・http://www.env.go.jp/press/1734.html
平成12年2月2日
「本態性多種化学物質過敏状態の調査研究」報告書について
環境庁の委託に基づき財団法人日本公衆衛生協会に設置された「本態性多種化学 物質過敏状態に関する研究班(座長:大井玄国立環境研究所長)」においては、 様々な観点から専門家による検討、知見の収集を進めてきたところである。
本報告書では、本態性多種化学物質過敏状態(いわゆる化学物質過敏症)について は、現時点ではその病態生理と発症機序は未だ仮説の段階にあり確証に乏しいと指摘 したうえで、本態性多種化学物質過敏状態に関してさらに調査研究を進めることが 重要としている。
1.背景
環境中に存在する微量な化学物質の曝露を原因して、アレルギーや中毒等の従来の 疾病概念では説明のできない機序で、様々な健康影響がもたらされる病態が存在する 可能性が指摘されており、このような病態については、欧米において MultipleChemicalSensitivities(MCS)等の名称が与えられ研究が進められて きた。わが国においても、MCS等に相当すると診断される患者が存在しており、それに 対して「化学物質過敏症」という呼称が一般的に用いられている。しかし、その病態を はじめ、実態に関する十分な科学的議論がなされていない。
環境庁の委託に基づき財団法人日本公衆衛生協会に、平成9年12月に、「本態性 多種化学物質過敏状態に関する研究班」が設置され、同研究班は大井玄国立環境研究 所長を座長として、耳鼻咽喉科、皮膚科、内科、心療内科、眼科といった臨床医学や、 毒性学、産業衛生学、疫学、環境工学、分析化学等さまざまな分野の研究者の参画に より、幅広い観点から科学的知見の整理を行った。
また、平成11年3月には米国視察 調査を実施し、これらの調査を踏まえ、このたび本研究班の報告書をとりまとめた。
2.報告書の構成
本報告書は、研究班全員での検討の結果としてとりまとめられた第1部と各研究班員 個人の観点も踏まえた分担研究報告の第2部及び米国調査報告の第3部から構成されて いる。
ただし、第2部、第3部の各報告は、研究班員個人の責任において執筆されており、 必ずしも研究班の見解を示すものではない。
3.本報告書における第1部の概要
(1)歴史的経緯
1979年に、従来の産業中毒などの医学的知見からは説明不可能な症例が職場における 化学物質曝露により生じたと米国で報告され、以後同様の報告がいくつかなされたこと により、環境中に存在する微量な化学物質曝露により、様々な健康影響がもたらされる 可能性が指摘されるようになった。
これらの症例に対して、これまでにさまざまな名称や定義が提唱されているが、 最も早くから提唱され広く使用されているのが、1987年に米国のCullenが提唱した MultipleChemicalSensitivities(MCS)の概念である。
これに対して、1996年に 国際化学物質安全性計画(IPCS)等の主催でベルリンで開催されたワークショップに おいては、このような病態と化学物質との因果関係が不明確であるという立場から、 IdiopathicEnvironmentalIntolerances(本態性環境非寛容症)という疾病概念が 提唱されている。
(2)本態性多種化学物質過敏状態について
研究班では、化学物質が病因であるか否かを問わず、これらの病態を包括する疾患群 として本態性環境非寛容症(IEI)が存在することを支持しつつ、わが国ではこれらの 病態と化学物質との因果関係を否定できないことから、現時点では「本態性多種化学物質過敏状態」という名称を仮に使用し、現時点における考え方を以下のようにまとめている。