読者の皆さまには、いつも私のお話しを楽しみにしてくださいまして、ありがとうございます
さて・・・まるで連ドラのように週1話の感じになって来ましたが、第2話ができあがりましたので、
どうぞお読みください。
自分にも経験があるので、遠い(?)昔を懐かしく思い出したりしながら書きました。
妊娠初期に限らず、初めて赤ちゃんが出来た時って、ホント些細なことが不安のタネになるんで
すよね~
これが2人目3人目ともなると、なんともなくなっちゃうんですが・・・(≧m≦)ぷっ!
エピソードとしては、ちょっとあり得ないかなとも思うのですが、不安になる琴子の心情としては、
リアリティーがあるんじゃないかと思います。
どうか、お楽しみいただけますように・・・
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
~”愛してる”のチカラ~ ≪2≫
-<1>-
「ねえ、パパ?・・・なんだか琴子ちゃんが昨日から変なのよ・・・」
紀子は、ダイニングテーブルに朝食の準備をしながら言った。
「えっ?・・・琴子ちゃんが?」
新聞を読みながらコーヒーを口に運んでいた重樹が顔を上げて紀子を見た。
「ええ、昨日病院にしばらく休む挨拶に行ったんだけど、夕方帰って来てからなんだか元気がな
いの・・・お兄ちゃんはまたICUに詰めててしばらく帰れないみたいだし心配だわ・・・」
紀子は、まだ起きてこない琴子を思って階段へと視線を投げた。
すると、当の琴子がぼんやりとした顔で階段を下りてくるのが見えた。
「あら、琴子ちゃん起きたの?・・・」
「あっ、お義母さん、おはようございます」
琴子は、まるでその瞬間に紀子の存在に気付いたように、驚いた顔で挨拶をした。
「琴子ちゃん、何かあったの?・・・」
紀子が、心配顔で琴子の目を覗きこむと、琴子はあきらかに無理やり作った笑顔を向けて答えた。
「べ、別に何もないです・・・昨日は久しぶりにたくさんの人に会って興奮しちゃったみたいで、逆に
あんまり眠れなくて・・・」
「そ、そう?・・・それだけならいいけど・・・」
紀子は、それでも心配そうな表情を崩さずに琴子を見つめていた。
昨夜は、直樹のいないベッドでひとり長い夜を過ごした。
<責任重大よね・・・>
なぜ、この言葉がこんなにも心に刺さっているのか、琴子自身にもよくわからなかった。
これまでにも、天才と呼ばれ誰もが振り返るイケメンの直樹とは不釣り合いだと陰口を言われたり
面と向かって中傷されたこともあった・・・それでも、何よりも自分の直樹への強い想いと直樹の時
折見せてくれる深い愛情を信じてここまで来た。
―それなのに・・・
琴子は、ふと思いついてダイニングテーブルの紀子と重樹に尋ねた。
「あ、あの・・・お義父さん、お義母さんは、どんな赤ちゃんだったらいいなって思いますか?・・・」
「えっ?・・・どんな赤ちゃん?・・・」
重樹は、琴子の質問に少し驚いたようにマジマジと琴子の顔を見た後、満面の笑みを作って答えた。
「どんな赤ちゃんだって五体満足に産まれてくれたらそれでいいさ」
「そうよね~まずは何よりも健康であること。それで琴子ちゃんによく似た可愛い女の子が産まれ
てくれたらママは大満足だわ」
紀子も、人差し指を唇に当てながら楽しげに答えた。
琴子は2人の言葉に涙が込み上げてくるのを感じた。
そして、瞬間的に聞き返していた。
「な、直樹くんに似てなくてもいいんですか・・・?」
「何を言ってるの琴子ちゃん?・・・そんなの当たり前じゃない!むしろお兄ちゃんに似てない方が
いいわ・・・あの性格が遺伝したら大変よ」
紀子は、おどけながら答えた。ところが、突然涙を浮かべた琴子に驚いた紀子は、隣の椅子に座
ると琴子の肩を抱いて優しく問いかけた。
「琴子ちゃん?本当にどうしたの?誰かに何か言われた?・・・何か心配事があるなら何でもママ
に話してね・・・」
「大丈夫です・・・ホントに大丈夫・・・」
琴子の瞼に溜まった涙が、耐えきれずに一筋頬を伝った・・・
-<2>-
「やぁ、琴子ちゃんじゃないか!・・・しばらく休みだって聞いたけど、今日は何?・・・」
外科病棟の廊下を歩いていた琴子は、前から歩いて来た西垣医師に声を掛けられた。
「西垣先生、こんにちは。今日は引き継ぎで来ました。もう終わったので帰るところです。」
「そうか・・・いやぁ、おめでただってね。入江の奴黙っていやがって、俺も昨日知ったんだよ。
おめでとう。大事にな。」
「ありがとうございます・・・じゃあ、失礼します」
琴子は、西垣医師に頭を下げると、歩き出そうとした。
ところが、すれ違いざまに西垣医師が言った言葉に、琴子は思わず立ち止ってしまった。
「これで天才の血が次の世代に受け継がれるんだな・・・」
「えっ?・・・」
「いやぁ、実に楽しみだ。琴子ちゃん、頑張って入江直樹を超える天才を産んでくれよ。みんな期
待してるんだから。」
―みんな?・・・期待?・・・
琴子は、今朝紀子や重樹に励まされて持ち直した気持ちが、再び沈んでいくのを感じていた。
<責任重大よね・・・>
再び、昨日のナースの言葉が頭の中に蘇った。
急に黙り込んでしまった琴子を、不思議そうに見ながらさらに西垣医師が言った。
「それにしても、入江も少しは嬉しそうな顔すりゃいいのに、”まあ、そういうことです”なんて、照れてん
だろうけど、そんな時でもクールに決めやがって・・・本当は喜んでるんだろうけどな・・・」
「そ、そうですか・・・」
その時、言葉に詰まっている琴子に助け船を出すように、背後から聞きなれた声が割って入ってきた。
「西垣先生!なんてこと言ってるんですか?・・・」
振り返ると、そこには苦笑いを浮かべた一条紗江子が立っていた。
「おお、これはこれは一条先生。俺は何か怒られるようなことをいいましたかね?」
西垣医師は、いきなり𠮟責されたことに心外だと言った表情を浮かべた。
「あたりまえじゃないですか。まだ妊娠初期の妊婦にそんな不安を煽るようなことを言って。ごら
んなさい、琴子さんの表情が曇ってしまって・・・西垣先生のいうことなんか気にしないでいいわ
よ・・・さっ、行きましょ琴子さん。」
一条紗江子は、琴子の肩を抱いて歩き始めた。
「あっ、お、おい・・・俺は別に悪気は・・・まいったな・・・」
西垣医師は、去っていく2人の背中をしばらく眺めながら、頭をかいていた。
<本当は喜んでるんだろうけどな・・・>
―そう言えば・・・
琴子は、西垣医師の言葉にふと思うことがあった。
妊娠がわかってから1週間が過ぎていたが、直樹と一緒に過ごせたのは、直樹が今重症患者を
抱えていることもあって妊娠検査に行った日と、あとはほんの数日・・・いや、数時間と言ってもい
いくらいの時間しかなかった。
だからというわけではないが、琴子の妊娠を喜ぶ直樹の言葉を聞いた覚えが琴子にはなかった。
―入江君、喜んでるよね?・・・そんなの当たり前だよね・・・?
「さぁ、座って。コーヒーでも・・・あっ、妊婦さんにコーヒーは良くないわね。緑茶でも入れるから」
「えっ?・・・あ、ああ、はい。」
一条紗江子の声にふとあたりを見回すと、琴子はいつの間にかカウンセリングルームに連れてこ
られていた。
手早く入れた緑茶の茶碗を琴子の前に置いて、テーブルをはさんで反対側のソファに腰掛けた一
条紗江子は、口元に優しげな笑みを浮かべて琴子の顔を覗きこんだ。
「さあ、話そうか?・・・」
「えっ?・・・」
「今、その中に溜まってること、全部私に話しちゃいなさい・・・そのままだとマタニティーブルーにな
っちゃうわよ」
一条紗江子は琴子の胸の真ん中を指差しながら、笑顔のままそう言った。
「マタニティーブルー?・・・」
「そう・・・あなたには一番似合わない心の病気よ・・・」
-<3>-
<引き継ぎは終わったよ。顔を見たくてオフィスを覗いてみたけどいないから帰るね・・・今度はいつ
帰ってくる?会いたいな・・・>
直樹は、ICU近くの待合室で自動販売機のコーヒーを飲みながら琴子からのメールを読んでいた。
メールが送信された時間を見ると、すでに3時間が経っている。琴子はもう家に着いているだろう・・・
―それにしても、このメールなんだか変だな・・・
内容には別段変わったところはない・・・でも、いつもと何かが違うと直樹は感じていた。
直樹は、もう一度琴子からのメールを読みなおした。
―あっ、そうか!
そう・・・
そのメールには、いつもなら文章ごとにうるさい程に付いている絵文字がひとつもなかった。
―何かあったのか?・・・
いつもならほとんど無視してしまう琴子のメールだが、不思議と何の躊躇もなく、面倒くさいとも思わ
ずに直樹は返信の画面を開いてた。
「琴子さんからのメールですか?・・・」
その声は、不意に直樹の頭上から降って来た。
今まさに文字を打とうとしていた直樹は、顔をしかめながら顔を上げた。
「こんにちは、入江先生」
目の前ににっこりと笑った一条紗江子が立っていた。
「カウンセラーのあなたがICUに何の用ですか?」
直樹は、そのまま携帯を閉じてポケットにしまいながら言った。
「ええ、入江先生の顔を見に・・・」
「えっ?・・・」
お互いの心を探るような会話。
こんな時、一条紗江子は何かを気づかせようとしていることを直樹はよくわかっていた。
そして、直樹は一条紗江子の意図するところをすぐに察知して聞き返した。
「琴子に何かあったんですか?・・・」
一条紗江子は、自動販売機でコーヒーを買いながら答えた。
「どうしてそう思われるんですか?・・・琴子さんからのメールに何かそれらしいことが?・・・」
「オレの質問に答えてください」
直樹のいつになく強い口調に、紗江子は少し驚きながら振り返った。
「なるべく早く顔を見に帰ってあげて下さい・・・それだけを言いに来ました。まあ、その様子だともう
何かを感じられてるみたいなので、私の出る幕じゃなかったようですけど・・・それじゃ」
紗江子は、紙コップを持っままきびすを返すとICUを出て行った。
―琴子・・・いったい何があったんだ?
直樹は空になった紙コップを握りつぶすと、一瞬携帯を出そうとポケットに手を入れてから、すぐに
思いなおしてICUの中に戻って行った。
つづく
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さて、いかがでしたか・・・
キューブ的には、今回のツボは直樹と一条先生のやり取りですね~(≧m≦)ぷっ!
この2人の探り合いの会話を書くのが大好きなんですよ~
さぁ、一応予定としては次回がFinalとなります。
ただ、これまたキーボードまかせなので、もう一話という場合もあるかもしれません``r(^^;)ポリポリ
そのあたりは読者の方もよくご存知ですよね・・・
今回は、琴子にさらに追い打ちをかけてしまいましたが、「だからこそ」のFinalをどうぞ楽しみに
していてくださいね・・・
★コメレス放置していてスミマセン・・・
まとめレスになると思いますが、今もうひとつ書いてる記事が書き上がりましたら、必ずお返事しますので、
どうか、もう少しお待ちくださいm(_ _"m)ペコリ
By キューブ
blogramのランキング参加しています。