はらわたが煮えくり返りながら、とにかく懸命に心臓マッサージを施した。

2度か3度、仰向けに横たわる男性が「ぶほゎーっ!」と息を吹き返したものの、反応はそれだけ。

だんだん反応するまでの時間が長くなっている。

もう一刻の猶予もないのは明らかな状況だった。

ちょうどそんな時に、遠くから救急車であろうサイレンの音が聞こえた。

「助かる!」

そう思った。

心臓マッサージの手を緩めることも、救急車なのかを確かめに行くこともできないが、サイレンの音が近付いてくることは、耳からの情報でわかっていた。

救急車が近くに横付けされ、目の前の男性への専門的な蘇生処置に、もうすぐ取りかかってもらえる。

頭の中では、そんなイメージを持っていた。



サイレンの音が近くなり、ちらっと顔をあげた。

斜め前方に、確かに救急車がこちらに向かってきているのが見えた。

やっと来てくれた!

そう思ったのもつかの間だった。

救急車は我々に気付くことなく、さきほど通った横断歩道を横切り、目の前を通り過ぎて行ったではないか!。

その時口走った言葉は、特定の誰に向けたものではないが、とにかく怒鳴った!

心の底から湧き上がった怒りだった。

あの時、何て言ったのか。

声を張り上げて、おそらくこんな事を言ったはずだ。

「ざけんな!何で止めないんだ!!走って救急車連れてこいや!!ごらぁ~」

たぶんこんな事を言ったんだろう。



ヤツらは、いったいどこまで傍観者なんだ!

百歩譲って、心臓マッサージに関して傍観者である事は仕方ないとしても。

一日千秋の思いで、やっと現れた救急車を素通りさせたばかりか、誰も追うこともしない。

それしかできないのに、それもしない。

致命的な行為。

何のためヤツらは立っていたのか。

目の前にいる瀕死のおじさんは、自分とは無関係。

赤の他人。

関わることはしないが、興味はある。

その興味は何?

生きるか、死ぬか?

生きたらどうだ?

死んだらどうだ?

生きても死んでも、これから行く飲み会のネタにでもするのか?

死んだらかわいそうだったと思って、それで終わりか。

涙くらい流すのか。

生きたら、良かったと思って・・・。



当時はそんな事まで考えが及んでいない。

今にして思えば、多くの人達は、おじさんが心配で足を止めて見守っていたのだろう。

美しい人間愛だと思う。

そして興味本位で、暇つぶしで覗いていた人達もいたのだろう。

いずれにしても、変わらない。

そこにいた人達に、大差などない。

本気で心配しておじさんが助かるなら、医者はいらない。

そんなことで奇跡が起きるなら、世の中はこの上なくぬるい。

願ったり祈ったりで、現実が変わることはない。

必要な時に、必要なことをしなければ、現実は変わらないのだ。

それが厳然たる、神の定めた現実界のルール。

誰であれ、この掟から逃れることはできない。

③へつづく