・10.3. 症状の出た住宅、職場、学校などへの支援
10.3.1. 住宅への支援
a. 新築住宅の場合
新築住宅には24 時間換気システムの設置が義務付けられていますので、これを稼働させることにより、通常、室内の換気は十分に保たれます。
このため、近年は新築住宅でシックハウス症候群の発症はかなり少なくなっています。
しかし、それでも発症者が出た場合、まずは建築を担当した工務店、ハウスメーカーにクレームを申し入れることになりますが、発生した症状が本当にシックハウス症候群と言えるのかについては建築者側の理解が不十分であれば、しっかりとした対応は期待しにくくなります。
また、シックハウス症候群であることを証明することも実は容易ではありません。
しかし、シックハウス症候群として一般的な症状が確かにあり、家を離れると症状はなくなることがはっきりしているという典型的なものであれば、その旨建築者にきちんと説明し、対応を求めます。
(1) 化学物質の測定
新築住宅での発症に関連するのは、ほとんどの場合アルデヒド類か揮発性有機化合物(VOC)であり、使用された建材や接着剤などに問題があることが考えられます。
1990 年代にシックハウス症候群が多発して社会問題になった時には、ホルムアルデヒドやトルエンなどがしばしば原因となりましたが、現在は各工務店・ハウスメーカーで VOC 対策が進んでおり、これらが原因となることはかなり考えにくくなっています。
したがって原因の究明は単純でなく、専門的な技術を導入して室内空気中 VOC 濃度を測定する必要も出てきます。
前述したように、VOC 測定にかかる費用は高額に及ぶもので、気軽にできるものではありません。
このような状況もあり、新築住宅で問題が発生した時の対応は、むしろ以前より困難になった面もあります。
(2) ホルムアルデヒド、VOC の測定
ホルムアルデヒドは以前、シックハウス症候群の原因としては主要なものであったこともあり、測定機器の開発も進み、現在では 0.01ppm 単位でリアルタイムの測定が可能な機器もありますので、比較的に容易に測定できます。
しかし、アルデヒド類以外の VOC についは、作業環境測定レベルの濃度であれば測定は容易ですが、室内濃度指針値レベルの濃度を測定することになれば、専門の測定業者に依頼することになり、費用がかかります。
学校などで問題になった 2-エチル-1-ヘキサノールのように、室内空気中の VOC を測定してみて飛び抜けて高い値が出ているような物質が見つかれば、原因はすぐにわかります。
しかし、多くの場合は VOC の中にある程度高い値が出たものがあったとしても、それが原因といえるかははっきりしないことも実は多いのです。その場合は、出てきた症状がシックハウス症候群であるか、別の病気によるものなのかが争われることになってしまい、問題の解決に時間がかかることにもなります。
(3) 建材以外の原因
建材が原因として主要な位置を占めていた頃から、室内に置かれる様々な家具に原因があったことも指摘されてきました。
建材に対してはかなりの対策が取られている現在、症状が出ている場合には家具についても十分な目を向ける必要があります。
家具は住宅全体に影響が及ぶのではなく、それが置かれている特定の部屋に限って症状が発生するという特徴がありますので、原因を考える際には症状が特にある部屋で発生しやすいなどの特徴があれば原因として検討する必要があります。
新築住宅で、家具も新しいものを使用する場合には、家具にも注意を向けましょう。
b. 住み続けた住宅の場合
新築住宅の場合には住環境全体がこれまで経験したことのない新しいものですので、原因として考えられるのは建材、新規購入の家具などから発生する VOC を疑わなければなりませんが、長年住み続けてきた住宅でもシックハウス症候群は発生することがあります。
居住者の住宅のメンテナンスや生活習慣、例えばペットを飼う、リビングに敷いたカーペットの上での飲食、掃除の頻度などによって、室内の湿度条件、ダニ、カビなどの発生といったシックハウス症候群の原因となる条件が生まれることがあり、これらの住まい方の問題が発症と関連していることがこれまでの研究から明らかになっています。
また、建材以外を発生源とする VOC も生活の中から発生することがあります。
下記の各チェックポイントについて見直してみるといいでしょう。
? 水漏れはないか?
? 入浴後の浴室の湿気を換気扇で追い出しているか?
? 室内で洗濯物を頻回に干していないか?かび臭さを感じるところはないか?
? 暖房器具を使って室内でお湯を沸かしていないか?
? 結露はないか?
? 壁紙などにカビは生えていないか?
? リビングでカーペットの上で菓子などを食べていないか?
? 室内でペットを飼っているか?
? 床の掃除は週 2 回以上しているか?
? マニュキア落とし、染み抜きなどの有機溶剤を含む液体を閉め切った室内で使用していないか?
? 防虫剤を使用している箪笥を開けっ放しにしていないか?
? 24 時間換気システムの電源は常に ON になっているか?
? 24 時間換気システムのフィルターは定期的に掃除しているか?
これらの項目を見直すことで、シックハウス症候群のリスクの有無がある程度わかります。
もし該当する項目があれば、より詳しく検討し、改善が可能ならその後の生活の仕方を見直すことで症状が軽くなることもあるかも知れません。
上記の取り組みによっても解決しない場合には、第 10 章 4 節に示す様な機関に相談することになります。