『ムサシ』
作 …井上ひさし
演出…蜷川幸雄
とても、とても期待して、楽しみにして、無事に初日が開くことを祈って(何しろ井上ひさし氏の新作ですから…)この日を待っていました。
脚本が最終的に仕上がったのが初日2日前だったと聞いて、この舞台に関わったスタッフ、キャストのご苦労をしのびつつ、どんな舞台になっているのかワクワクとして席に着きました。
幕が開くと大きく輝く陽を背にした宮本武蔵(藤原竜也)とイライラと半日武蔵を待ち続けた佐々木小次郎(小栗旬)が向かい合います。
かの有名な巌流島の決闘です。
武蔵の一撃で小次郎は倒れ、吉川文学はここで終わりますが、井上ひさしのムサシはここから始まります。
巌流島から6年の歳月が流れます。
鎌倉の寺開きに武蔵の師 沢庵(辻萬長)や徳川家兵法指南役 柳生宗矩(吉田鋼太郎)らと参加した宮本武蔵。
武蔵はこの寺の建替えの作事も務めたようで武芸だけでは無い、彼の多才なところを見せています。
他に寺の大檀那である木屋まい(白石加代子)、筆屋乙女(鈴木杏)も参加し、まさに参籠禅が行われようとしているその時になんと死んだはずの小次郎が現れます。
巌流島で一命をとりとめた小次郎は、この6年“武蔵憎し”の一念で武蔵を追い続け、この寺にたどり着いたのです。
今度こそは平等な条件で決着をつけよう!
宮本武蔵と佐々木小次郎の2人は三日後の朝、再度の決闘を約束します。
一触即発の武蔵と小次郎。
2人の決闘を何とか思い止まらせようと、色々な工夫を凝らす周りの人々。
乙女の仇討も絡んで武蔵と小次郎の周囲は騒がしくなっていきます。
武蔵と小次郎は再度の決闘をするのか、それとも……
5人の男が互いの足を結び5人6脚で絡み、もつれ、組んず解れずの夜。
また、乙女の仇討に剣術指南をする小次郎。
すり足を教えているうちにいつの間にか冷静に眺めていた武蔵も取り込んでの群舞になってしまったりと客席を大笑いの渦に巻き込みます。
でもこの大笑いの中、各々のセリフや行動にこの舞台の結末へのヒントが隠れており、武蔵や小次郎の性格が見え隠れしたりしています。
特に5人6脚で絡み、もつれ、組んず解れずの中、小次郎は巌流島で武蔵が半日近くも自分を待たせたことを卑怯だとなじります。
待たされた中で平常心を保つ大変さ「勝つか、負けるか、このまま武蔵が来ずに戦わずして勝てるか…つまりまは生か死か、もしくはこのままか…体中をこの思いが駆け巡るのだぞ」と。
それに対し武蔵は「潮の流れを読んでいただけだ。お前を討った後、潮の流れにのって引き上げねば、逃げられないではないか」と答えます。
小次郎は「俺より長い刀を半身に構えて隠していた」
武蔵は「お前だってずいぶんと長いじゃないか。俺は一尺ほどお前より長かっただけだ」
小次郎「お前は陽を背に陣取り、眩しくてしかたなかった」
武蔵「だったらお前も陽を背にすれば良かったじゃないか…」等々(セリフは曖昧な記憶で要約です)
実は私の中での宮本武蔵は『策士』というイメージ。
剣の腕は確かなものだったのだと思いますが、彼は剣の腕に“頭”を使って色々な戦いに勝ち、世に名を残した。
小次郎が半日待たされて「公平ではない」と不満を漏らした、正にこの場面は笑いの中にも武蔵の武芸者としての本質のようなものが垣間見られたような気がします。
勝つためにはどうしたら良いか?
どうしたら勝てるか?
勝つことに拘った武蔵が磨いたのは剣の腕ばかりでは無く、その頭もかな?と……
また、乙女の仇討に剣術指南をする小次郎は時に饒舌で華やか、魅力たっぷりで周りの人々を自然と巻き込んで行きます。小次郎は多分、十分に自分の魅力を理解しているだろうと思われる。
そんな小次郎を冷めた目で眺めている武蔵さえも取り込んで、すり足の練習は群舞へとなり、観客をも巻き込んで笑いの渦となります。
しかし、そんな中でも武蔵は冷静に“無策の策”を考え、乙女達に授けます。
そして仇が目の前に現れ、周りの人間が仇の言動に振り回されている時に冷静に敵を観察し、勝負の瞬間を掴み「今だ…」と乙女に指示をだす。
武蔵の敵への観察眼と勝つための冷静な判断。
これまた武蔵の武芸者としての優れた一面が見られた場面です。
井上ひさし氏の本の面白さというか、ところどころにこんな井上ひさし氏流の武蔵像が出ているように思われました。
そして乙女が語る恨みの鎖をどう断ち切るか、仏が諭す生きることの大事さを笑いの中に込めて観客に伝えていきます。
武蔵を演じたのは、藤原竜也。
あくまでも私的感想ですが、この人は舞台にのるとイキイキと魅力的に見える。
特に今回は小次郎を演じる小栗旬が同年代の人気者(藤原竜也が人気者じゃ無いと言ってる訳ではなく…)であることが幸いしているのか、かなりノビノビと楽しそうに演じているよう。(舞台は苦しいもので楽な舞台なんか無いとどこかで話していましたが)
彼の武蔵は等身大で自然。
同様に小栗旬演ずる小次郎も非常に自然で力みが無いように見えました。
これまた井上作品の面白さなのかもしれません。
そして最後に白石加代子さん。
艶っぽく、美しく、巧み。
劇中で踊られる「蛸」という狂言は実にすばらしい。
萬斎さんに見て頂いたと語られていますが、とても見事でした。