斜陽の差し込む渋谷のビルの群れの狭間で未だ見ぬ明日の姿をした虚無がやって来る。
橙色に染まった49枚ののガラス窓は余りに美しく、
その撥ね返る光に後押しされるかのように人々は夜へと歩みゆく。
失った過去を嘆いてももう其れ等は戻ることは無く、
帰ってきて欲しいと願うことは、
太陽と月を車輪にした車が欲しいとねだることより更に現実味の無いことだという。
両手をいっぱいに伸ばしたらその沈みゆく斜陽も捕まえられると、
人々が夜に消えていくその歩みを少しでも遅くできると、
そう信じている人々がいる。
誰が彼等の事を嘲笑う事が出来ようか。
その両手に抱えきれぬ苦悩と痛みを抱えても尚、
己の為せることで精一杯応えようとするその行為を。
想いは重なり響き合い何処までも続いてゆく
届きそうに無く思える事も強く想う事に意味が在ると
夜はもう直ぐ其処まで来ていて、
辺り一面を染めていく朱く眩しい光は余りに美しく、
一日の終焉を語るには十分過ぎる程で、
それでもまだこの美しさを感じていたくて、私もまた彼等と同じ様に両手を斜陽に差し出す。