1985年8月12日、群馬県上野村の御巣鷹山中に日航機が墜落した。
死者520名、世界最悪の飛行機事故だった。
生存者は休暇中の客室乗務員、母親と赤ん坊、小学生の女の子のわずか4名。
女の子がヘリに吊り上げられて救出された様子は、今もよく覚えている。

横山秀夫の『クライマーズ・ハイ』は、
この日航機事故の全権デスクを任命された地元紙記者を中心に描かれる。
当時、実際に地元紙の記者であった著者は
主人公の悠木を通じて「伝えたいこと」「伝えなくてはならないこと」を

真っ直ぐに訴えかける。

悠木はヒーローではない。
家庭に居場所がなく、上司に煙たがられ

部下に疎んじられている冴えない40男だ。
解説者によると「思い込み的なトラウマを引きずり、

(略)悩み多き四十歳の(略)多分に内向的で、

一見ネガティブな記者像」とのこと。
確かに。

主人公は登山を趣味にしているが、その理由も
「子供の頃からずっと消えることなく心に掛かっていた鬱屈の霧が、

ふっと晴れる一瞬があった」から。 暗い。

でも、だからこそ、悠木の思いはストレートに胸に響く。
手の届かない英雄ではなく、意気地なく「悩み多き」弱者。
派閥や売り上げや幹部の“過去の栄光”といった
ジャーナリズムとは遠いところにあるものを無視できない現実。
記者ヅラをすること、記者のプライドを保つこと、
読者の要望に沿うこと、読者におもねること。

悠木の悩みは尽きないが
日航機事故を誠実に伝えようとしていく中で
家庭に、上司に、部下に、仕事に
すべてのものを諦めていた姿勢が徐々に変化していく。

この本は、多くの中年を落涙させただろう。
若くっても「いい本だな~」とは感じると思うけども、
できることなら中年の悲哀がわかるようになってから読むと
きっともっと楽しめるでしょう。

オレの居場所はどこだ!
いや、居場所とか言ってる場合じゃないんだって。
誇りと気概を捨ててはいかん。
それが、自分の“場所”を作ることになるのだ!

と、かる~くまとめてみましたが、本当にいい本です。

日航機事故から20年以上を経たこの夏の間に、ぜひご一読を。


クライマーズ・ハイ (文春文庫)/横山 秀夫
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