2013年に市民グループ(香料自粛を求める会、化学物質問題市民研究会、日本消費者連盟関西グループ、反農薬東京グループ)は合成ムスク類の使用量が多い柔軟剤や芳香剤を病院、役所、学校、駅といった公共の場での使用を自粛するよう文部科学大臣宛に「学校等における香料自粛に関する要望」を提出しています。
しかし、大手メディアは合成ムスク類で健康被害が続出していることを大きく取り上げません。P&G、花王、ライオンといった大スポンサーの顔色を窺ってのことなのは明らかです。
各メディアはなぜ、合成ムスク類による健康被害、いわゆる「香害」が起こるのかを報道する責任があると思います。
近隣の柔軟剤で体調不良になる人もいる
日本消費者連盟は、2017年7月26日と8月1日の2日間、香りの害に苦しむ人からの相談窓口「香害110番」を開設しました。
この2日間で寄せられた相談件数は電話65件、メール・FAX148件でした。
また、国民生活センターによれば、柔軟仕上げ剤のにおいに関する相談件数が、この4~5年で急増しているといいます。
相談窓口への訴えに共通するのは頭痛、吐き気、めまい、味覚障害などが持続して生活が困難になっているというもの。
「隣人の洗濯で使用する柔軟剤で苦しんでいる。管理人を通して使用をやめてもらえるよう頼んだが埒が明かない」、「他人の柔軟剤の香りで息ができなくなり、吐き気もある。耳鼻科にいっても治療ができないといわれ、精神科に行きなさいといわれた」など、香害は個人の好みの問題とされる傾向が強いようです。
12歳以下の子どもの健康被害を真剣に考えるべき
さらに報告で深刻なのは、小中学校、幼稚園でも「香害」が発生していることです。
今、子どもでも男女を問わず、制汗剤を使うのは当たり前だといいます。
制汗剤は合成ムスク類で強い香りを出したものがほとんどです。
そのため、「教室中に匂いが広がって倒れそうになる」という声が、生徒だけでなく、学校職員からも「香害110番」に相談寄せられています。
12歳以下の子どもは化学物質に対して感受性が高く、簡単にアレルギー反応を引き起こしてしまいます。
合成ムスク類などの香り物質は目には見えませんが、揮発しやすい小さな分子です。
空気中をただよい、鼻の奥にある嗅覚細胞に付着し、私たちはにおいを感じることができます。そして、その分子は呼吸によって体内に取り込まれ、また皮膚からも体内に吸収され、子供たちのぜんそくやアトピー、各種アレルギーなどに大きく関与しているのです。
また、子どもの時から、合成ムスク類に曝されていけば蓄積量も多くなり、将来、健康被害を受ける可能性も否めません。
香害は自分で使用していないのに被害を受けるという点では受動喫煙と同じです。
タバコの害は広く知られていますが、香料の害はまだまだ認知されていません。
日本消費者連盟などは、メーカーに人工香料対策を要請したほか、行政側にも病院、学校などの公共施設での人工香料の使用を自粛するよう全国各地で呼びかけています。
こんな強いにおいには注意しておくべき
合成ムスク類は非常に多くの商品で使われていますが、意外なところにもあります。
例えば天然であると思われがちなアロマセラピー用のスミレ、ラベンダーなどでは、香りをより強く定着させる目的で合成ムスク類が使われていることもあります。
したがって健康被害が起こりかねない人工香料は、合成ムスク類の香りだけではありません。
芳香剤、柔軟剤、制汗剤などの日用品、文房具、さらに食品のフレーバーなどの香料は「香料」とだけ表示されており、香料の原料は消費者には分かりません。
メーカーに問い合わせても、企業秘密で教えてはくれません。無香料の製品や食品を選んでいくことが、いちばん安心・安全ですが、少なくとも、次の匂いが強い製品は使用を控えた方が無難です。
・バニラ……経皮吸収の早い化学物質クマリンが使われている可能性があります。クマリンは代謝分解されずにそのままの形で全身に循環します。体内でビタミンKと出会うと血液凝固を阻止する作用をし、慢性的に血が固まりにくい状態を引き起こす恐れがあります。
・ジャスミン、ローズ……酢酸ベンジンが使われています。目、皮膚を刺激し、嘔吐、下痢を起こす恐れがあります。
・麝香……合成ムスク類で、マスクキシレンを使用しています。マスクキシレンには発ガン性の指摘があります。
・丁子(種のお香のひとつ)……オイゲノールを使います。肝臓の細胞肥大、胃潰瘍を引き起こす恐れがあります。オイゲノールはバナナ、プラム(西洋スモモ)、ナッツ類、ココアなどの食品にも使用されます。
・ヒヤシンス……ケイ皮アルコール使用。ケイ皮アルコールには赤血球の細胞膜を破壊する溶血作用があります。
・焼いたような香り……使用されているケイ皮アルデヒドには溶血作用があります。
・バナナ……酢酸イソアミル使用。咳、目に灼熱感、胸部圧迫感、疲労、めまいの症状を引き起こす恐れがあります。