9) クロルデン類
クロルデンについてFAO/WHOが定めた暫定1日受忍摂取量(Provisional Tolerable Daily Intake:PTDI)は,0.5 µg/kg/dayである.
実態調査により得られた数値から(Table 1:クロルデン類合計最大値:22.3 ng/m3),空気由来の曝露量最大値を求めた結果,クロルデン類の曝露量最大値は,主婦:0.006 µg/kg/day,会社員:0.004 µg/kg/dayと求められた.
また,クロルデン類曝露量最大値がPTDIに占める割合は,主婦:1.1%,会社員:0.74%であった.
なお,食事由来曝露量については,香川県がマーケットバスケット方式によりクロルデン類摂取量を調査しており,trans-クロルデン,cis-クロルデン,trans-ノナクロル,cis-ノナクロル,オキシクロルデン及びヘプタクロルの合計で,本調査と同年(2002年)の摂取量は0.003 µg/kg/day,翌年(2003)では0.001µg/kg/dayとの報告がある54,60).
したがって,クロルデン類については,室内空気由来曝露が食事由来曝露量を上回るケースがあることが判明した.
10) 各物質の曝露量比較
空気由来曝露量最大値を算出した物質のうち,TDIあるいはADI等に占める割合が大きかった上位5物質は,主婦ではTCIPP(89%),クロルピリホス(10%),TCEP(4.7%),DnBP(2.7%),BDE-99(1.8%)であった.
一方,会社員における上位5物質はTCIPP(58%),ダイアジノン(7.5%),クロルピリホス(6.9%),TCEP(6.1%),フェニトロチオン(3.5%)であった.
以上の結果から,TCIPPについては室内空気からの曝露量が,TDIの90%程度を占めるケースがあることが判明した.
また,主婦と会社員とを比較すると,主婦では壁紙や床シートなど,住宅の内装材に主に使用されている難燃剤(TCIPP及びTCEP)・可塑剤(DnBP),電化製品等に使用されている難燃剤(BDE-99)及びシロアリ駆除剤(クロルピリホス)が上位を占めたのに対し,会社員については難燃剤(TCEP及びTCEP)に加えて,オフィスビル内の殺虫消毒に使用される有機リン系殺虫剤(ダイジノン,クロルピリホス及びフェニトロチオン)が上位を占めることが明らかとなった.
また,空気由来曝露量と食事由来曝露量を比較すると,クロルデン類,フェニトロチオン,BPA及び4-NPについては,空気由来の曝露量最大値が食事由来の曝露量最大値と同等,あるいは,空気由来曝露量最大値の方が大きいケースがあることが判明した.
お わ り に
フタル酸エステル類,リン酸エステル類,ビスフェノールA,アルキルフェノール類及び臭素系難燃剤は,主な用途がプラスチック原料あるいは添加剤である.
したがって,室内におけるそれらの挙動を考えると,プラスチック製品からの放出により,室内空気を汚染すると考えられる.
また,有機リン系殺虫剤,ペルメトリン,フェノブカルブ,DDT類及びクロルデン類等については,居住者が意図的に殺虫剤を使用することが主な汚染原因と考えられる.
しかし,それ以外に,住宅新築時のシロアリ駆除,畳の防虫シート等に使用され,オフィスビルでは定期的な害虫駆除にも使用されることから,殺虫剤使用の有無について居住者に情報が示されていない場合も多い.
ヒトは一日の約8割の時間を室内で過ごしている.大人が一日の呼吸で吸い込む空気の量(約15m2)は重さにすると約20kgになり,一日に飲む水の量約2 L(2 kg),一日に食べる食物の量約2 kgと比較すると約10倍量の空気を摂取している.
したがって,室内空気が化学物質により汚染されていれば,その濃度が微量であっても,気付かない間に多くの化学物質を空気から取り込むことになる.
SVOCは比較的揮発性が低いため,VOCに比べれば空気中濃度が低い場合が多いが,環境ホルモン作用を有するという観点から見た場合,空気由来の曝露量把握はリスク評価に不可欠であり,今後とも継続した調査が必要と考えられる.