・出典:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
・木村‐黒田純子氏(環境脳神経科学情報センター/JEPA理事)
人間と細菌の共生関係「マイクロバイオーム」 ―抗菌剤、殺菌剤などの乱用が引き起こす健康障害
微生物、細菌と聞くと、怖い感染症を思い出すかもしれない。
しかし感染症を起こす微生物や細菌以外に、地球上には細菌類、カビ類など微生物が莫大な数生存し、地球生態系を維持している。
細菌の中でも真正細菌*1はいちばん多く、その数は1030にもなり、重量換算すると世界の総人口約74億人重量の千倍にもなり、地球は「真正細菌の星」ともいわれている*2。
約38億年前、生命が地球に誕生し、その後長い年月を経て細菌類は膨大な種類に進化し、地球のあらゆる場所に生息し、動植物とも共生の道をたどってきた。
人間と細菌の共生関係
ヒトの体にも多くの微生物が共生しており、私たちの体は自分だけの独立した生き物ではなく、一つの生態系として存在するという見方もある。
ヒトに共生する微生物群のほとんどは細菌類だが、カビ類やウイルスまでまとめてマイクロバイオータ*3と呼ばれている。
私たちは普段意識していないが、消化器系、皮膚や膣などの臓器に固有のマイクロバイオータが存在して共生生活をしている。
このようなマイクロバイオータとヒトとの相互関係をまとめた広い概念を、マイクロバイオームと呼ぶ。
人体を構成する全細胞数が約30兆個であるのに対し、人体の常在菌の数はほぼ同程度の38兆個といわれている*4。
人間とマイクロバイオータの相互関係は、健康や疾病と密接に関わっていることから注目が集まり、2007年から国際的なヒト・マイクロバイオーム計画が進められている。
常在菌の研究が進み、タンパク質の遺伝情報となる遺伝子は、ヒトでは約2万3000だが、ヒトの常在菌では約300万~1200万もあるとわかってきた。
ヒトは自らにはない細菌の遺伝子と協力しながら、栄養を分解して摂取し、健康を維持していることがわかってきた。
米国の医師ブレイザーは、常在菌が人間の健康維持に重要であり、抗生剤などの乱用がマイクロバイオームの異常を起こし、それが現代人の不健康や疾病につながっていると警告している*5。
・腸内細菌
―消化管の共生細菌
ヒトの消化管には、口腔から直腸まで、それぞれ固有の常在菌が存在して共生関係を築いている。
1g 当たりで換算すると、口腔では約100億個、胃では約1万個~、小腸では約10万~1000万個、大腸では約1兆個の常在菌がいるといわれている。
特に細菌が多い大腸では、約1000種もの常在菌が存在し、総量が約1.5kg にもなるという。
この腸内細菌に含まれる細菌類は、悪玉菌が約10%、健康維持に関わる善玉菌が約20%、どちらにも属さない日和見菌が約70%存在しているといわれている*6。
*1 細菌は核のない原核生物で、古細菌と真正細菌があり、私たちが通常知っている細菌のほとんどが真正細菌である。
古細菌は、極端に環境の厳しいところに生存し、真正細菌とは生理化学的に大きな相違がある。
地球上の生命は、3つの大きなドメイン、古細菌、真正細菌、真核生物よりなり、真核生物には原生動物から動植物まで含まれる。
*2 服部正平「個人差を生むマイクロバイオーム」『日経サイエンス』2012年12月号、p.50-57
*3 マイクロバイオータは日本語で細菌叢(フローラ)といわれてきた。叢は微生物が植物相に分類されていた名残りで、現在では微生物相に入るので、間違いとする研究者もいるが、今も使われている場合もある。
*4 Sender R.et al., Plos Biology,2016, 14:e1002533.
*5 マ ー テ ィ ン・J・ブ レ イ ザ ー著、山本太郎訳『失われてゆく、
我々の内なる細菌』みすず書房、2015年
*6 光岡知足『人の健康は腸内細菌で決まる』技術評論社、2011年