・化学物質についての知識状況
窪田・他 27)において、専門家と人々の化学物質(ベンゼン)に対する理解の違いが具体的に明らかにされています。
たとえば、ベンゼンの発生源として、専門家はガソリンスタンドやタバコの煙、石油ストーブを挙げますが、一般の人々は塗料や接着剤、クリーニングを挙げていました。健康影響についても、一般の人々は頭痛のほかに呼吸器への影響やアレルギーを想起する一方、専門家は骨髄への蓄積の影響として貧血や白血病の可能性を考えるといった違いがみられています。
また、人々には化学物質について様々な誤解があることも明らかになっています。
たとえば、「化学物質はすべて体内に蓄積される」、「臭いがなければ大丈夫」といった誤解です。
シックハウス症候群についての知識状況
2015 年にはシックハウス症候群に関する知識状況を把握するために、札幌市民 12 名(20~60 代、男性 6 名、女性 6 名)を対象として個別のインタビュー調査を実施しました(未公表)。
インタビューでは、①シックハウス症候群の原因や発生源となるもの、②症状として考えられること、③症状の出やすさの個人差と関係のあると思われる要因、④症状の低減や予防に有効と考えられる対策、⑤情報源、⑥シックハウス症候群の問題への関心度などについて質問し、連想されること、イメージされることを自由に回答してもらいました。調査の概要を表 9.2.1.に、おもな調査の結果を表9.2.2~表 9.2.7.に示します。
まず、シックハウス症候群の原因や発生源(表 9.2.2.)について、言及の多かった回答は「壁紙・壁・クロス(11 名)」と「接着剤(8 名)」でした。
また「新築・新しい建物(7 名)」や「化学物質・化学的なもの(6 名)」も多く挙げられています。
「ダニ(8 名)」や「カビ(6 名)」、「換気(5 名)」、「塗料(4 名)」、「布団・寝具(4 名)」、「木材・建材(4 名)」、「臭い(4 名)」にも言及が比較的多くなっています。
また発生源については、「家全体・部屋全体(5 名)」、「カーペット・じゅうたん(5 名)」が挙がっています。
原因として具体的な化学物質名(ホルムアルデヒドなど)を挙げた方も 4 名いました。
少数ではありますが、「空気・悪い空気(3 名)」や「ほこり(2 名)」、「湿度・温度(2 名)」にも言及されています。
対象者の多くは、建物の内装に使われる物質(塗料や接着剤)に原因があると考えており、なかにはダニやカビを原因とは全く考えず、全ては建材に原因があると考えている人もいました。
ダニやカビに言及した人のなかにも、シックハウス症候群との関係に疑問を示しながら回答した人もいます。
一方、迷うことなく原因としてダニやカビに言及した対象者に共通するのは、自宅が古いために結露やカビに悩んでいたり、古いホテルや建物で、あるいは職場での換気が悪いために、くしゃみや咳などアレルギー症状を経験したことがあるなど、シックハウス症候群に関連する何らかの症状の経験が自らあるという点でした。
そのような方たちは、室内の換気、湿気、清掃の問題、あるいは寝具や家具の材質の問題に関心が高く、様々な関連商品を試し、対策をとっていました。
シックハウス症候群の症状(表 9.2.3.)としては、「アレルギー(10 名)」という回答が多く、次いで「咳・咳込む(7 名)」、「目がチカチカ・しばしば・痛む(6 名)」、「鼻水・鼻づまり(5 名)」といった回答が多く挙げられました。