ベンチマークを本業に

 金融庁は9月15日に金融機関における金融仲介機能の発揮状況を客観的に評価する多様な指標「金融仲介機能のベンチマーク」を策定・公表した。このベンチマークは、かねてより金融庁の有識者会議(金融仲介の改善に向けた検討会議)などでも議論が進められており金融業界では情報が錯綜する中で、「事業性評価」(呼称)の行方に注目していた。今年6月には複数の大手新聞社が「地域金融機関」ではなく「地銀の地域貢献に指標」などの見出しで報道したことから、業界の一部には対象は地銀。信組・信金への適用にはタイムラグがある?との希望的観測?も流れた。今回の公表で取引先支援、地域活性化には地銀だけでなく、信組・信金が欠かせないと存在価値が認められたことを素直に喜びたい。

 

地域密着型金融への反省

今年3月に関東財務局で開催された「地域密着型金融に関するシンポジューム」において「地方創生等に向けた地域金融機関の役割とその課題」と題した基調講演で成城大学の村本孜教授はリレーションシップバンキング(以下、リレバン)に関して地域金融機関が、創業(目利き)・経営支援・早期再生などに取組むことが重要であったが金融庁が各金融機関に報告書の作成と開示を求めたことから各金融機関はその作業に埋没。アリバイ作りの「なんちゃってリレバン」と揶揄された。10年余りを経ても「担保や保証への依存」、「信用保証協会への丸投げ」など金融機関の変わらぬ実態がある。辛口の評価であるが、これも認めざるを得ない。

筆者は2003年、リレバンのスタート時に金融庁の「新しい中小企業金融の法務に関する研究会」(過度に担保・保証に依存しない新しい金融手法など議題)に参加するなど信金在職中はリレバンに関与した。退任後、研究活動などで信金だけでなくすべての協同組織金融機関、地銀、中小企業の経営者、公官庁、大学等と交流しているが、その中で見えてきたことが二つある。

一つは様々な機関、組織と連携することで取引先支援のメニューの拡充と実効性を飛躍的に向上できること。

もう一つは、各金融機関の取引先企業の支援、地域活性化などの取組みに著しい格差があること。そして、その格差が拡大していことである。

 

ベンチマークを本業に

 リレバンがスタートした十数年前と比べ社会・経済環境は厳しさを増している。人口減少の現実化。経営者の高齢化。事業所数の激減。欧米に比べて低調な開業率。地域あっての信組・信金であるが、その基盤が揺らいでいる。

このコラムで何度か述べてきたが、地域金融機関は地域の金融のプラットホーム(金融の拠点)として地域と取引先を金融面で支えてきたが、今求められているのは、金融支援+取引先支援+地域活性化=地域振興のプラットホーム(地域振興の拠点)への転換ではないか。金融支援に傾注してきた金融機関に取引先支援、地域活性化のノウハウは乏しいが、取引先支援も地域活性化も本業と認識すれば、限られた人員の配置、人材の育成、業務全般の改革にも及ぶはずである。

 

「金融仲介機能のベンチマーク」を当局がどのように運用するのか明確に把握できていないが、「ベンチマーク」に違和感や警戒感を示すより、自らの組織の実態を把握し、改革する千載一遇のチャンスと捉えてみてはどうか。