読者の皆さまには、いつも私のお話を楽しみにしていただいて、ありがとうございます![]()
さて、今回は、先日アップしたイタキスⅡ21話のレビューで、ずっと書けずにいたとお話し
した屋上エピでの隙間のお話になります。
そして、この「夢の途中」では、新しい試みに挑戦してみました。
それは、同じお話を直樹の気持ちの解釈を変えて書くと言うこと・・・
つまり、あのレビューで書いたどちらにしようかと悩んでいた直樹の気持ちを、どちらも両
方書いてしまったというわけです・・・
タイトルを「Blue」と「Red」にしたのは、読んでいただければたぶんわかると思います。
そして、このお話は出だし、締め共にまったく同じ展開になっています。
違っているのは、屋上での直樹のセリフと共に語られる直樹の気持ちだけ・・・
(長い割にはキューブは大分楽させてもらってます・・・(≧m≦)ぷっ!)
キューブ的には、みなさんの反応がとても気になるところ・・・
BlueとRed、どちらが気に入られたか、アンケートでもとっちゃおうかな~![]()
どうか、お楽しみいただけますように・・・![]()
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
~夢の途中 -Blue Version-~
「しっかり診ていてやれよ・・・オレは先に帰るぞ・・・」
「うん、お義母さんに言っておいてね」
「がんばれ・・・」
オレは、琴子の目を見て微笑むとソファから立ち上がって吉田さんの病室をあとにした。
明かりの消えた暗い廊下を歩き始めると、すぐに中から琴子の声が聞こえて来てオレは立
ち止まった。
琴子が吉田さんに話しかけている・・・
「私とおばあちゃんって、男の人の好みが似ているのかもしれないね・・・」
オレは、思わず笑いをかみ殺しながら、しばらく中の様子を伺っていた。
―もう、大丈夫だな?・・・
オレは、再び明かりの落ちた廊下を出口に向かって歩き始めた。
昼間の出来事が脳裏に蘇る・・・
大きな試練は、琴子をひとつ成長させ、オレは安堵のため息を吐き出した。
-----------------------------------
昼間、教授について病室を回りながら、まことしやかに聞こえてきた琴子の噂・・・
「入江さん、またやっちゃったみたいね・・・」
「患者さんの目の前で、師長にものすごく怒られたみたいよ・・・」
「ムリもないわよね・・・あの患者さんじゃ・・・」
「でも、ちょっといい気味よね・・・」
―琴子の奴、いったい何を?・・・
しかし、病棟を一回りしながら耳にした話で、大体の事情を理解したオレは、回診の間一度
も琴子の姿を見なかったことに事の重大さを痛感していた。
それは、琴子が仕事の途中で、どこかへ逃げ出したという何よりの証拠だ。
なぜなら、吉田さんに何をされようと、看護師長や先輩看護師たちに何を言われようとも、こ
の実習の間、回診中のオレの前に琴子が現れなかったことは一度もなかったのだから・・・
―とうとう、オレの出番か・・・
オレは、回診が終るとひとり医局を抜け出して、琴子の姿を探した。
まずは吉田さんの病室へ、次にラウンジ、中庭、そしてナースステーション・・・しかし、どこ
を見ても琴子を見つけることは出来なかった。
オレは、最後に屋上へ続く階段の前に立って、大きなため息をひとつついた。
肩を落として、落ち込んでいる琴子の姿が見えるようだった。
オレは、薄暗い階段を見上げると、ある決心を胸に階段を上がって行った。
小雨の降り出した屋上に琴子はいた。
ベンチに腰掛けてうつむく琴子の横顔に、胸が締め付けられた。
オレが声をかけると、やっと顔を上げた琴子を見て、もう随分と琴子の笑った顔を見ていな
いことにあらためて気づいていた。
琴子は言った・・・自信をなくした、一生懸命やったのに相手には通じない、そしてもうクタク
タだと・・・
琴子の泣き言をひとしきり聞いてやると、オレは琴子に言った。
『諦めるか?・・・看護師になる夢・・・』
目の端に、琴子の驚いた表情が伺えた。
おそらく、琴子にしてみれば思いもよらない言葉だったに違いない。
”諦める”などという言葉は、琴子の頭の中にはその欠片すらないはずなのだから・・・
『前から思ってた・・・オレが医者になるから看護師を目指すんだろ?その理由だけじゃ、こ
の仕事は無理じゃないか?』
本当は、琴子にはそれだけで十分にこの夢を追いかける価値のあることだということは、こ
のオレが一番よくわかっている。
それでも、言わずにはいられなかった・・・
実習の初日から現実の重みをいやと言うほど思い知らされた琴子が、精神的にも肉体的
にも追い詰められていく様を、オレはただ黙って見てきた。
琴子が欲しているのは、オレのそばにいる自分、そしてオレの役に立つ自分、しかしこのま
まではそれを実感する前に琴子が壊れてしまいそうな気がした。
『最近のお前は、限界を超えてる・・・そんなに辛いなら・・・やめちまえよ』
そぎ落ちた頬、目の下にできたクマ、そして笑みを忘れたその顔が絶望の涙で濡れる前に
「夢を諦める」という選択肢もあることを教えてやりたかった。
<やってみなければわからないじゃない!>
昔、医学の道へ進むことを躊躇していたオレに琴子が言った言葉・・・
その言葉が、迷っていたオレの背中を押して、今がある。
いつでも前だけを見つめて、がむしゃらに努力してきた琴子だから、<やってみて>出した
結論がたとえ夢を途中で諦めることであっても、構いはしない。
たとえ看護師にならなくても、琴子がオレにとって一番大切な存在だということに変わりはし
ないのだから・・・
―それでも、決めるのは琴子自身だ。
オレは、呆然と考え込んでしまった琴子の額を撫でた。
堪えきれずに嗚咽する琴子の頭を引き寄せ肩に手を回した。
思い詰めて、泣くことすら出来ずにいた青白い頬に、やっと一筋の涙がこぼれ落ちた。
オレは、好きなだけ泣かせてやるつもりで、琴子をアゴの下に抱き寄せていた。
結局、それきり何も言わずに別れた琴子は、それでも最後には弱々しく微笑みながら手を
振っていた。
---------------------------------
そして今、琴子は病状の急変した吉田さんを心配して、夜をとして付き添っている。
「よくなって欲しいって、心から思うのよ・・・」
すっかり大人しくなってベッドに横たわっている吉田さんを見つめながら琴子がつぶやいた。
オレのためとか、自分のためでなく、看護師として患者のことを思い心を砕く琴子に、もうあ
の屋上での迷いは感じられなかった。
―それでこそ、オレの琴子だ。
オレは、病院の玄関を出ると夜の帳の降りた道を歩きながら、オフクロに電話をかけた。
「あっ、もしもしオレだけど・・・今夜琴子の分の夕食はいらないよ。あいつは病院に泊まりこ
むことになったから・・・」
電話の向こうからは、天を貫きそうなオフクロの声が聞こえてきて、オレは慌てて耳から電
話を離した。
「何いってるんだよ、琴子は自分の意思で病院に残ってるんだ。オフクロももう安心してい
いよ。あいつは大丈夫だから・・・」
オレは、さらに何か言いた気なオフクロに「じゃあな」と言って電話を切った。
オレは、バス停へ向かいながらもう一度病院を振り返った。
薄暗い明かりの漏れる窓に、琴子のいる病室を探す。
「がんばれよ・・・」
オレは、めぼしをつけた窓に向かって小さくつぶやいた。
その時、オレは大事なことをひとつ忘れていたことに気がついた。
―そうだよな・・・
このオレを6年もかけて落とした琴子が、このくらいのことでへこたれるはずがなかったの
だということに・・・
END
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
~夢の途中 -Red Version-~
「しっかり診ていてやれよ・・・オレは先に帰るぞ・・・」
「うん、お義母さんに言っておいてね」
「がんばれ・・・」
オレは、琴子の目を見て微笑むとソファから立ち上がって吉田さんの病室をあとにした。
明かりの消えた暗い廊下を歩き始めると、すぐに中から琴子の声が聞こえて来てオレは立
ち止まった。
琴子が吉田さんに話しかけている・・・
「私とおばあちゃんって、男の人の好みが似ているのかもしれないね・・・」
オレは、思わず笑いをかみ殺しながら、しばらく中の様子を伺っていた。
―もう、大丈夫だな?・・・
オレは、再び明かりの落ちた廊下を出口に向かって歩き始めた。
昼間の出来事が脳裏に蘇る・・・
大きな試練は、琴子をひとつ成長させ、オレは安堵のため息を吐き出した。
-----------------------------------
昼間、教授について病室を回りながら、まことしやかに聞こえてきた琴子の噂・・・
「入江さん、またやっちゃったみたいね・・・」
「患者さんの目の前で、師長にものすごく怒られたみたいよ・・・」
「ムリもないわよね・・・あの患者さんじゃ・・・」
「でも、ちょっといい気味よね・・・」
―琴子の奴、いったい何を?・・・
しかし、病棟を一回りしながら耳にした話で、大体の事情を理解したオレは、回診の間一度
も琴子の姿を見なかったことに事の重大さを痛感していた。
それは、琴子が仕事の途中で、どこかへ逃げ出したという何よりの証拠だ。
なぜなら、吉田さんに何をされようと、看護師長や先輩看護師たちに何を言われようとも、こ
の実習の間、回診中のオレの前に琴子が現れなかったことは一度もなかったのだから・・・
―とうとう、オレの出番か・・・
オレは、回診が終るとひとり医局を抜け出して、琴子の姿を探した。
まずは吉田さんの病室へ、次にラウンジ、中庭、そしてナースステーション・・・しかし、どこ
を見ても琴子を見つけることは出来なかった。
オレは、最後に屋上へ続く階段の前に立って、大きなため息をひとつついた。
肩を落として、落ち込んでいる琴子の姿が見えるようだった。
オレは、薄暗い階段を見上げると、ある決心を胸に階段を上がって行った。
小雨の降り出した屋上に琴子はいた。
ベンチに腰掛けてうつむく琴子の横顔に、胸が締め付けられた。
オレが声をかけると、やっと顔を上げた琴子を見て、もう随分と琴子の笑った顔を見ていな
いことにあらためて気づいていた。
琴子は言った・・・自信をなくした、一生懸命やったのに相手には通じない、そしてもうクタク
タだと・・・
琴子の泣き言をひとしきり聞いてやると、オレは琴子に言った。
『諦めるか?・・・看護師になる夢・・・』
ずっと虚ろな瞳で正面を見ていた琴子が、不意にオレの顔を覗き込んだ。
その表情からは、これ程ツライ思いをしていながら、諦めようなどとは微塵も思っていなか
ったらしい驚きが浮かんでいた。
―まったく、お前って奴は・・・
『前から思ってた・・・オレが医者になるから看護師を目指すんだろ?その理由だけじゃ、こ
の仕事は無理じゃないか?』
オレは、感情を押し殺して淡々と琴子に語りかけた。
誰でもない、このオレのために努力を重ねてきた琴子にとって、当のオレ自身にこれまでし
てきたことを否定されるのがどれ程辛いことなのかは容易に想像できた。
しかし、だからこそ『やめる』気など毛頭ない琴子に、冷静になって今の自分を見つめなお
して欲しかった。
夢の途中で、ほんの少し立ち往生している琴子に、自分が向かおうとしている道の先に何
があるのかを・・・
『最近のお前は、限界を超えてる・・・そんなに辛いなら・・・やめちまえよ』
これは、大きな賭けだと思いながら言った言葉だった。
夢を追い続けるのか、諦めるのか・・・琴子がどちらを選択しても、オレの気持ちが変わるこ
とはない。
それでも、琴子の胸にまだ情熱と言う名の赤い炎がくすぶっているのなら、もう一度その炎
を燃え上がらせるには十分な力を持った言葉だと思っていた。
<やってみなければわからないじゃない!>
昔、医学の道へ進むことを躊躇していたオレに琴子が言った言葉・・・
その言葉が、迷っていたオレの背中を押して、今がある。
いつでも前だけを見つめて、がむしゃらに努力してきた琴子だから、<やってみて>出した
結論がたとえ夢を途中で諦めることであっても、構いはしない。
それでも、やはりオレにはそんな琴子を想像することはできなかった。
きっと琴子は立ち上がる・・・誰もが無謀だと思ったその夢をきっと実現させるに違いないと
信じていた。
―それでも、決めるのは琴子自身だ・・・
オレは、呆然と考え込んでしまった琴子の額を撫でた。
堪えきれずに嗚咽する琴子の頭を引き寄せ肩に手を回した。
張り詰めていた糸が切れたように、泣き出した琴子がたまらなく愛おしく思えた。
オレは、好きなだけ泣かせてやるつもりで、琴子をアゴの下に抱き寄せた。
結局、それきり何も言わずに別れた琴子は、それでも最後には弱々しく微笑みながら手を
振っていた。
---------------------------------
そして今、琴子は病状の急変した吉田さんを心配して、夜をとして付き添っている。
「よくなって欲しいって、心から思うのよ・・・」
すっかり大人しくなってベッドに横たわっている吉田さんを見つめながら琴子がつぶやいた。
オレのためとか、自分のためでなく、看護師として患者のことを思い心を砕く琴子に、もうあ
の屋上での迷いは感じられなかった。
―それでこそ、オレの琴子だ。
オレは、病院の玄関を出ると夜の帳の降りた道を歩きながら、オフクロに電話をかけた。
「あっ、もしもしオレだけど・・・今夜琴子の分の夕食はいらないよ。あいつは病院に泊まりこ
むことになったから・・・」
電話の向こうからは、天を貫きそうなオフクロの声が聞こえてきて、オレは慌てて耳から電
話を離した。
「何いってるんだよ、琴子は自分の意思で病院に残ってるんだ。オフクロももう安心してい
いよ。あいつは大丈夫だから・・・」
オレは、さらに何か言いた気なオフクロに「じゃあな」と言って電話を切った。
オレは、バス停へ向かいながらもう一度病院を振り返った。
薄暗い明かりの漏れる窓に、琴子のいる病室を探す。
「がんばれよ・・・」
オレは、めぼしをつけた窓に向かって小さくつぶやいた。
その時、オレは大事なことをひとつ忘れていたことに気がついた。
―そうだよな・・・
このオレを6年もかけて落とした琴子が、このくらいのことでへこたれるはずがなかったの
だということに・・・
END
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、いかがでしたでしょうか・・・![]()
BlueとRedの違いが、ちゃんと伝わったでしょうか・・・そこが一番心配・・・
ほとんど同じものを、2つ続けて読まされちゃっていい迷惑ですよね・・・( ̄∇ ̄*)ゞエヘヘ
次回もどうぞお楽しみに![]()
By キューブ
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