5:室内環境指標としての総揮発性有機化合物(TVOC) | 化学物質過敏症 runのブログ

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・6 TVOCの効用と使われ方
前節でも触れたようにVOC全体を合算する手法は化学的にも毒性学的にも元来精度と意味には限界があったものであるので,厚生労働省のガイドラインでも,また,それを援用した建築学会規準でもVOC全体の管理目標としてのTVOCになっていると考えられる。

これはTVOCは可能性を示すものであるというM・lhaveの意図に沿ったものといえよう。

しかし,400・g/m3という数値が苦情処理に役立った反面,数字がその適用範囲を超えて有害性判定に用いられた面もあったことも否めない75)。
第1節で述べたようにTVOCは数十ないし数百も検出されるVOC全体の代表値であり,国内外の多くの室内環境調査報告や研究論文でも浮遊粉塵やホルムアルデヒド,NO2などの汚染物質とともにVOCの特性を示す指標の一つとして国内外で用いられて来た3,76,77,78,79,80,81)。
TVOCを採用していない国(デンマークや米国)(表6参照),当初採用したが止めた国(ノルウエー)などがある82)が,いくつもの国で指針値として使われ,日本では厚生労働省の指針の中で暫定管理目標値であり,建築環境規準ではこれを超えるとき施主にも精密測定を推奨し,入居までに特段の換気など低減対策と,施工者も高濃度成分を明らかにしてその後の対策に生かすとしている。
厚生労働省シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会の指針値のある13物質(VOCは6物質),大気汚染で規制されているベンゼン,トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン,ジクロロメタン83)以外の化学物質が代用として使用されることも多くなってきている中では,大まかな指標としてのリスク低減84)のために400・g/m3の妥当性はともかくTVOCの規準が存在する意味はある5)。

TVOCによる評価を批判するWolkoffらの指摘するオゾンと反応するα-ピネンもTVOCの一部であり,α-ピネンが主成分の一つであるTVOCを下げることはリスク低減につながるはずである。なお,我が国ではパブリックコメント等でTVOCの導入を強く求める意見もある。
簡易測定法で触れたようにVOCの組成比が類似した対象であればTVOCが適用しやすく,TVOCモニタも使える。

TVOCは発生源対策としてのドイツなどでの建材評価のラベル化49,85,86),日本工業規格の「JISA1901小形チャンバ-法」13)などにも取り入れられ,建材・施工剤の進歩にも寄与している。またTVOCモニタ(簡易法)も室内発生源の部位別比較にも使える56)。

しかし,VOC組成比の異なる材料や部位(例えば化粧板と接着剤)であればやはり同じ問題が残るので,部位別比較でも組成比の異なる部位であれば高い精度は期待できないことになる。材料試験の場合,材料(モニタと標準物質指定)ごとのTVOC評価基準が求められる。
TVOC濃度レベルと経時変化:日本の新築や中古住宅のTVOC濃度レベルはかなり低下している。

例えば,日本で室内環境問題が顕著になり始めた1990年代のVOC低減を意識しない時代のRC工法による集合住宅のTVOC(竣工直後300mg/m3,1ヵ月後30mg/m3(自然換気のみ)87)と,対策の浸透した近年のTVOC(竣工直後2~9mg/m3, 1ヶ月後0.5~1.5mg/m3)88)を比較すると夏季の1ヵ月後の比較で約1/20になっている。
TVOCは必ず経時変化を伴うのでTVOCの評価では問題になる。

厚生労働省の指針では居住環境に全て適用するということだけで,竣工時期との関係があいまいである。

M・lhaveはTVOCは急性の影響にも長期間暴露の慢性の影響にも適用できるとしている10)が,日本の400・g/m3を含む値の決め方からして安定した長期間の平均値である1)。

300・g/m3が提案されていた当時のヨーロッパでは竣工後1週間で50倍,6週間で10倍の提案があった48)が,表5のドイツの指針値にはこの趣旨が反映されている。

新築や大規模のリフォームの竣工直後を主な対象にしている建築学会規準でも400・g/m3のクリアを到達努力目標としている。

なお,経時変化のデータは例えば先の例でも測定されているが,工法や建材の種類のほか竣工時期や竣工のまでの経過,成分が違えば減衰率は必ずしも一致しない89,90,91)。
低毒性VOCとの関係:TVOCは基準値(あるいはユニットリスクなど)のあるVOCがいずれも基準値をクリアしても,より毒性の低い特定のVOCの濃度が特異的に高ければTVOCはクリアしないものになる。

この点への配慮は厚生労働省の指針1)でも求められ,日本の家屋で比較的高い生活由来の低毒性のエチルアルコールは除外してTVOCを評価するという考え方も紹介されている。

一方,テルペンの一種α-ピネンは木造住宅92)だけでなく,木質材料を内装材に使ったRC住宅でも数千・g/m3を超えることもあり,TVOCへの寄与率は1/3~1/2に及ぶ89)。

α-ピネンは天然物でフィトンチットの主成分であるが,森林中での濃度は20~200・g/m3程度である93)。

ドイツではα-ピネンを指標物質とする二環式テルペンの室内環境指針値として0.2mg/m3(RWⅠ),2mg/m3(RWⅡ)が提案されている50,94)。
TVOCについては2006年以降,IndoorAir2008やHealthyBuilding2009の予稿集から学会の動向を伺っても新たな展開はみられないように見えるが,TVOCを批判して来たWolkoffらは症状をもたらす微少刺激性物質の測定をすべきだとするフォーラム95)を持っていた。

一方,TVOCの症状との比例性が希薄だという見方が大勢で,それが微小刺激成分の共存によるとされるなら,TVOCに加えてそれらの成分の測定も行えばよい。

厳密に定義して定量を行っても化学的な表示精度が低く,また本質的に毒性学的な表示でないTVOCは竣工時期との関係を含めた見直しも必要であろうが,TVOCは400・g/m3の数値にとらわれることなく,臭気成分や相乗作用なども含め,基準値の設定されない多くのVOCがある中で,総合的簡略表示として大まかで相対的な濃度の管理指標としてVOC低減にこれからも寄与すると考えられる。