第5話「真実」

レガソフはチャルコーフKGB副議長に呼び出されます

 

具合はどうだ?
昨日医者に診てもらったんだろ?


ご存じでしょ


チャルコーフは、レガソフがIAEA本部に事故は作業員のミスが原因だと報告したことを褒めます


嘘を言っただけです


演出というんだよ
レガソフ君


チェルノブイリ原発事故において、現場責任者の裁判が行われます

上層部への報告と自身の出世への焦りから実験を強行したという容疑です

確かにそれも事故の原因の一つではありました

しかし、旧ソ連政府としては事故の原因が人的ミスだけだと

海外へアピールするための茶番の裁判だったのです

レガソフは証人として、言うべき事実だけを淡々と説明します

途中でボリスの咳き込みが止まらず、裁判は休廷になります
 

ボリスは中庭で休んでいます
そこへレガソフがやってきました。



この町の歴史を知ってるか?チェルノブイリの


いや、よくは知らない


ユダヤ人とポーランド人がいた
ユダヤ人は虐殺されて、ポーランド人は追い出されて
残った者もナチスに殺された
だが、戦争の後
新たに人が移り住んだ
ここが血塗られた大地だってことは知ってたが気にしなかった
ユダヤ人やポーランド人とは違うから
自分たちは平気だと思ってた
それがこのザマだ


ボリスは血が滲んだハンカチを見せ、余命短いことを教えます
時間を無駄にして、何もやり遂げられなかったと悔みます
また、自分が事故処理を任された運命について語ります


俺は捨て石にされたんだよ
その程度の男だ
何かを成し遂げる人間になりたかったが
その横にいる脇役に過ぎなかった


ボリスはレガソフの肩をたたき、その成し遂げる人間こそレガソフだったと敬意を示します
レガソフは例の実直な表情で反論します


私の代わりはいくらでもいる
他の科学者でも務まるけど
あなたは違う
あなたは必要なものを全部そろえたくれた

人に資材に月面車まで
他の人にはできない
あなたの言葉に政府は動いた

たくさんの大臣やら副大臣やら、従順で愚かな役人たちの中で
偶然にもたった一人の適任者が選ばれた
ボリス
あなたこそが
一番重要な役だった


ボリスは自分の膝に必死になってのぼってきた毛虫の子を手に取りながらつぶやきます

 


美しいな…

レガソフは、裁判の茶番に付き合うのをやめて
原子炉の欠陥を政府やKGBが隠蔽しようとしていたことを告発します


その後、レガソフは別室へ連行され、チャルコーフKGB副議長が部屋に入ってきます
チャルコーフは世界的に有名になったレガソフを殺したらソ連の恥だとして
レガソフが放射線のせいで寿命が尽きるのを待つといいます
そして、科学者としての仕事を与えず、生きがいを奪い取ったまま孤独に死んでもらうとも伝えます

部屋を出る前にわかっている上で、ボリスとホミュックについて尋ねます




シチェルビナ(ボリス)は協力者か?


違う
何も知らなかった


ホミュックはどう関わっていた?


彼女も何も知らなかった


真実にこだわる君が
たった今、嘘をついたんだとしたら
実に興味深い



あなたほどの人だったら
嘘はすぐ見抜けるはずでしょ



君はあの二人と二度と接触できない
チェルノブイリに関する発言もいっさいできない
この先、取るに足らない存在として生き続け
死んだ後は
生きていた痕跡すら残らないだろう



私が拒否したら?


起きもしないことを考える必要があるか?

 


チャルコーフは部屋を出ていきます

その後のレガソフの人生は、嘘を報告した自分を責め続け自ら命を絶ちます


科学者とは実直な存在だ

我々は真実を追い求めるが
大半の人は真実を見つけてほしいとは思っていない
だが、真実は常にある
たとえ、人々が見ようとしなくても

真実は人の思惑や欲求、政府や観念や宗教に左右されない
ただ見つかることを待っている

今回チェルノブイリは教えてくれた

かつて真実の代償を恐れた私は今問いたい
嘘の代償とは何か


エンドクレジットでその後の事実を並べます


鉄橋に集まった見物人は全員が亡くなったと言われている
現在、この鉄橋は『
死の橋』として知られている



貯水槽の水を抜いた勇敢な3人の作業員は死亡したと報じられた
しかし、実際は入院後に全員が生き延びた
そのうち二人は現在も存命である


※ワレリー・ベスパロフ氏とアレクセイ・アナネンコ氏は現在存命です


ミハエル・ゴルバチョフは1991年のソ連崩壊まで連邦を統治した
彼は2006年にこう記している

チェルノブイリ原発の事故こそが
ソ連崩壊の真の原因かもしれない

 

 

 

 

 

第1話で鉄橋から火事の様子を眺めていた住民たちがみんな亡くなったという後日談は衝撃でした

無表情にただ空の光をみつめ、感情が読み取れない様子は当時の旧ソ連の人たちそのものを象徴しているのかもしれません

 

ただ、死の結末が待っているとわかっていながら、

志願して排水処理を行った3人の作業員たちの方々が生き延びられていたのは救いでした

感動しました

 

その後、ソ連は翌年の1987年にアメリカ合衆国と中距離核戦力全廃条約を結びます

そしてペレストロイカは急速に進展します

1989年にはベルリンの壁が崩壊し、その1か月後の12月に米ソがマルタ会談で事実上の冷戦終結を宣言します

1991年にソ連は解体され、CIS(独立国家共同体)として新しい体制に移ります

新しい連邦内では、インフレに悩まされ、核兵器の保有権問題、チェチェン問題など課題山積で険しい道のりをたどりますが

ウラジミール・プーチンという強力な指導者の出現で、国民は再びまとまり、大国のプライドを取り戻します

現在もウクライナ紛争などさまざまな問題を抱えていますが、

すべてはチェルノブイリから始まったという見方もまちがいではないと思います

 

このドラマで、ロシア人が何度も『祖国』という言葉を使っています

 

『祖国』の危機に直面した時、

『祖国』を守るため、

『祖国』の人々のために

自分が犠牲になる

 

あたりまえのことかもしれませんが

 

人の勇気は普遍的であるという真実を改めて教えてくれたドラマでした