・6.5 毒性誘因耐性消失(TILT)
ミラー(1997)によって展開された毒性誘因耐性消失(TILT)に関連する仮説は、出発点として非常に低い濃度で応答が引き起こされるのは、外部刺激に対する自然の耐性の弱体又は除去(例えば、ある器官の防御機序の弱体化であり、糖尿病患者の砂糖に対する耐性低下に似ている)であるとしている。
この理論は、耐性の弱体又は消失に関連する新たな病気の概念に基づくものである。
ミラーはまた、この機序を偏頭痛のような他の病気の原因であるとも考えている。
TILTは引き金物質がより低濃度で応答を誘発するようになるので、耐性の変化の定義は薬物の誤用に関連する耐性の変化の逆である。
耐性の消失の背後にある機序は神経感作に基づいている。
MCSの原因としてのTILTは、2段階で進展する。
第1段階は化学物質(選ぶべきは殺虫剤、有機溶剤、又は屋内VOC)への曝露である。
曝露した全ての人々が耐性を消失するわけではない。
ある人々に対しては最初の曝露の後の症状は永久には進展せず、回復する。
他のもっと感じやすい人々が耐性の弱体/消失を進展する。
同じ又は他の化学物質又は物質に非常に低濃度で曝露する第2段階の間に、様々な器官がいわゆる”引き金応答(trigger response)”を伴って反応する。
異なる物質が異なる応答を生成する(例えば、ディーゼル・ヒュームは頭痛、食品香料は集中力低下、香水は吐き気、等)。
日々のいくつかの曝露は、いくつかの器官に重複する症状を生成し、症状と引き金物質との間の関係を見出すことが不可能になる(マスキング)。
長期間にわたるいくつかの引き金物質への曝露により症状は永続する。この状態は新たな引き金物質への継続的な曝露によって保持される(習慣作用)。
ミラーは、マスキングと習慣作用を考慮に入れて、刺激チャンバー(provocation chamber)の中でテストをすることにより診断を行った。
刺激テストを実施する前に、患者は引き金物質を取り除かれなくてはならない。