読者の皆さまには、いつも私のお話を楽しみにしていただいて、ありがとうございます![]()
さて、昨夜予告しましたとおり、新作をお届けしたいと思います![]()
夏休み中ずっと「女神のくちづけ」にかかりきりだったので、本当に久しぶりの新作という感
じで、結構テンションあげあげで書きました。
今回のお話には、ひさびさに一条先生が登場します。
最近、このブログを知ったと言う方は、キューブ通信No.22(前記事)に一条先生について
の説明を書いておきましたので、ご参照くださいませ。
キューブ的には、かなり気に入った作品になりました。
どうか、楽しんでいただけますように・・・![]()
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~琴子の憂鬱・・・~
―ああ・・・憂鬱な季節の始まりだ・・・
私は、そんなことを心の中でぼやきながら、ナースステーションの奥のデスクで、看護日誌
を書いていた。
「ちょっと琴子!さっきから、コツコツうるさいわよ!」
幹ちゃんに不意に怒鳴られて、私はふっと我に返った。
どうやら私は、看護日誌を眺めながら無意識にペンで机を叩いていたらしい・・・
「ご、ごめん・・・ちょっと考え事してて・・・」
私は、すぐに謝ると、ペンを握りなおして、日誌に視線を戻した。
すると、幹ちゃんは「別にいいわよ・・・」と言いながら、私の肩に手を乗せた。
「それより、琴子?・・・ほら、見てみなさいよ、また来てるわよ・・・」
幹ちゃんが、ニヤニヤと笑いながら言う方へ視線を向けると、ナースステーションのカウ
ンターの前で、こちらを覗き込むようにしている、見慣れない顔のナースが数人いるのが
見える。
「平凡な女が、あんなすごい旦那さまを持つと、苦労が耐えないわね・・・」
幹ちゃんは、含みを込めたように言うと、点滴のパックを抱えて外へ出て行った。
「ちょっと、新人ナースさんたち、琴子は見せ物じゃないのよ、さあ行った行った!」
幹ちゃんが、覗き見しているナース達を蹴散らす声が聞こえてきて、パタパタと靴音が遠
ざかっていくと、廊下からのざわめきが消えた。
―だから、この季節は嫌いなのよ・・・
私は、ほっと胸を撫で下ろしながら、脇に置いてあったカルテを持って立ち上がった。
「一条先生、先ほど頼まれた患者さんのカルテ持って来ました。」
私は、カウンセリングルームのドアを開けながら、中の一条先生に声を掛けた。
「ああ琴子さん、急がせちゃってごめんなさいね・・・明後日の予定が急に今日カウンセリ
ングすることになっちゃって・・・」
奥の本棚の前に立っていた一条先生が、顔だけをこちらに向けて笑顔で答えた。
「大丈夫です・・・ここにおいて置きますね・・・それじゃ、失礼します」
私は、一条先生のデスクの上にカルテを置くと、一礼して部屋を出ようとした・・・ところが、
「ちょっと待って」と一条先生から呼び止められて私は振り向いた。
「あらあら?・・・いったいどうしたの?」
一条先生が、私の顔を不思議そうに覗き込む。
「えっ?・・・何かついてますか?」
私は、自分の顔を手のひらで擦った。
「違うわよ・・・そんな浮かない顔して、何かあったのかって聞いてるの!」
胸の前で腕を組んだ格好で、一条先生が首を傾げている。
「な、何かって・・・別に・・・」
私は、一条先生から視線を逸らすと、うつむきながら答えた。
「ほらほら、そんな風に口ごもっちゃうところがいかにも怪しいわね・・・もしかして、最近
やたらと外科のナースステーションの前に現れる新人ナース達のことかしら?」
一条先生の言葉に、思わず顔を上げると、先生はにっこりと微笑みながら何度も私に頷
いて見せた。
私は、急に力が抜けるのを感じながら、情けない声を出して一条先生に泣きついた。
「先生・・・私、まるで動物園のクマにでもなった心境なんです・・・」
一条先生は、そんな私を見て吹き出しそうになりながらも、肩を擦りながらソファを勧め
てくれた。
新人ナース達が一斉に配属されてくるこの時期は、私にとっては憂鬱な季節だ。
年下のくせに自分よりも仕事が出来るというのもしゃくにさわるところだけど、何よりも相
変わらず入江君に人気があるということが、私の悩みの種・・・
配属されて、当然のように医師たちの品定めをした新人ナースは、そのほとんどが入江
君に心をときめかせる。
そして、すぐに入江君に奥さんがいることがわかると、今度は私を偵察にやって来る。
「私が入江君の奥さんなのよ!って、胸を張って堂々としていればいいじゃない。」
一条先生は、私の正面のソファに腰掛けながら、力強く言った。
「で、でも・・・」
「でもじゃないわよ・・・実際、あなたが入江先生の奥さんなんだし、普段は病院の中だろ
うとお構いなしに、入江先生にまとわりついているじゃない?・・・それなのに、どうして知
らない人達の前だと、そんなに萎縮しちゃうの?・・・」
一条先生は、呆れたように言った。
「だって、しっかりしなきゃって思えば思うほど、ミスしちゃうし、こんな私じゃ、誰もが相応
しくないって思ってるでしょ?・・・それに、入江君が恥ずかしい思いしそうな気がして・・・」
私は、うつむいたまま答えた。
「琴子さんが奥さんだと?」
一条先生が、念を押すように聞いた。
「はい・・・」
私は、蚊の鳴くような小さな声で返事をした。
すると、一条先生が突然、堰を切ったように笑い始めて、私は驚いて顔を上げた。
「そんなに可笑しいですか?」
私は、口を尖らせながら思わず一条先生を睨んだ。
「ご、ごめんね・・・だって、琴子さんったらとんでもないこと言うんだもの・・・」
一条先生は、笑いすぎて目に涙を浮かべながら言った。
「とんでもないこと・・・?」
首をかしげる私に、一条先生は不意に真顔になると「そうよ」と答えた。
「あなた、すごい勘違いをしてるわ・・・まあ、そこがあなたと入江先生の仲の面白いところ
だといつも私は思っているんだけどね・・・」
一条先生は、片目をつぶってウィンクをするとさらに話を続けた。
「ねえ、琴子さん?・・・入江先生が、今まであなたがまとわりついている時に、あなたが奥
さんだってことを隠そうとしたことがあったかしら?」
「えっ?・・・」
「誰が回りにいようと、あなたをからかう、あなたを叱る、あなたを励ます・・・どう?違う?
それにね、あなたが隣にいる時だけは、入江先生もいろんな表情をするのよ・・・あなたに
とってはそれがいつもの入江先生だから気付かないでしょうけどね」
私は、一条先生の言葉のひとつひとつをかみしめながら、次第に目の前の霧が晴れて行
くのを感じていた。
そうだ・・・この病院で働くようになってから、入江君は、いつでもどんなときでも、私を邪険
にしたことはない・・・
面倒くさそうな顔はしても、必ず私の話は聞いてくれるし、何よりも入江君は、家にいる時と
まったく変わらず私に接してくれている。
―私ったらそんなことにも気付かないなんて・・・
しばらく考え込んでいた私の顔を覗き込むようにして、一条先生が言った。
「どう?・・・わかった?仕事が出来るとか、出来ないとかなんて、入江先生には関係のない
ことなんじゃないの?・・・あなたは、あなたらしくいることが一番なのよ。ねっ!」
「はい」
私は、やっと笑顔を作って返事をした。
「でも・・・いくらあなたがそれを理解しても、動物園のクマ状態からは、なかなか抜け出せ
ないでしょうね・・・こればっかりは、やっぱり入江先生になんとかしてもらわないとね。」
一条先生は、人差し指をあごにあてながらつぶやいた。
「えっ?・・・入江君に?」
私は、一条先生の言っている意味がわからず、聞き返した。
そして、一条先生が「まかせておいて」と、自分の胸を叩きながら、曖昧に微笑んだとき、部
屋のドアがノックされ、幹ちゃんが顔を出した。
「あっ、琴子ここにいたのね・・・今日の新人ナースの歓迎会、5時半に噴水の前に集合だか
ら忘れないでね」
幹ちゃんは、それだけ言うと一条先生に頭を下げて、足早に行ってしまった。
私は、また憂鬱な気分になり、小さなため息をひとつついた。
「ほらほら、またそんなため息をついて・・・とにかく、あなたはもっと自信を持たなきゃね・・・
あなた程、入江先生に相応しい人はいないんだから・・・」
一条先生は、優しく微笑みながらそう言うと、「時間だわ」と言って立ち上がった。
「あっ、一条先生?さっき言ってた、まかせておいて・・・って何を・・・」
私は、慌しくカルテや筆記用具をかき集めている一条先生に向かって尋ねようとした。
しかし、一条先生はもう一度私に優しく微笑むと、何も言わずに部屋を出て行ってしまった。
一条先生の最後の微笑みに何か引っかかるものを感じながらも、私はいつものように仕事
をこなして、その日も終ろうとしていた。
それでも、一条先生との会話は、私に微かながらの自信と勇気を与えてくれたらしく、あの
後、同じように他の科の新人ナース達が、私を偵察に来てもそ知らぬ振りをしていられたし、
露骨な陰口には、にらみをきかせて応戦することも出来た。
<あなた程、入江先生に相応しい人はいないんだから・・・>
ずっと前、看護科に転科したころに、お義母さんにも同じようなことを言われたことがあった。
私ほど、入江君に相応しい相手はいない・・・まさか、一条先生にも言われるとは思っていな
かったけど、ちょっとしたことですぐにしぼんでしまう自信には、こんな言葉が何よりの励まし
になる・・・
「琴子、早く着替えなさいよ、もう時間よ!」
夜勤のナースへの申し送りが終ると、幹ちゃんと真理奈がやってきて私をせかす。
「ごめん、ごめん・・・なんだか、あんまり気が進まなくて・・・」
私は、二人の射るような視線に苦笑いを浮かべながらのろのろと立ち上がった。
「何言っているのよ・・・今日の影の主役は琴子、あんたじゃない!・・・これも入江先生の奥
さんとしての勤めよ」
真理奈が、ニヤつきながら、からかうように言う。
「まったくもう!・・・みんなしてそうやって面白がってるんだから!」
私は、口を尖らせながら怒った顔を作ったが、不思議とそれ程腹も立たなかった。
集合場所の噴水の前には、思ったよりもたくさんの新人ナース達が集まっていた。
まさかとは思っても、本当に私の品定めを目的にしているのなら、相当の覚悟をしていかな
ければならないと思っていた。
「さあ、これで全員揃ったかしら?・・・じゃあ、行きましょう」
幹ちゃんの号令で、十数人の集団が移動し始めた時、不意に入江君が私を呼ぶ声が聞こ
えたような気がして私は立ち止まった。
「おい、琴子!」
今度は確かに入江君の声が聞こえ、振り向くと病院の建物の方から小走りにこちらに向か
ってくる入江君の姿が見えた。
私が返事をするよりも早く、まわりから歓声があがる。
しかし、入江君はそんな黄色い悲鳴になど見向きもせずに、私だけを真っ直ぐに見つめて
やってくる。
私は、一条先生との会話を思い出しながら、ドキドキとその姿を見つめていた。
入江君は、私の前まで来るといきなり「幹事は誰だ?」と聞いた。
私が「幹ちゃんだけど・・・」と答えると、何も言わずに頷いた入江君は、おもむろに幹ちゃん
へ振り向いた。
「おい、桔梗・・・今日は、琴子は連れて帰るぞ・・・悪いな」
入江君は、そういうが早いか、きょとんとしている幹ちゃんの返事も待たずに、私の肩を抱
いて歩き始めた。
あまりに唐突な入江君の行動に、誰もが呆気にとられているのか、背後は静まり返ったま
ま誰の声も聞こえてこない。
当の私ですら、入江君に肩を抱かれたまま、ただ機械的に歩くばかりで、今起こっている
ことが現実とは思えずにいた。
しかし、わけもわからずに混乱する頭の中に、不意に「まかせておいて」と胸を叩いた一条
先生の姿が浮かんで、私は思わず病院の建物を振り返った。
すると、開け放した窓に身を乗り出すようにして、こちらを見ている一条先生の姿に目が止
まった。
「ねえ、入江君?・・・一条先生に何か言われた?」
私は、後ろを見たまま入江君に尋ねた。
「さあな・・・」
入江君の答えは、素っ気ないものだったけど、ちらりと見た横顔には、なんだか楽しげな
笑顔が浮かんでいた。
だから、私はきっとこの夢のような出来事は、一条先生の計らいなのだと確信していた。
だって・・・
カウンセリングルームの窓に立っている一条先生は、満足げに笑いながら、私に向かって
ピースサインを送っていたんだもの・・・
END
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、いかがでしたか・・・![]()
ぶっちゃけ、最後の直樹が登場するシーンが先に浮かんで、膨らませたお話です。
この時の、直樹の表情や、呆気にとられているナース達の姿まで浮かびながら読んでい
ただけたら嬉しいです![]()
ところで、直樹が一条先生に何か言われてこういった行動に出たことはあきらかですが、
いったいどんなことを言われたのかが気になりませんか![]()
もちろん私の読者の方なら気になりますよね~~
気になると言ってくれ~~!
・・・ということで、当然のように直樹バージョン書きます・・・![]()
ああ~どうして一条先生のお話書くときって、こんなにハイテンションになっちゃうんだろう・・・マジで・・・![]()
次回もどうぞお楽しみに・・・![]()
By キューブ
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