このコラムでは、CS向上をテーマにしているが、先月に続き、今月もCS(組合員満足・顧客満足)を支えるES(職員満足)を取り上げる。

重荷を背負って
 まもなく、新入職員を迎える季節となる。希望に胸膨らませて信用組合の職員としてスタートをきる新人の経済的事情を信組業界人はご存知であろうか。
 独立行政法人・日本学生支援機構の「学生生活調査」(平成24年度)によると、奨学金を受給している学生の割合は大学学部(昼間部)で52.5%、大学院修士課程で60.5%となっている。なんと、大学生の二人に一人以上が、奨学金を利用しているのである。日本の奨学金は給付型ではなく、返済が必要な貸与型が9割を占めている。有利子のケースの奨学金月額は3、5、8,10、12万円から選択できるが、仮に8万円とすれば年96万円。4年間で480万円。驚くような重荷を背負って社会人のスタートを切ることになる。
東京私大教連による首都圏の私立大学、短期大学の家計負担調査(2014年度)によると、自宅外通学者への仕送り額の平均(6月以降)はピークであった1994年バブル期の月12万4千9百円から年々減少。2014年度には月8万8千5百円と過去最低額を更新し、家賃を除いた1日あたりの生活費は8百97円となっている。学生は生活を維持するためにアルバイトが不可欠の状況に置かれ。そして、アルバイトを辞められない学生の足元を見透かしたブラック企業が学生を不当に追い込んでいる悲しい構図が見えてくる。

若手職員の現実
 筆者も残念ながら学生の立場に立って考えられるようになったのは退任して大学や大学院のマーケティングの講座などで講師を務めるようになってからである。数年前、講座でお世話になった女性教授から「このごろ女子学生の服装が質素になった。カジュアルと言うより、まるで部屋着のよう」との話を聞いた。ちょうど、奨学金受給者が半数に迫るとの情報を得ていたので、「奨学生の増加や仕送りの減少が学生の服装にも表れているんですね」と話したが、教授の返事は以外にも「そうなんですか」であった。
大学の教授が学生の事情を知らないことにショックを受けたが、金融機関に当てはめれば、借金を抱え、苦労している新入職員や若手職員が多数存在するという事情を金融機関は考慮していない。その現実に気づき大いに反省した。

変化に対応して
 若手職員の奨学金に関連した経済的状況についての金融機関になんら責任があるわけではないが、このような社会情勢の変化を認識し、例えば、内定者がアルバイトをしていることを前提に、予定外、急な召集は行わない。入組前の事前研修には交通費を含め、気持ちではなく、より適正な報酬を支払うことなど気配りが求められる。また、信用重視の金融機関にとってコンプライアンスは重要な課題であるが、もう一度、職員の不満、反感につながるようなサービス残業的な慣行など残っていないか、組織が職員に対して果たすべきコンプライアンスは徹底されているか点検してみてはどうか。

 ES、CSに決め手なし。職員の声に出せない「声」を聴き、真摯にきめ細かな対応を重ねることが「職員満足」向上につながり、職員が「信用組合に勤めて良かった」と感じられるようになれば、それが「顧客満足」向上の大きな力となる。切り口は身近なところに、いくらでも転がっている。