東京高裁でこの是正勧告書の文書提出命令が確定し、就労環境の法令違反が明らかになった後も、被告花王は「原告の就労環境に問題は無かった。」との主張を変えませんでしたが、そんな主張が認められるはずも無く、この再現実験と是正勧告が裏付けとなり、作業環境での有責性については原告の主張を全面的に認めていただくことができました。
全てにおいて被告花王の対応は誠実さの欠片も無い酷いもので、呆れるばかりでした。
次に、この就労環境での有機溶剤等暴露とCS発症との因果関係との証明ですが、これは5名の専門医による診断結果と、うち3名の専門医による意見書、これら内容の全てが同じ方向性を示し、原告の主張と矛盾しなかったことで、裁判官に「急性有機溶剤中毒を繰り返した結果、慢性有機溶剤中毒へと悪化し、更にCSに罹患した。」と認めていただく事ができました。
冒頭にも書きましたが、社会がCSという病気を認めようとしない現状で、裁判でCSという疾病が認められた、画期的な判決をいただく事が出来ました。
この専門医の意見書に対し、花王は和歌山工場の産業医の意見書を持って反論しましたが、この意見書の内容も酷く合理性に欠き、理解しがたい内容でした。
要約すると「職場での有機溶剤中毒は、実際の現場を調査せずに診断することは出来ないので、それが出来ない専門医らの診断は誤りだ。」というものでしたが、調査できる立場にある産業医当人が「産業医は調査も診断もしない。」といった説明しており、つまり「工場内の事は誰も調査しないし出来ないので証拠は無い。」と、事実を隠蔽し責任を逃れようとしているとしか思えない(実際そうなのですが)内容でした。
そのような無茶苦茶な理屈が認められるはずも無く、最後になって花王が持ち出してきたのが「時効の援用」でしたが、これについても、「いつ時効が成立した」といった説明も無く、根拠も乏しく、ただ ごねているだけ、といった状況に見られました。
本当に酷い対応でした。
最後に、勝つことが困難とされている大企業を相手に勝訴を勝ち取ることが出来た勝因について、私なりにまとめて終わります。
どれも当然と言えば当然の事ばかりですが、意外とそんなものです。
■ 事実である事・・・あたりまえですね。
■ 原因と結果が明確である事・・・CSは原因の特定が困難な場合もありますが、重要です。
■ 自分一人で出来ると思わない事・・・どんなに事実を合理的に説明しても、本人の証言だけでは信用されません。
「会社は認めなかったけど、本当の事だから労基署は信じてくれるはず」「労基署も信じてくれなかったけど、事実だから裁判所は分かってくれるはず」と考えがちですが、それだけで認められることは、まずありません。
しかるべき立場の人に協力を求め、意見を得ることが必要です。
■ 出来る限りの準備をする事・・・証拠の収集、当面の生活費の確保など
■ 目的を明確にする事・・・裁判で何を勝ち取りたいのかを一つにしぼる。「全部認めて」では難しいです。
それから、CSの患者は電車やバスに乗る事さえ困難です。
それが長距離の移動をするとなると相当な覚悟が必要になります。
また思考力も低下し、ろれつも回らず、短時間話しただけでも息が上がってしまう状況で、遠方の医師や弁護士、支援団体等の協力者に何度も相談・説明に行くことは、肉体的にも精神的にも(経済的にも)大きなダメージがあり、後の回復には長い時間が必要になります。
しかし、ここを頑張らずに勝利することは難しく、相当な無理をすることになります。
すると一番大事なのは「覚悟」かもしれませんね。
なので、裁判なんかやらないのが一番いいし、そもそも、体が壊れるまで無理をして働く必要なんか全然ありません。
危険な仕事だったら取り返しがつかなくなる前に辞めたほうが利口です。
障碍を負う前なら、まだやり直しもそう難しくありません。
もう何もできないほど悪化して障碍者になっても、会社は責任をとらないし、行政も保証してくれません。
自分と家族の健康と生活は、自分で守るしかないんです。
以上、乱文失礼いたしました、ご容赦の程を。
私はこれから、驚くほど理不尽な理由で不支給にされた、本裁判にかかる労災休業補償の審査請求を戦うことになります。