読者の皆さまには、いつも私のお話を楽しみにしてくださいまして、ありがとうございますひらめき電球


さあ、いよいよ「天才の涙・・・」がこのお話で最終回となります。何だかんだと言いながら、全7話

の大作となりました。

このお話の連載を始める前の「予告編」で、プロセスを楽しんでいただくお話だと申し上げたのを

覚えていらっしゃるでしょうか・・・


この最終話を読んでいただいて、これまでのプロセスあっての結果だと納得していただけると良い

のですが・・・あせる


まずは、どうぞお読みくださいませ・・・どうか、お楽しみいただけますように音譜


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


   ~天才の涙・・・ -最終話-~


 -<1>-


「行くのか・・・」
直樹は、ダイニングの椅子に腰かけたまま、傍らに立った琴子を見上げた。


「うん・・・なんだか今さらだけど、入江君が夜勤でいない時にすれば良かったって後悔してるよ・・・

見送るのも見送られるのも、別れに変わりはないもんね・・・」
琴子は、泣き笑いの表情を浮かべて直樹の肩に手を置いた。


直樹はそんな琴子を、目に焼き付けるようにじっと見つめていた。


「琴子ちゃん、時間よ・・・」
母の呼ぶ声に琴子は「はい」と返事をすると、おもむろに直樹の手を取って自分のお腹に当てた。


「大分膨らんだのがわかるようになったでしょ?・・・次に会うときはもうこの中にはいないかもしれ

ないんだから、ちゃんとこの感触を覚えておいてね」
琴子が、目を潤ませながら懸命に微笑みながら言った。


「ああ、覚えておくよ・・・」
直樹は、今にも震えだしそうな手で琴子のお腹を撫でると、その感触を心に刻むようにしばらく目

を閉じてじっと手を当てていた。


「じゃあ、私行くね・・・そして入江君も行ってらっしゃい。メールするからね、それから電話も、それ

から、それから・・・だめだ、もう泣いちゃいそうだから、ホントに行くね」


そして、琴子は精一杯の笑顔で手を振ると、小さなバッグをひとつ持って出て行った。

紀子が琴子を送る声が聞こえて、玄関の扉の閉まる音が聞こえたあと、急に家の中が耳が痛い

ほどに静かになったのを感じた。
結局、直樹はその場から立ち上がることができなかった。
立ちあがったら、そのまま琴子を抱きしめて離したくなくなりそうな気がしていた。


自分で決めたことなのに、こんなに最後まで迷い続けていたことが今まであっただろうかと直樹は

自嘲気味に笑った。
そして、こうして琴子の背中を見送った今でさえ、追いかけて行きたい衝動をずっと堪えている自

分を、どこかで認められずにいることもわかっていた。



直樹は、重い足取りで自分の部屋に戻ると、数日後には主が2人ともいなくなる部屋を見回した。
自分がアメリカに持っていく荷物が部屋の隅にある以外、これまでと何の変りもない部屋なのに
そこには確実に足りないものがあった。
もちろん、それが琴子だということくらい十分にわかっている。


そして、直樹がもう一度部屋の中を見回した時、ふと何かが目の端に引っ掛かって、直樹は少し

前に見たものに視線を戻した。


―何が気になったんだ?・・・


そして、それがアメリカへ持っていく荷物の外ポケットから覗いているピンク色の封筒の端だと気づ

いた時、直樹は素早くそれを抜き取って中身を引き出した。


B5サイズの花模様の便せんに、琴子の丸い文字がびっしりと並んでいた。
<入江君にちゃんと手紙を書くのは、初めてのラブレター以来2度目だね・・・>
そんな文章ではじまった手紙には、琴子の想いが溢れていた。


本当は離れたくないこと、でも直樹には立派な医者になってほしいと思っていること、それが自分

の夢だから我慢していること、大好きだと、愛していると・・・


そして、この手紙もアメリカから帰ったらオフィスのデスクにしまおうと思いながら、最後の文に視

線をおとした時、直樹は大きく目を見開いてその文を食い入るように読み返した。



私のドレッサーの引出しをあけると、つい2日前に受け取ったばかりの

パスポートが入っています。

                        

本当は入江君がアメリカに行った後、絶対に入江君を追いかけて行こうって

思ってこっそり取ったの・・・怒らないでね。
でも、それはきっとまた入江君に心配をかけてしまうことだからやめました。
ただ、もし入江君が寂しくて私に会いたくなったら、私にそばにいて欲しい

って思ったらすぐに私を呼んでね。

その時、すぐにアメリカへ行くためにも、パスポートは必要だったでしょ?


私はね、入江君のそばにいられるなら、たとえ他に誰もいなくてもアメリカ

でもアフリカでもきっと宇宙の果てにだって行けるんだよ!ホントはね。


大好きだよ・・・入江君。


琴子より 



―この手紙はいつからここにあった?・・・


朝、目覚めてからずっと琴子は直樹の傍らにいた。
琴子が持っていくバッグは直樹が2階から持っておろした。その時並んで置いてあった直樹の
バッグにこの手紙は入っていなかった。
記憶を巡らせるとこの部屋を出る時の琴子との会話が思い浮かんだ。
『ねえ、入江君?・・・必ず出発の前にバッグの中身を確認してね、私ちゃんとしたつもりだったけど
何か忘れものがあったら大変だから・・・』


『ああ、わかったよ・・・』
直樹は、その時ドアを押さえながら首だけを琴子に向けて答えた。
そして、琴子は直樹に背中を向けたままつぶやいた。


『2度目だね・・・』


直樹は、思わずはっとして手にしていた手紙を握りしめた。
直樹は、琴子のあの言葉を離れて暮らすことが”2度目”だと言ったのだと解釈して、何も答えは
しなかった。
でも、それは手紙を書くのが”2度目”という意味だったのだと、気がついた。


―きっとそうだ、そしてあの時琴子はこの手紙をバッグのポケットに入れたんだ。


<オレは、本当に琴子のいない毎日に耐えられるのか?・・・>
今朝、まだ眠る琴子の寝顔を見つめながら思った言葉が、また頭に浮かんだ・・・
そして、握りしめた手紙の上に、何の前触れもなくポトリと落ちた涙が、ずっと答えの出なかった

難問を解き明かしていた。


―答えは・・・「NO」だ。


直樹は、力が抜けたようにデスクの椅子に腰をおろした。


あの時もう一度振り返ってさえいれば・・・
せめてそのひと言が言えていたなら・・・
今さらどんなに後悔しても、もう全ては遅い。


―いや、本当にもう遅いのか?


直樹は、頭を抱えていた腕を下ろすと一瞬天井を見上げた。


―まだ、間にうかもしれない・・・


なぜ、そう思ったのか・・・いつも真実は不意にその手の中に落ちてくる。


―琴子は、きっと今この瞬間も、オレと一緒にいることをあきらめてはいないんだ。


直樹は、座っていた椅子を弾き飛ばす勢いで立ち上がると、まさに脱兎の如く駆け出した。
意地もプライドも捨てて・・・何よりも愛おしいものを取り戻すために。


家の前の下り坂を一気に駆け下り、そこを曲がればバス停が見える角に差し掛かった時、目の前

の塀の向こうから、バスが停車するブレーキの音が聞こえてきた。


直樹は、走る速度を落とさずに一気に角を曲がると停まっているバスに向って叫んでいた。
「行くな、琴子!行くなーー!」


舗道に立って反対車線に停まっているバスの窓を凝視する・・・後ろから2番目の窓に髪の長い
シルエットが見えて、直樹はもう一度叫んだ。
「琴子!!・・・行くな!!」

しかし、直樹の声は行き交う車の音にかき消されてしまったのか、窓際の人影はこちらを見ること

もなかった。
そして、バスは走り出し、直樹は体を前に折って膝に両手を乗せると何度か荒い呼吸を繰り返した。
落胆と後悔が胸の中に広がる・・・それでもまだアメリカに立つまでにはまだ2日あるのだと思い直

して、顔をあげた時直樹はたった今バスが走り去って行ったバス停に立つ人影を見て思わず目を

見開いた。


「こ、琴子?・・・」


琴子は、両手で口を押さえながら道路の反対側から見てもはっきりとわかるくらい涙をポロポロと
こぼしながら、こちらを見つめていた。


「そこにいろ!・・・」
直樹は、今にも琴子がこちらに向って走り出しそうな気がして慌てて言葉をかけた。

そして、行き交う車を避けながら琴子に駆け寄ると、そのまま力いっぱい抱きしめた。


「何で乗らなかった?・・・」
直樹が、荒い息のまま琴子の耳元に囁く。


「だって、入江君が行くなって言ったから・・・」
震える声で答えが返ってきた。


「聞こえたのか?・・・」


「うん、最初は空耳かと思った・・・でも違ってたね・・・」


そして、琴子の声は嗚咽に代わり、直樹はそんな琴子をもう一度しっかりと抱きしめた。


「オレと一緒なら本当に宇宙の果てでもついてくるのか?・・・」
直樹は、右手にしっかり握りしめらたままの手紙を見ながら尋ねた。


「うん、私はどんなところでも入江君と一緒にいたいよ」
琴子は、直樹の手の中に握られた手紙にさらに涙をこぼしながら答えた。


「それなら連れて行ってやる・・・」


「えっ?・・・どこへ?」


「アメリカだよ・・・」


「ホント?!・・・」


喜びと驚きの入り混じった顔で直樹を見上げた琴子に、直樹は大きく頷いた。


人は時に、とても簡単な答えを導き出すためにひどく遠回りをすることがある・・・
自分を取り巻く環境や、思いこみ、そして何よりプライドが行く手を阻んでいるのかもしれない。


直樹は、琴子のそばにいるためにはこの場所を離れてはいけないと思っていた・・・
琴子は、直樹のそばにいられるならそこがどこでもかまわないと思っていた・・・


ただただ一緒にいたいと心は求めあっているのに、小さなすれ違いが相手の心の本当の姿さえ

ゆがませることがある。


「オレが悪かったよ・・・オレだって・・・」

―お前のいない毎日なんて、耐えられないよな・・・


直樹は、結局肝心な言葉を濁したまま、琴子の涙を指で拭った。
そして、足元のバッグを持ち上げると、琴子の肩を抱いて家に向って歩き始めた。


見上げると、まるで今の直樹の心のように、雲ひとつない澄み渡った青空がどこまでも広がって

いた・・・





 -<2>-


「えっ?・・・内藤教授!どういうことですか?」
直樹は、思わず受話器を握り締めて声を荒げた。


傍らで、アメリカに行くための荷造りをしていた琴子は、驚いて直樹を見上げた。
琴子は、自分を一瞬みたあと受話器を耳にあてたまま部屋の隅へ行って話を続けている直樹の背

中に何か心がざわざわしてくるような不安を感じていた。
しかし、しばらく深刻そうに話し込んでいた直樹は、電話を切った途端に堪え切れないといった様子

で突然笑いだした。


「い、入江君!ど、どうしたの?・・・」
琴子が、目を丸くして尋ねた。
すると、直樹はまた真剣な表情になると、窓際に立って大きなため息をひとつ付いた。
そして、外を眺めたまま答えた。
「アメリカ行きが、中止になったよ・・・」


「えっ?・・・」
琴子が、思わず立ち上がっていって、直樹の横顔を見上げる。
すると、直樹は少し呆れた表情で琴子を見ながら言った。
「向こうで今回のプロジェクトを立ち上げた何人かの教授の中で研究の方向性の不一致があって、

準備が大幅に遅れているらしい・・・だから、オレのアメリカ行きは、とりあえず1年は延期だそうだ・・・」


「ホント?・・・」
琴子が、半信半疑な顔で聞く。
直樹が、口元に笑みを浮かべながら頷く。


「じゃ、じゃあ赤ちゃんが産まれる時にも入江君はここにいるのね?・・・お義母さんたちのそばにも

いられるのね?」
琴子は、念を押すように尋ねた。


「ああ、そうだよ・・・もし1年後にこの話がまたオレのところに来たら、今度は子どもと3人で行こう・・・」
直樹は、琴子の腕を掴んで引き寄せながらそう言うと、優しく琴子を抱きしめた。


―もう次は間違えないさ・・・何があってもずっと一緒だ・・・


直樹は、心の中でつぶやくと琴子の髪に唇を寄せた。


「でも、ちょっと残念でしょ?・・・せっかくアメリカで勉強できると思ったのに・・・」
琴子は、直樹の心情を思って慰めるように尋ねた。
ところが直樹は、琴子の顔を覗き込みながら、いつものようににやりと口元に笑みを浮かべながら答

えた。
「お前何もわかってないんだな・・・いつも言ってるだろ。勉強なんてその気になればいつだってどこ

でだって出来るんだぜ」


琴子は、いつも通りの直樹の言い方に一瞬口を尖らせたあと、すぐに笑顔になって直樹を見上げた。
それが合図のように、2人の唇が重なる。
ここにいられる喜びと、一緒にいられる幸せと、安堵と、ほんの少しの落胆が入り混じって琴子の頬

にはまた涙が零れた。


そして、直樹は琴子に何度も甘いキスを繰り返しながら、たった今自分が言った言葉に心の中でもう

一言付け加えた。


―ただし、お前がそばにいなきゃダメだけどな・・・





 -<エピローグ>-


それから数日後・・・直樹は、オフィスのデスクの引き出しの中に、あの別れの朝の琴子からの手紙

を収めた。
握りしめて出来た皺がそのまま残っている手紙に、ほんの少し自分への戒めを感じながら直樹はあ

の時を思い浮かべた。


この手紙の中に書かれている琴子の想いが、直樹の心に鮮やかに答えを導き出した瞬間、思いも

よらず溢れた涙の、鼻の奥がツンと痛くなるような感覚が蘇った。


そして、直樹は思った・・・


―オレも、琴子がそばにいてくれるなら、そこがどこでもかまわない・・・と。



                                               END


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

さて、いかがだったでしょうか・・・はてなマーク


結局は、アメリカには行かないという「どんでん返し」・・・誰も怒ってないといいんだけど・・・あせる


でも、これこそがキューブの「原作の流れを変えない」というポリシーから出た結末だということ

になるんですよビックリマーク ほとんど開き直り?(≧m≦)ぷっ!


だって、アニメイタキスが多田先生の残されたメモを元に作られたのだとしたら、琴子が赤ちゃん

を産むのはアメリカじゃないですからね~(≧m≦)ぷっ! こういうのを屁理屈ともいう・・・


さんざんみなさんをやきもきさせましたが、最後には軌道修正して元通りです・・・べーっだ!


さて・・・どんな感想をいただけるのやら・・・((o(б_б;)o))ドキドキですドキドキ

長いお話にお付き合いくださいまして、ありがとうございました。


そして、changaさん!爆弾処理の評価・・・おまちしてますv(=∩_∩=) ブイブイ!!

次回もどうぞお楽しみに音譜



                                             By キューブ




ブログ村、blogramのランキングに参加しています。

気に入ったら、ポチッとお願いしますm(._.*)mペコッ → にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ blogram投票ボタン





ペタしてね