・出典:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
・ニュースレター第117号
カネミ油症患者の次世代、次々世代の健康調査
水俣協立病院名誉院長/菊陽病院医師 藤野糺
2014年より全国の医師・歯科医師とともに北九州市、名古屋市、長崎県五島市奈留町にて未認定患者の健康調査を実施してきた*1・2。
これらの中で次世代、次々世代の主な結果を報告する(年齢は調査時のもの)。
北九州市在住の女性(1957年生、57歳)は小学2、3年頃汚染油を食し、母、兄と一緒に九大での第1回目の検診から受診し未認定が続いているが、私たちはカネミ油症と診断した。
女性は23歳時結婚し、8回の妊娠で4回の流産・死産を繰り返し、生まれた4人の子(次世代:長男、長女、次女、次男、32~17歳)は全員が異常出産であった(表1)。
また全員に油症診断基準に該当する症状が認められた(表2)。
さらに、長男は20歳に膀胱癌で手術をし、次男は精神症状と両下第3大臼歯の半埋伏歯があった。
長女には陰部皮疹、左卵巣嚢腫、次女には修学前に不正性器出血や婦人科症状・所見と肥満(BMI: 長女33.8、次女42.5)が認められた。
4人とも小中学校は休みがち、次男は不登校に近く、長男は私立高校に行くも欠席がちで、他の3人は通信高校に在籍している。
4人とも仕事が人並みにできない。
2012年の救済法で救済(認定)された長崎県五島の奈留町より名古屋市などに転出したきょうだいの姉(1950年生、65歳)、弟(1954年生、61歳)とそれぞれの子計6人(次世代:姉の長女、次女、長男、三女、42~32歳、弟の長男、次男、24、22歳)、姉の孫3人(次女の子、次々世代:長男、次男、長女、19~6歳)を含む未認定の11人(男6人、女5人)を対象とし2015年、18年に調査した。
なお、弟の妻すなわち子の母親(1954年生、61歳)も奈留町の出身で未認定であるが、私たちはカネミ油症と診断した。弟の長男を除く継世代の8人に対し歯科レントゲン撮影を実施した。
ここでは他の症状・所見は省略し、歯科所見で特徴的であった永久歯の先天性欠如についてのみ述べる。
なお、日本小児歯科学会学術委員会が1万5544人を対象に実施した永久歯先天欠如の疫学調査*3では、第三大臼歯を除く永久歯の先天性欠如者数の発現頻度は10.09%である。
同調査の歯種別発現頻度は( )内に示す。
姉の次女は両上第2大臼歯(右0.55、左0.52%)、三女は左下側切歯(1.74%)の先天性欠如が認められた。
弟の子では早産で1504g の低体重児で生まれた 次 男 に 両下第2大臼歯(右0.07%、 左0.11%)、右下中切歯(0.75%)、左下第2小臼歯(3.12%)の先天性欠如が認められた。
次々世代でも他の症状と長女の右下側切歯(2.54%)先天性欠如が認められた。
一般的には少ない頻度のパターンが1家系の次世代、次々世代8人中4人(50%)に欠如本数、歯種別に極めて高率に認められたことは特異的であると考えた。
油症診断基準には「小児期の被曝での歯牙異常(永久歯の萌出遅延)」が参考所見とされているが、このような歯牙の先天性欠如は現在問題となっているカネミ油症の次世代、次々世代に及ぼす影響*4である可能性を示している。