3-2 あらゆる工場が悪臭発生源
次に、どのような工場、事業所が悪臭苦情の対象となっているかについてみてみよう。2013年度の悪臭苦情の内容3)を調べると、図-5のようになる。
この図からもわかるとおり、苦情の対象となる工場はありとあらゆる工場が対象になっている。
図-5 悪臭苦情件数の内容(2013 年度)
図-5からも分かるように、2013 年度のデータをみると、苦情件数の多いのは、「野外焼却」、「サービス業・その他」、「個人住宅・アパート・寮」、「畜産農業」の順になっている。
「畜産農業」は 1970 年代と比較して、近年これらの施設数は減少傾向であるが、その規模は反対に大きくなっており、近年また各地で悪臭問題を発生させており、対策が急がれている業種である。
「畜産農業」は動物からの糞尿、及び糞尿から作られる堆肥製造過程が主な悪臭発生源である。
また硫黄系などの悪臭成分が問題となる製紙工場、石油精製工場、し尿処理場、下水処理場など比較的規模の大きな事業所は、過去においては大きな悪臭発生源であったが、近年においては悪臭対策が進み、以前と比較するとかなり改善されてきた。
比較的大きな事業所においては、比較的資金的な余裕及び社会的な責任のため悪臭対策に取り組んできたという背景がある。
それに対し、近年塗装工場、印刷工場、洗浄工場など比較的中小規模の事業所に対する悪臭苦情が問題となっている。
塗装工場周辺では塗料からのシンナー臭が問題になるし、印刷工場でも同様にトルエンなどの溶剤臭が問題となっている。
また、最近では、飲食店や自動車修理工場などの「サービス業・その他」、及び「個人住宅・アパート・寮」に対する苦情件数が増加している。
特に、ラーメン屋、焼肉屋など飲食に関わる悪臭苦情は決して低減しておらず注意を要する。
悪臭防止法の規制対象にはならないが、「個人住宅・アパート・寮」については、FF 暖房機、石油給湯器などの排気臭、ごみ置き場臭などが含まれている。
近年では近隣の洗濯物からの柔軟剤の香りも、悪臭苦情の対象になることがある。
3-3 コーヒーの香りでも悪臭苦情
悪臭苦情の内容を詳細に調べてみると、ありとあらゆる事業所が苦情対象になっていることがわかる。
一見快い香りと思われている、コーヒーの焙煎のにおい、ほうじ茶を煎るにおい、パンを焼く香ばしい香りも悪臭苦情の対象になっている。
これらの事業所に対して悪臭苦情が発生すると、行政の担当者が立ち入りすると、工場の経営者ないしは担当者は、「うちの工場では、快いにおいは出しているが、悪臭は出していない。」と反論することも多い。
一見、快いにおいであるコーヒーの香りが、なぜ悪臭の苦情対象になっているのかは、多くの人には不思議に思われるかもしれない。
においに対する快・不快度は、においを嗅いでいる時間に大きく影響を受けるといわれている。短時間嗅いだときは快くても、長時間か嗅がされると不快になることもある。
また、嗅がされる人の状況にも大きく依存する。
この問題を考えるとき、同じく感覚公害である騒音の場合と比較してみると納得ができる。
すなわち、騒音苦情の中を調べてみると、一見快い音色であるピアニストが奏でる音楽でも、隣家で昼寝でもしようと思っている人にとっては騒音に感じ、騒音苦情になるのである。これが感覚公害の特徴でもあるし、難しさでもある。