入学式
4月、入学式の日
満開の桜とともに、あたたかい春の日差しが
病棟にもやさしく届けられる 
夕方になり、赤いランドセルを背負った女の子が
お母さんと一緒にエレベータから降りてきた。
たった1か月前まで元気で外出できていた70歳代
の女性Aさん。
そのベッドサイドに立ち、
「おばあちゃん、おばあちゃん、今日入学式だっ
たんだよ。 ちゃんと大きくおへんじできたよ!」
6歳の女の子が声を掛ける。
おばあちゃんは追視(声のする方を見ること)もなく、
返事をすることもない。表情にも変化なく、ただ宙を
見つめている。
Aさんは1か月前、脳出血でオペし、その後意識は
回復したものの障害が残り、今は鼻腔からの栄養
を入れて療養している。 高次脳機能障害である。
「おばあちゃん、1年3組になったんだよ。先生は・・」
反応のないおばあちゃんに向かって一生けん命話し
かける。
1か月前までは、笑顔で頷きながら 「そうなの~」 と
聞いてくれていたんだろう。
その光景に胸が締め付けられる想いがした。
ご家族がお帰りになり、その日の晩、Aさんはいつになく
興奮気味だった。「あー あー」 と悲し気な声を出し、いつ
も動かさない足をバタバタと暴れさせた。
そして一睡もすることなく朝を迎えた。
言葉は理解できなくなっているかも知れない。
破壊された脳細胞がもとどおりになることはない。
しかし、心は通じている。
そう確信しながらも、Aさんとそのご家族の気もちを考
えるとやりきれない。

