺は、顔を横に向けたまま答えた。
「なおらねえ」


「じゃあ、何で踊ってるの?・・・」
ジャンディが不服そうに聞いた。


「あいつらにハメられた・・・」「えっ?・・・」
俺は、ジャンディの視線を誘導するように、やたらと人だかりがしているテーブルに目を向けた。
その真ん中には、イジョン、ウビン、ジフがいるのが見えた。
ジャンディは、一瞬目を丸くして、それから-あはは-と笑った。


「だいたい何だよ。俺だけがお前がここに来ることを知らなかったんだぞ」
「えっ?・・・私、カウルとジフ先輩にしか言ってないよ!・・・」
「はあ?・・・」
俺が呆れてジャンディを見降ろすと、ジャンディは-あっ!-と声を上げてから苦笑いを浮かべながら

言った。
「これじゃ、全員に言ったのと同じだね・・・ごめん」


そして、ジャンディは俺の顎の下から、内緒話のように今日ここに来ることになったいきさつを話し始めた。


このパーティーのことは、ジュニヌナから聞いただけで母からは何も言われてはいないこと。
ジュニヌナも決して無理に出てくれとは言わなかったこと。
元気になった父に会えるならと自分の意思で出ることを決心したこと。
自分が出るといえば、俺が怒ると思い、なかなか言い出せずに今日になってしまったこと。
出ると決まれば、俺のフィアンセとして恥ずかしくないようにと奮起して、ジュニヌナにダンスやマナーの

レッスンを頼んだこと。


弦楽四重奏団が奏でるワルツが4曲目に差し掛かったところで、やっと話しは終わった。
その間、一度も躓くことなく、足を踏まれることなくジャンディが踊っていたことに、俺はその時になって

初めて気が付いた。
ジャンディは-なんだか目が回っちゃった-と言って笑った。


「納得した?・・・」
少し息が上がったのかジャンディは胸を抑えながら聞いた。


今ジャンディが話したことが全てなら、ちゃんと聞いてやれば、それで済むようなことだった。
結局は、いつも俺だけが空回りをして、最後にはジャンディの笑顔にほだされる・・・
ただ、今回ばかりはまだ納得できてはいなかった。


そう・・・ジャンディはまだ一番肝心なことを言っていない。


<なあ・・・もういいってことじゃないのか?>


ジフの言った言葉が頭の中をかすめた。


「ところで、お前・・・」
俺は、ともすればジャンディの両腕をしっかり捕まえて話したいような気持ちを抑えながら、ゆっくりと話

しを切り出そうとした。


「ん?・・・」
ジャンディが、首を傾げながら俺を見る・・・
しかし、まさにそのタイミングで、背後からジフの声が聞こえた。
「ジャンディ!・・・次は俺達と踊ってよ」


―なんだよ!また邪魔かよ!!


俺が怒りもあらわに勢いよく振り返ると、こっちの気持ちなどお構いなしといった様子でいつもの3人が

立っていた。


「おい、ジフ!抜け駆けするなよ・・・ジャンケンで勝ったのは俺だぞ」
イジョンがそう言いながらジフを退けると、有無を言わさずジャンディの手を引いてフロアに連れていっ

てしまった。
ジフが残念そうな目を向け、ウビンはジフの肩を叩いて笑っている。
しかし、その瞬間、俺はあたりを見回して驚いた。
きっと俺とジャンディが踊り始めた時からずっとそうだったのだろう・・・会場中の視線は今俺たちがいる

場所ただ一点に注がれていた。
だから今、あえて邪魔をされたことが、ジフ達の助け舟だったのか、それともただジャンディと踊りたか

っただけなのかはわからない。
それでも俺は、イジョンを相手に流れるように踊るジャンディを見つめながら、今ジャンディを問い詰め

るのはあきらめた方が良さそうだと思いなおしていた。



                                               つづく


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


さて、いかがでしたか・・・はてなマーク


あとがきは、「後編」の後に書かせていただきますね。

また、「後編」も今日中にアップいたしますので、この「中編」のコメ欄は閉じさせていただいています。

もし、感想などお聞かせいただけるようでしたら、「後編」のコメ欄にお願いいたします。


では、「後編」をアップする準備を始めます。

つづきをお楽しみに・・・音譜



                                                By キューブ



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