2. 曝露量推計結果
実態調査の結果から空気由来の曝露量を推計し,ADIあるいはTDIが示されている24物質について,それぞれの曝露量最大値がADIまたはTDIに占める割合を算出した.
結果をTable 2に示す.以下に物質群ごとの概要を示す.
1) フタル酸エステル類
DnBP及びDEHPについては厚生労働省から室内濃度の指針値が示されているが34),この指針値を策定するにあたりTDIが提示されている.
DnBPについては,DnBPの混餌投与を行ったラットの世代試験より,第1世代児動物の体重減少を指標として最小毒性量(Lowest Observed AdverseEffect Level:LOAEL)を66 mg/kg/dayとし35),これに不確実係数(Uncertainty Factor:UF)=1,000を適用してTDI=66µg/kg/day[TDI=66 mg/kg/day/1,000=66 µg/kg/day]としている36).
一方,DEHPについては,ラットに投与した時の影響を見た報告より37),精巣の病理組織学的変化を指標として無毒性量(No Observed Adverse Effect Level:NOAEL)を3.7 mg/kg/dayとし,これにUF=100を適用して,TDI=37 µg/kg/day[TDI=3.7 mg/kg/day/1,00=37µg kg/day]としている38).
実態調査により得られた数値から(Table 1),空気由来の曝露量最大値を算出すると,DnBP:主婦1.8 µg/kg/day,会社員1.7 µg/kg/day,DEHP:主婦0.62µg/kg/day,会社員 0.49µg/kg/dayであった.
これらの値を前述のTDIと比較すると,空気由来のフタル酸エステル類曝露量最大値は,DnBPについてはTDIの2.6%~2.7%,DEHPについては1.3%~1.7%を占めると推計された.
DEHPの曝露量は食事由来の摂取割合が高いことが報告されているが39),平成14年度に行われた環境省の調査40)より食事中のフタル酸エステル類最大値を用いて一日の食事量(2 kg)及び平均体重(50 kg)から食事由来の曝露量最大値を算出すると,DnBP:家庭食2.7 µg/kg/ day,外食等6.8µg/kg/day,DEHP:家庭食13 µg/kg/day,外食等6.8 µg/kg/dayであった.
この推計結果を空気由来の曝露量と比較すると,2物質とも食事からの曝露量の方が空気からの曝露量よりも多かった.
しかし,空気由来曝露量/食事由来曝露量の比率をみると,DEHPの空気由来曝露量最大値は,食事由来曝露量最大値の4%~9% であったのに対し,DnBPでは25%~67%を占めDEHPよりも室内空気由来曝露の寄与が大きいと推察された.
2) リン酸エステル類
リン酸エステル類については,現在,国内では指針値等は示されていないが,スイスでは調査対象物質のうち8種のリン酸エステル類についてTDIが示されている41).
そのうち,室内空気中からの検出率の高かったTCIPP及びリン酸トリス2-クロロエチル(Tris(2-chloroethyl)phosphate :TCEP)のTDIを見ると,TCIPPではラットへの経口投与による影響を見た報告より42)NOAEL を36 mg/kg/day とし,これにUF=10,000 を適用して,TDI= 4 µg/kg/day としている.
一方,TCEPについてはラットに投与した時の影響を見た報告より,肝臓と腎臓の相対重量増加を指標としてNOAELを22mg/kg/dayとし43),これにUF=10,000を適用して,TDI=2µg/kg/day としている.
実態調査により得られた数値から(Table 1),空気由来の曝露量最大値を算出すると,TCIPP:主婦 3.6 µg/kg/day,会社員 2.3 µg/kg/day,TCEP:主婦 0.09 µg/kg/day,会社員0.12 µg/kg/dayであった.
これらの値を前述のTDIと比較すると,空気由来のリン酸エステル類曝露量最大値は,TCIPPについてはTDIの58%~89%,TCEPについては4.7%~6.1%を占めると推計された.
その他,TDIが示されている6物質(TBP,TEHP,リン酸トリス(ブトキシエチル)(Tris(butoxyethyl)phosphate:TBEP),リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)(Tris(1,3-dichloro-2-propyl)phosphate :TDCPP,リン酸トリフェニル(Triphenylphosphate :TPHP)及びリン酸トリクレシル(Tricrecylphosphate :TCP))についての暴露量は,主婦:TDIの1.3%以下,会社員:TDIの2.0%以下と試算された.
食事由来曝露量については国内のリン酸エステル類調査データはほとんど無く,TCEPの食品中濃度は1997年度の環境省の調査でいずれも検出下限値 (0.005 µg/g) 未満であった(n=45)44).