母体の腸内細菌叢と子の発育
―「千葉こども調査」から
千葉大学では、400人ほどの母子を対象に、生まれる前から5歳までの「千葉こども調査」(C-MACH、正式名称「胎児期に始まる子どもの健康と発達に関する調査」)を行っている。
その中で、母体の腸内細菌叢が胎児組織の DNA メチル化、特に糖尿病関連遺伝子のメチル化に及ぼす影響を明らかにする等の目的で調査を行ったところ、母体の Firmicutes 門の腸内細菌の量と、胎児の臍帯 DNA のメチル化に相関関係があることがわかった。
また、他の門の腸内細菌と子の発育との関係などについても今後公表していく予定である。
腸内細菌は、どの菌が良いか悪いかではなく、多様性が大切である。
子の出生時の体格と母体の腸内細菌叢の多様性とに相関関係がある。
とくに、母体の腸内細菌叢の多様性の低下は、男児により影響を与える可能性があることがわかってきている。
このように、母体の腸内細菌叢が、次世代の健康状態に影響を及ぼすことがわかってきているが、腸内細菌叢を良い状態にするためには、緑葉野菜と海藻類、焼き魚を多く摂取することが大切である(図2)。
化学物質が及ぼす次世代影響
2013年に発表された論文により、ネズミに環境ホルモンの一種である化学物質PCB を投与したところ、それにより腸内細菌が変化することが明らかにされた。
私たちの調査でも、ある種の細菌は PCB の投与により増え、他のある種の細菌は減少することがわかった。
すなわち、腸内細菌は化学物質により影響を受ける。
いちばんの問題は、化学物質によって本当にエピジェネティックな変化が起こっているのかということだ。
昨今、化学物質問題は終わったとか、1970年代に比べればずいぶん環境は良くなったなどといわれているが、化学物質に曝露された親には影響が出なくても、子や孫の世代に影響が出ることがあるという大きな問題があり、化学物質問題はもう一回整理する必要がある。
2018年の新しい報告で、母親世代にエストロゲンを投与すると、直接曝露を受けていない子や孫の世代に、母親経由での曝露が認められた。
三世代にわたり化学物質の影響が出ることが初めて明らかになった。
ヨーロッパのデータで PCB およびDDE の出生前の曝露が児の出生体重に影響を及ぼすことが、また私たち千葉大のデータでも PCB 出生前曝露により出生体重が減少する傾向にあることがわかっている。
さらに、臍さい帯たい血けつ中の化学物質の濃度と、エピジェネティックな影響との関係のデータも取得でき、化学物質がどうやって次の世代に影響するのかがわかってきている。
いずれ、またの機会に詳しくお話ししたい。
(文責・中村晶子)