・疫学調査
古い研究では田舎での生活とパーキンソン病が結びつけられていた。
その後の疫学調査では、農薬との関連が示唆されるようになった。最近では、住宅及び庭での農薬使用とパーキンソン病発症のリスク増加が報告されるようになっている。
パーキンソン病罹患率の傾向
先に述べたように200年前ではパーキンソン病はまれな病気であったが今では良く見られる病気になってきた (2)。
パーキンソン病の罹患率は増加しているという報告があり(6)、フィンランド南西部で、年齢構成を調整した場合発症者は人口10万人につき、1971年では131人であったが、1992年には166人であることが報告されています。
また、英国ノースハンプトンでの調査でも、1982年と1992年の間に10万人当たりの罹患率が108人から122人に増加しているという。
逆にほとんど変化がないという報告もある(7)。
田舎の居住経験
幼い時に田舎の環境に曝されることと、パーキンソン病の発症との関連が知られている。
カナダの研究では、サスカチェワンSaskatchewanで生まれ育った早発性パーキンソン病症例の分析では、22人中20人が人生の始め15年の間、もっぱら田舎生活をしていたことが分かり、統計的にも有意であった。
この研究では水によって何らかの物質に被ばくしたと考え、18症例と36人の年齢性をあわせた対照の飲料水を採取し、金属や農薬を分析したが、差はなかった (8)。
除草剤の職業的利用
カナダのカルガリー大学のセムチャックSemchukらでの疫学調査では、除草剤の職業的使用がパーキンソン病と関連していることが報告されている(9)。
除草剤・パラコート・農薬
台湾でパーキンソン病の危険因子を調べた疫学研究では、120人の患者と年齢と性をあわせた240人の対照を比較した。
パーキンソン病のリスクは除草剤農薬使用とパラコート使用で有意に大きいことが分かった。
さらにパラコートと農薬とを使用した場合、パラコート以外の除草剤と農薬とを使用した場合より大きなリスクがありました。
ほかの化学物質や重金属・鉱物に関しては対照との間で差がなかった。
台湾でパーキンソンの発症には、環境因子、特にパラコートと農薬の被ばくが重要な役割を演じていることが指摘された (10)。
農薬
カリフォルニア州では、農薬使用とパーキンソン病による死亡との間の関連が示されている (11)。
農薬や除草剤の使用とパーキンソン病との関連は様々な国から報告されている。
カリフォルニア州の作物栽培者は年間2万5千ポンドの農薬を使い、それは米国で使用される農薬の約4分の1に相当するといわれている。
カリフォルニア州でパーキンソン病が関係する死亡と、虚血性心疾患で死亡した人との比較を、農薬使用強度と関連させて行った。
パーキンソン病による死亡率は、農薬を使わない郡より農薬を使う郡(カウンティ)で高いことが分かった。
郡の農薬が使用された土地当たりの殺虫剤使用に関して、量反応応答関係が認められた。
農薬被ばく期間と発症
ワシントン大学のエンジェラらのグループは、ワシントン州で主に果樹栽培に従事している男性労働者で農薬への職業被ばくとパーキンソン病のリスクとを調べた。
調査対象は310人で、平均年齢は69.6才であり、そのうち238人は農薬に何らかの職業被ばくをしていた。
この調査でパーキンソン病は、パーキンソン病の治療薬を投与されていない人では安静時振戦、固縮・動作緩慢・姿勢反射障害のうち2つ以上が見られる場合、治療薬を投与されている場合はすくなくとも1つが見られる場合をパーキンソン症候群であると定義した (19)。
農薬被ばく期間によって3つのグループに分けた場合、最も被ばく期間が長いグループでは、パーキンソン症候群の罹患率比は2倍であり、中のグループは罹患率は増加したが(1.9)有意ではなかった。
この研究では特定の農薬や農薬グループ、農業従事歴、井戸水使用との関連は見られなかった (19)。
除草剤・殺虫剤
デトロイトの50才以上の男女で農薬被ばくや農業・井戸水使用・田舎生活をパーキンソン病のリスク因子として調べた研究がある (12)。
パーキンソン病患者は114人で、年齢や人種・性をマッチさせた対照は464人であった。
喫煙などを調整した場合、除草剤(オッズ比4.10)と殺虫剤(オッズ比3.55)への職業被ばくとパーキンソン病の有意な関連があったが、殺菌剤との関連はなかった。
職業としての農業とパーキンソン病との有意な関連があった(オッズ比2.79)が、農業地帯で住むことと井戸水使用とはリスクを増加させない。
有機塩素剤との関連
マイアミ大学医学部のフレミング Flemingらのグループ (1994)は、パーキンソン病患者とアルツハイマー病患者・神経学的な病気のない人で、脳の中の有機塩素系農薬を調べた (13)。
パーキンソン病患者では、デルドリンが有意に多く検出されている。
デルドリンは残留性の強い、ミトコンドリア毒であるので、パーキンソン病の潜在的な原因として調査する必要があると、著者らは考えている。
英国のコリガンCorriganらのグループ (1998) はパーキンソン病を患って死亡した人の脳組織(尾状核)で、対照より高い濃度のデルドリンやPCBを検出し、これらの物質がパーキンソン病と関連することを示唆した (14)。
殺虫剤・除草剤・田舎居住
オレゴン保健科学大学Oregon Health Sciences UniversityのバターフィールドButterfieldら(1993)は若年発症(50才以前)のパーキンソン病のリスク因子を調べた。
63人の若年発症パーキンソン病患者と、68人の対照(リューマチ性関節炎患者)で症例対照研究を行った (15)。
この結果、若年性パーキンソン病と有意な関係を示したものには、殺虫剤被ばく(オッズ比 5.75)、燻蒸された家に過去に住んでいたこと(5.25)、除草剤被ばく(3.22)、診断時の田舎居住(2.72)、診断前10年間の木の実や種子食(1.49)があった。