読者の皆さまには、いつも私のお話を楽しみにしてくださいまして、ありがとうございます![]()
大変お待たせいたしました![]()
やっと、「桜色のワンピースで・・・」の直樹バージョン「桜色の幸福」が出来上がりましたの
お読みください・・・
しかし、タイトルをご覧になればおわかりかと思いますが、このお話琴子バージョンよりも
さらに長くなりまして、仕方なく前後編にわけました・・・
後編も、すでに出来上がっていますので、この前編をアップしたあと、編集作業をすれば
すぐアップできますので、待っててくださいね。
あとがき、解説は、後編の方に書かせていただきます![]()
それでは、どうかお楽しみいただけますように・・・![]()
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~桜色の幸福-前編-~
「へえ、入江がパーティーに出席するなんて、珍しいな・・・」
医局のデスクに座っていたオレの手元を覗き込んで、西垣医師が声を掛けてきた。
「田辺教授には、随分世話になったんで・・・」
オレは、西垣医師に短く答えると、出席を丸で囲んだ葉書を持って立ち上がった。
西垣医師が驚くのも無理はない、オレは今まで事あるごとにパーティーというものを避けて
きた。
パーティーなどというものは、窮屈なだけで何も楽しいことなどありはしない。
増してや、オレは人にお世辞を言ったり、愛想笑いをすることが何よりも嫌いと来ている。
誰しも、美味しい料理を食べるためだけにパーティーに出席しているわけでないことくらい
はわかっている。
それでも、今まで不思議とどうしても出席しなければならないパーティーが無かったことは
ある意味ラッキーだったのかもしれないとオレは思っていた。
しかし、途中から医学部に編入したオレを常に気に掛け、面倒を見てくれた田辺教授の学
長就任祝いのパーティーともなれば、今回ばかりは出席しないわけにはいかない・・・
「西垣先生は、出席しないんですか?」
オレは、ふと思って西垣医師に尋ねた。
「オレは、その日は当直だよ・・・」
西垣医師は、手に持ったカルテをめくりながら答えた。
オレは、「そうですか」と返事をして、葉書を出すために医局を出ようとした。
しかし、そんなオレを西垣医師の言葉が振り返らせた。
「まあ、当直じゃなくてもオレは行かないだろうけどな・・・」
「どうしてですか?・・・」
別段興味があったわけではない・・・ただ、その場の雰囲気で、何も聞き返さずに医局を出
て行くのがはばかられたというだけのことだった。
しかし、その後西垣医師が語ったことは、意外なことだった。
「そのパーティー、夫人同伴ってなってるだろ?・・・まあ、俺は独身だから連れて行くカミさ
んもいないけど、奥さん方が集まると、先生方だけのパーティーとは雰囲気がガラリと変わ
るからな!それに、今回は田辺教授のパーティーだろ?ってことは、影の主役は奥さんだ・・・」
西垣医師は、カルテをデスクにおいて腕を組むと一旦話を止めて俺に向かって苦笑いを
浮かべた。
「田辺教授の奥さんって、エッセイストの田辺響子ですよね・・・オレは、まだ一度も会った
ことはないですが・・・」
オレは、西垣医師の含みを込めた言い方が気になって聞き返した。
「そう。その田辺女史っていうのがクセモノさ・・・こんな世界、誰だって野心くらいもってるも
んさ・・・功名心、名誉心・・・でもな、それがあまりに露骨すぎると、彼女の歯に衣着せぬ物
言いで、こてんぱんにされてしまう・・・おまけに彼女にはペンの力があるからな、みんな気
を使って大変さ。だから俺は当直でよかったって思ってるんだよ」
西垣医師は、乾いた声で笑いながらオレを見上げると、急に真顔になって付け加えた。
「お前は、何にしても特別だが、天才だからと言って、面倒な付き合いをずっと避けて通れ
るわけでないからな・・・たまにはこういった場所に出向いて、世間を知ってくるのもいいさ」
―オレが特別?・・・
オレは、少し面食らって西垣医師の顔を見た。すると、待っていたとばかりに、西垣医師が
言った。
「ほらな、そんな顔して・・・お前はまったく自覚がない・・・いいか、入江?お前には、野心な
んてもんは無縁のものかも知れないけどな、その能力が高くかわれて、他の医者達よりも
ずっと楽な思いをしていることは事実なんだ・・・まあ、世間知らずが高じて、田辺女史の逆
鱗に触れないようせいぜい気をつけるんだな・・・」
西垣医師は、哀れむような視線でオレを一瞥すると、オレが出ようとしていた扉を開けて医
局を出て行った。
自分が特別扱いされることは、今に始まったことではない・・・しかし、持って生まれた能力
だけでここまで来たわけでないことは、自分が一番よく知っている。
医学部に編入してから、回りに追いつくために必死に努力した日々が脳裏をかすめて、オ
レは釈然としないものを感じながら、目の前で閉まった扉を見つめていた。
病院内に設置されたポストに葉書を投函したあと、自分のオフィスに戻ろうとしたオレは、医
局にパーティーの招待状を置き忘れたことに気がついて取りに戻った。
葉書を書いていたデスクに置いたままになっていた招待状を手にして、中を確認すると、厚
紙で作られた招待状の他に、小さな紙片が入っていることに初めて気がついて引き出した。
『入江君、ご無沙汰しているね。
君の活躍はいつも聞いているよ。
久しぶりに会えるのを楽しみにしているよ
可愛い奥さんと一緒にぜひ出席して欲しい。』
それは、見覚えのある田辺教授の字で書かれた走り書きのようなメッセージ・・・
わざわざ、直筆のメッセージまで入っていては、やはりでないわけには行かない。
<たまにはこういった場所に出向いて、世間を知ってくるのもいいさ>
西垣医師の言葉が嫌でも脳裏をかすめる。
その時、オレは今回のパーティーには琴子も連れて行くのだということをあらためて意識した。
オレですら数えるほどしか行ったことのない大きなパーティーに連れて行って、果たして琴
子は大丈夫だろうか・・・
オレは、手に持っていた紙片を封筒には戻さず手の中で握りしめると、一抹の不安を感じな
がら業務に戻っていった。
「琴子、今度パーティーに出席することになったからな・・・」
オレは、家に帰るとすぐに琴子にそう言って、招待状を渡した。
「へえ~何のパーティー?・・・入江君、パーティー嫌いのなのに、よく行く気になったねぇ」
琴子は、まるで人ごとのようにニコニコと笑いながら招待状を受け取る。
「田辺教授が今度学長に選ばれて、そのお祝いだってさ・・・田辺教授には医学部の頃から
ずっと世話になって来たから出ないわけには行かないんだ」
オレは、面倒な気持ちをあらわにしながら答えると、琴子の顔を見ながら付け加えた。
「立食式の気軽なパーティーらしいけど、せいぜいお前はドジ踏まないように気をつけろよ」
「えっ?・・・私も行くの?」
琴子が、驚いて聞き返す。
「えっじゃないよ・・・ちゃんと招待状見てみろよ、夫人同伴って書いてあるだろ?お前も
一緒に行くんだよ」
オレは、琴子が今まさに開こうとしている招待状を、あごで指して見せた。
「ええええええ~~~!!」
突然の琴子の絶叫に、着替えで背中を向けていたオレは、驚いて思わず指で耳を塞いだ。
オレが何も言わずに睨みつけると、琴子は慌てて口を手で塞いで、招待状とオレの顔を交
互に見ながら蒼ざめている。
単純にパーティーに出られるからと喜ぶのではなく、やはり教授や学長レベルの集まりと
なれば、琴子でも緊張するのかと、オレは妙なところで感心していた。
そして、仕舞には泣き出しそうな顔で、何かブツブツと言っている琴子に、笑いが込み上げ
てくる・・・
正直に言えば、西垣医師に聞かされた話を思うと、琴子を連れて行くのは酷な事にも思え
てくる。
しかし、招待状と一緒に入っていた教授直筆のメッセージのことを思うと、琴子を置いていく
わけにはいきそうもない。
「そんなに心配なら、黙ってじっとしていればいいんだ・・・ほんの数時間のことだろ」
オレは、オレ自身の迷いを悟られないように、ことさら素っ気なく言い放つと食事をするため
に部屋を出た。
―まったく、パーティーなんて面倒だな・・・
オレは、憂鬱な気分で遅い食事を摂っていた。
ところが、いつもならすぐに追いかけてくる琴子が、オレが食事を終えても降りてこない・・・
オレは、琴子が緊張のあまり落ち込んでいるのかと思い、オフクロの相手もそこそこに席を
立った。
ところが、部屋のドアを細く開けて、中の様子を伺いながら音を立てずに入っていくと、まず
目に飛び込んできたのは、ベッドの上に並べられたたくさんの洋服だった。
―はあ?・・・
そして、クローゼットの中にもぐりこむようにしながら、さらに何枚かの洋服を掴んだ琴子が
振り向きざまにオレを見つけて、悲鳴をあげた。
「きゃっ!ああ、びっくりした・・・入江君、ご飯終ったの?」
琴子は、さっきとは打って変わって上機嫌な顔に笑みを浮かべている。
「なんだよ、これ・・・」
オレは、顔をしかめながら、部屋中に散らばった洋服やバッグをまたいで、部屋の奥へと進
んだ。
「う、うん!パーティーに何着ていこうかと思ってね・・・えへへ。」
オレは、なんとかデスクまで辿りついて腰掛けると、思わず首を振りながら呆れ顔で琴子を
見た。
琴子は、鏡の前に立って次々と洋服を胸に当てては、楽しそうにしている。
「お前、緊張して半べそかいてたんじゃないのか?・・・」
オレは、鏡の中の琴子にからかうように声をかけた。
「うん、緊張はするよ!でも、入江君が言ったみたいに大人しくしてれば大丈夫!それより
もおしゃれして入江君とデートみたいに出かけられるって思ったらなんだか嬉しくなってき
ちゃった!」
琴子は、手にした服を胸に当てながら満面の笑みで答えた。
思わず笑いが込み上げる。
どんなことでも前向きに捉える琴子らしい言葉に、オレは感動すら覚えながらデスクに向
き直ってパソコンの電源を入れた。
「あーあ、なんだかどれもピンとこないなぁ・・・」
琴子のぼやきが聞こえてきたが、オレはそ知らぬふりでパソコンに向かっていた。
すると、不意に背後に琴子が立つ気配がして、オレはマウスを動かす手を止めた。
「ねえ~入江くーん・・・パーティーに着ていくドレス・・・新しいの買ってもいい?」
琴子が、これ以上ないといった猫なで声を出して、オレの返事を待っている。
オレは、前を向いたまま小さくため息をつくと「好きにしろよ」と答えた。
「やったー、ありがとう!入江君だーい好き!」
琴子は、オレの前に回りこんでひざまずくと、オレの両の頬を手で挟んで弾むようなキス
をした。
そして、オレが呆れ顔を返しても、一向に気にもせず散らかした服を片付け始めた。
―ふっ・・・幸せな奴・・・あとで泣きべそかくなよ・・・
オレは、心の中でつぶやきながら、自然と緩んでくる顔を無理に引き締めてマウスを握り
なおした。
それから琴子は、桔梗に脅かされたと言っては落ち込み、気に入った服を見つけたと言っ
ては喜び、初めてのパーティーへ出席する準備に追われながら、いよいよ当日を迎えた。
その日、日勤を終えて帰宅すると、琴子はオフクロと一緒に支度を始めていた。
オレは、用意してあったスーツに着替えて、これから展開されるさまざまな出来事を思って
憂鬱な気分になりながら、琴子の声がかかるのを待っていた。
「おまたせ・・・」
琴子の声が聞こえて、オレは振り返った。
<ふーん、まあまあじゃん!>
<馬子にも衣装だな・・・>
<もっと大人っぽくするんじゃなかったのかよ>
琴子が現れたら言ってやろうと漠然と考えていた言葉は、結局オレの口をついて出ること
はなかった。
琴子が、はにかんだようにオレを見ている。
オレは、たぶんほんの一瞬琴子に見とれていた。
そこには、桜色をした可憐な花が一輪咲いていた・・・
それでも、オレはすぐに我に返ると、ことさら不機嫌を装って家を出た。
ただ・・・素直に「綺麗だ」と言えないことに、ほんのすこし自己嫌悪しながら・・・
後編へつづく
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あとがき、解説は後編に書きますね~
By キューブ
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