日本銀行の資金循環統計によると2016年9月末の個人金融資産の残高は1752兆円に上る。個人金融資産が潤沢であることは理解できるが、桁外れな数値で金融業務とどう結びつくのか実感が湧かない。それに比べ、同じ日本銀行が事務局となっている金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」は世帯別、世代別、収入別、職業別、地域別など金融資産の保有額をより現実的に捉えられるとともに金融機関人として考えさせられる内容も秘めている。

 

金融資産保有額

 「家計の金融行動に関する世論調査」では多様な調査が行われているが、下記の表<A>は平成27年の金融資産保有額に関する調査項目の一部から切り出したものである。調査によれば二人以上の世帯の金融資産保有額の全世代平均値は1209万円である。それを世帯主の年齢別に見ると、20歳代が189万円、30歳代が494万円と世帯主の年齢が高くなるにつれ保有額も高くなり、保有額のピークは60歳代の1664万円となっている。長年、額に汗して働いた高齢者が相対的富裕層との結果である。資金調達、預かり資産等の業績を考えれば、年金受給口座の獲得など、高齢者世帯のメイン化が不可欠な状況が続いている。

 

平成27年 金融広報中央委員会 家計の金融行動に関する世論調査(事務局・日本銀行)

二人以上世帯の金融資産保有額 より筆者作成

 

 

平均値と中央値

 長年、この調査をウォッチングしているが、気になるのはa.平均値とb.中央値のあまりにも大きな違いである。平成27年度の平均値は1209万円、それに対して中央値は400万円。じつに3倍以上の開きがあり、平均値を平均値と呼べないような数値である。

ご存知のことと思うが、平均値は調査対象となった全世帯の金融資産保有額を合計して標本数で割った数値。それに対して中央値は、調査対象となった全世帯を保有額の少ない順(大きい順でも同じ)に一列に並べ、ちょうど真ん中にきた世帯の金融資産保有額である。

 

3割が金融資産非保有

 なぜ、平均値と中央値にこんな違いがあるのか。その理由の一つが<A>表c.金融資産非保有世帯(保有資産ゼロ)の比率が30.9%に達することにある。

例えば対象世帯を100世帯と仮定して保有額の少ない順に並べた場合、非保有が30世帯並び、そこから保有額が徐々に増加し列の真ん中にくる世帯の金融資産額が400万円となる。ちなみに、調査から推計すると平均値に達するのは70世帯を過ぎたあたりで、平均値以上の金融資産保有世帯は全体の30%に満たない。

<A>表d.金融資産保有世帯の平均値とは非保有世帯を除いた世帯の平均値であり、見てのとおりa.平均値の約1.5倍となる。この数値を平均保有額として紹介される例もある。

次号に続く