環境ホルモン研究 最近の話題 ―ビスフェノールAを中心として | 化学物質過敏症 runのブログ

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・出典:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議

・有薗幸司氏(熊本県立大学教授/環境ホルモン学会会長)
環境ホルモン研究 最近の話題 ―ビスフェノールAを中心として
地球規模の深刻な化学物質汚染

2017年、Lancet commission(医学系国際学術誌委員会)は、環境汚染が世界の人間に健康被害をもたらしており、なかでも後進国、開発途上国の被害が顕著で、化学物質汚染は世界的な大問題と発表した*1。
有害な化学物質としては、ヒ素、鉛、水銀、塩化ビニル製品や PCB などの有毒物質も未だに問題だが、発がん性、変異原性、催奇形性をもつ物質、さらに内分泌かく乱物質(以下、環境ホルモン)も挙げられている。

環境ホルモン作用は、農薬 DDT、PCB、PBDE、ダイオキシン、鉛、水銀、プラスチック原料のフタル酸類、ビスフェノールA(BPA)などで報告され、人間では生殖系や子どもの発達への悪影響が懸念されているが、ここでは BPA に焦点を絞る。
BPA はポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル安定剤、感熱紙(レシート)等々、食器から電子機器の材料など幅広く多用されてきたが、環境ホルモンが問題となってからエストロジェン活性が判明し、世界では規制が進んでいる。
BPA は、樹脂化した高分子状態では問題がないが、製品中に残留した単体 BPAや加熱により遊離する単体 BPA、感熱紙の顕色剤としての BPA が問題となる。

劣化したポリカーボネート製品を加熱した際に遊離してくる BPA は、条件によって異なり、実際には製品中に残留した単体がより問題である。
海外におけるBPA の規制EU―欧州化学物質庁(ECHA)は、BPA に生殖毒性や内分泌かく乱毒性があるとして、2018年1月、REACH 規則の認可対象候補物質(高懸念物質 SVHC)に指定した。

また、感熱紙に200ppm 以上の含有を2020年1月から制限される。

3歳未満の子ども向け玩具で、移行限度は従来の0.1mg/L から、0.04mg/L に変更され、2018年11月から適用。

食品接触材料に関しては、BPA の移行限度は食品1kg当たり0.6mg から0.05mg に引き下げられ、乳児や3歳児未満の子ども向けでは移行は認められていない。
 米国 ―環境保護庁(EPA)では、BPA アクションプランにより規制強化を検討中。

食品医薬品局(FDA)では、BPA の食品接触利用制限に関する情報を開示しており、現在承認されている使用では安全としているが、子どもの健康には懸念ありとして、子ども用製品への規制が強化されている。

哺乳瓶や乳児、幼児用の食器などには BPA を使用しないよう義務付けている。

カリフォルニア州では、独自に州法による規制 Proposition65を進め、BPA は女性への生殖毒性有りとして規制を強化している。
 中国―BPA を含む哺乳瓶の生産や輸入を禁止している。
 日本―ヒトに対する耐容一日摂取量が1993年に、0.05mg/kg 体重 / 日と設定された。それに基づいて、我が国の食品衛生法の規格基準においては、ポリカーボネート製器具及び容器・包装からの BPAの溶出試験規格を2.5μ g/ml(2.5ppm)以下と制限している。

国産の缶詰については、BPA の 溶出濃度 が 飲料缶 で0.005ppm 以下、食品缶で0.01ppm 以下となるよう、関係事業者による自粛が進み、2008年7月には業界のガイドラインが制定された*2。
プラスチックに含まれるBPA 以外の環境ホルモン
プラスチック原料、添加物のうち環境ホルモン作用のあるものは BPA 以外に、フタル酸エステル類や BPA 代替物が問題になっている。動物実験では BPA とフタル酸エステルの一種 DEHP の複合曝露で、雄の生殖機能の低下や仔マウスの性比に異常が起きたと報告されている*3。日本ではBPA の代替物 BPS の使用が増え、2012年の論文では、ヒトの尿中の BPS 量は米国、中国、インド、韓国など8ヵ国のなかで、日本が最も高い値であった*4。BPSにもエストロジェン作用が確認されている。
化粧品やパーソナルケア用品に含まれる環境ホルモン
 化粧品、パーソナルケア用品にも環境ホルモン作用が懸念されるものが多く含まれる。防腐剤のパラベンも環境ホルモン作用が指摘されている。台湾では、2011年、食品や飲料に DEHP などフタル酸エステルが違法に添加され、国外にも輸出され問題となった*5。

缶詰の内面コーティングから溶出する BPA
1990年代後半、缶詰や缶飲料の内面コーティングに BPA が使用され溶出が問題となった。

その後、国産に関しては対策が講じられ、2004年の研究では BPA 溶出の減少傾向が確認された*6。

一方、外国産の缶詰では、中国産アスパラガスに約40ppb の BPA が検出された。レシートやパンティストッキングの BPAビスフェノール類 BPA、BPS は、レシートなど感熱紙の顕色剤に使われており、接触経由で体内に取り込まれる*7。

最近ではプラスチック製のお札にも使用されており、皮膚経由の曝露が懸念される。

また、2018年の論文ではパンティストッキングに含まれるビスフェノール類を調べたところ、中国産、日本産に高濃度で検出された*8。
BPA 代謝物 MBP のエストロジェン活性
BPA の代謝物 MBP は、メダカ、ラットの実験で、BPA と比べ数百から数千倍のエストロジェン活性が報告され*9、ヒトのエストロジェン受容体にも、より強い結合性が確認されており*10、代謝物についても考慮する必要がある。
食品用器具・容器包装の規制2018年6月に、食品衛生法の一部を改正する法律が公布され、食品用器具・容器包装について、国際整合性を確保するため、これまでのネガティブリスト制度に代わり、安全が担保されたもののみ使用するポジティブリスト制度が導入されることになった*11。
海洋プラスチック、マイクロプラスチックの問題
 廃棄されたプラスチックゴミは最終的に海へ流入し、誤食などで海洋生物に悪影響を及ぼすだけでなく、5mm 以下のマイクロプラスチックとなって、世界中の海を汚染して社会問題となっている。

マイクロプラスチックは、プラスチック自体からの有害化学物質の溶出に加え、海水中の PCBなど残留性有機汚染物質を10万~100万倍の濃度で吸着するため複合影響が憂慮されている。最新の論文では、太平洋のマイクロプラスチックは2030年までに約2倍、2060年までに約4倍の増加が予測されている以上、有薗先生に深謝するとともに、報告者の感想を一言述べさせていただく。

有薗先生の示されたように世界で BPA の法的規制が進んでいるが、日本では企業の自粛に頼っており、環境ホルモン全般に関する法的規制が必要と考える。

またプラスチックの海洋汚染は重大な環境問題であり、日本は早急にプラスチック削減に着手する必要がある。

これらの課題の解決に向けて、国民会議は政策提言を出すなど真摯に取り組まねばならない。
(報告者 木村‐黒田純子)