・https://diamond.jp/articles/-/172267
2018.6.13
柔軟剤を目安量通りに使っても「香害」を引き起こす理由
岡田幹治:ジャーナリスト
香りつき商品で体調不良になり、重症になると仕事も続けられなくなる「香害」を低減する対策として、政府・業界が利用者のマナー向上策を検討している。
具体的には、洗濯用の柔軟仕上げ剤の容器包装に「周囲の人たちへの影響を考えて使いましょう」などと表示し、適正量での使用を呼びかけるという。
しかしこの対策は、強い香りが長期間持続する「高残香性柔軟剤」を、目安量通りに使っていれば人の健康にも環境にも悪影響はないという誤解を広げかねない。
その意味で「むしろ弊害が大きい」と見る被害者が多い。
使い過ぎ注意だけではむしろ弊害が大きい
香りつき商品が原因で化学物質過敏症(MCS)・シックハウス症候群(SHS)・ぜんそく・香料アレルギーなどになる人がここ数年急増し、「香害」は大きな社会問題になっている。
このため日本消費者連盟(日消連、東京都新宿区)など7つの市民団体が昨年8月から関係の省庁と業界に対し、
▽香害を引き起こす製品の製造・販売をやめる
▽香りつき製品の公共施設での使用自粛を啓発する
▽保育園・幼稚園、学校での使用自粛を促し、被害を受けた子どもに学習する場を確保する
などを要望してきた。
7団体は5月22日、衆院第一議員会館で集会を開き、消費者庁・厚生労働省・文部科学省・経済産業省の担当者を招いて要望に対する回答を聞いた。
4省庁は「香害やMCSは原因物質が何であるか特定されていない」ことを主な理由に、要望に対し「できない」「難しい」を連発した。
だが、その中でただ1つ検討中としたのが日本石鹸洗剤工業会による柔軟剤の「品質表示自主基準」の改定だ。
基準にある「使用上の注意」に「目安量通り使用すること」や「周囲の人への影響に配慮して使用すること」を追加し、それに基づいて加盟各社が商品の容器包装などに表示することが検討されている。
柔軟剤については、メーカーが示す目安量の2倍もの量を使っている人が2割もいたとの調査結果があり、工業会と各社はすでにウェブサイトやCMで目安量通りの使用や周囲の人への配慮を呼びかけている。
だがはっきりした効果は出ていない。そこで表示でも示そうというわけだ。
これに対し、柔軟剤に苦しんでいる被害者には、対策は効果が乏しく、むしろ弊害が大きいと見る人が多い。
なぜだろうか。
柔軟剤にはさまざまな成分香料と表示するだけでは無意味
被害者の体験と柔軟剤の成分という2つの面から考えてみよう。
埼玉県に住むK・Aさん(73歳)は5月22日の集会でこう訴えた――。
56歳だった18年前、新築した自宅で使われた防蟻剤でMCSになり、その後、6年かけて自宅から「揮発性有機化合物(VOC)」の発生源を除去し、できるだけVOCを取り込まないように暮らしてきた。
VOCは「常温で揮発して空気を汚す、炭素を含んだ化合物」の総称で、吸い込むとMCSやSHSを発症・悪化させる。
症状が悪化したのは高残香性柔軟剤などが飛躍的に増えた5年ほど前からだ。
通院などで外出したとき強い香りをかぐと、せき・呼吸困難・めまい・咽頭痛・頭痛・関節痛などになることが増え、回復までに3~4日かかるときもある。
スーパーなどで強い香りの人とすれ違っただけで、突発的に思考力・記憶力がしばらく低下することも少なくない。
外出するときは、四季を通して帽子・マスク・長袖の衣服を身につける。
電車などで座るときは必ずアルミシートなどを座席に敷く。
そうしないと座席に染みついたニオイがズボン・下着にまで移ってしまう。
衣類にニオイが移ったと感じた日は、帰宅すると玄関で下着だけになり、衣類はポリ袋に密閉して洗濯場に置き、すぐに入浴・洗髪しなければならない。
K・Aさんを苦しめるのは、柔軟剤に配合されたどのような成分なのだろうか。
柔軟剤の1つ「フレアフレグランス フローラル&スウィート」(花王)を例にとると、成分は量の多い順に、1.水(工程剤)、2.エステル型ジアルキルアンモニウム塩(界面活性剤・柔軟成分・抗菌成分)、3.ポリオキシエチレンアルキルエーテル(略称AE、界面活性剤)、4.香料(香料)など9つ(カッコ内は機能。残り5成分は安定化剤・粘度調整剤など、すべて合成化学物質)。
このうち、まず問題なのが香料だ。
香料はほとんどすべてが天然の香りをまねた人工の合成香料で、世界に3000種類以上ある。柔軟剤などのメーカーはそのうち数種類、ときには10種類以上をブレンドし、さらに溶剤などを添加した混合物にして商品に配合する。
香料はVOCの1つなのだ。
しかしメーカーは単に「香料」と表示するだけで、どの物質を使ったかを明らかにしない。
その点では、中身が不明な「ブラックボックス」である(注1)。
注1:欧州連合(EU)は化粧品規則で、アレルゲンであることが明白な26種類について物質名を表示するよう定め、配合量も規制している。また多国籍企業ユニリーバのアメリカ法人は昨年2月、自社のパーソナルケア製品(身体用洗浄剤)に配合されている香料成分を2018年末までに開示すると発表した。ヨーロッパの法人も同じ方針だが、日本法人は未定。