・6.5.1. 清掃と建築の運⽤管理
一般に「清掃」は、居住者が日常的に行う、ゴミ・ほこりなどの固形物や汚れを除去し、清潔感を保つ行為全般を指します。
吸引式の掃除機や化学雑巾をかける場合もあれば、床・家財やガラスを拭いて透明・清潔を保ったり、落葉や屑を集めて掃き清める作業など、様々な行為と目的がイメージされます。
美観や清潔感の維持はシックハウス対策を意図した本書の趣旨ではなく、室内の清掃が衛生状況に直結するとは限りませんが、健康影響のおそれがある微小な粒子や汚染物質の存在を示す間接的目安となる場合があります。
栄養や水分が蓄積されて微生物やカビ・昆虫等の温床となる事態も考えられることから対策上、お勧めされる行為です。
しかし、汚れの発生量や成分は家族構成や生活習慣、建物の気密性や換気方式、室内の建材や家具、ペットの存在などが関係するため、対策や基準を一律に決めることはできません。
そこで筆者らは建物情報と住まい方情報を関連づけて対策に結びつけるため、全国的に 2 回のアンケート調査(冬期 348 票、夏期 257 票)、2 回の一般調査(316 戸、236 戸)、4 回の詳細調査(29 戸、21 戸、21 戸、20 戸)という 3 種類の調査研究を行いました(数値は有効数、対象住宅は共通)。
一般測定では採取の簡便さを重視し、カビには「壁・床表面カビ数」、ダニには「床表面ダニ数」を汚染の目安に用いました。
一方、詳細測定ではカビ密度に『エアーサンプラーを用いた捕集』による培養コロニー数(cfu/m2,cfu:colony forming unit(カビコロニー)の密度)の計量、ダニアレルゲンに『塵サンプルからの ELISA(酵素抗体)法分析』を用いています。
詳細調査では、分析対象 20 戸における表面カビ数(壁上、壁下、床中央、床端のカビ数の合計)、空中カビ数とも集合住宅より戸建の方に多いこと、築年数別で見ると床ダニ数は築 13 年以上の住宅において 10 匹以上と最も多いこと、総じてダニ数が多く、糞由来或いは虫体由来のアレルゲンが多い場合にカビも多いことなどが分かりました。
築年数は断熱性・気密性の近年の向上と関係していると考えられます。一般調査では、冬期の平均表面カビ数(採取面 42cm2 あたり 30.8cfu/m2)は夏期(15.1cfu/m2)より高いのに対し、ダニ数は夏期(0.27m2あたり 6.6 匹)が冬期(0.6 匹)より著しく高い。
調査時期や天候のばらつきを考えても、カビに対しては低温となりやすい床の周辺端部、ダニに対しては夏期に清掃頻度が低い場合にリスクが大きくなっていることが分かります。
「壁面結露あり」の住宅では冬期の平均表面カビ数が「なし」の住宅の 2.1 倍、夏期には1.5 倍に、床面ダニ数が冬期に 4.0 倍、夏期に 2.5 倍になっていました。
また、冬期に「窓面結露あり」の住宅におけるダニ数は「なし」の住宅の 1.7 倍を示し、いずれも結露と強い相関関係を持つことが分かります。
表面カビ数は絶対湿度(空気中の水分量)と明確な関係が見られませんが、空中カビ数は絶対湿度と共に増加、床ダニ数は絶対湿度が 15g/kg を超える辺りから増加する傾向がうかがえます。
一方この調査では、敷物の有無、暖房方式、洗濯の室内干しなどと、表面カビ・床ダニ数との間に目立った関係は見られませんでした。
このような調査結果や既往研究(生ダニ数の変化を示す図 6.5.5.など)をもとに、カビ・ダニの数が多い住宅や部屋の属性を整理してみると、以下のことが言えます。
・換気機能や断熱性が不十分などの原因で壁や窓に結露が発生している。
・掃除が頻繁でない場合には、特にダニ数に大きく影響する。
・在室時間が短く、温度差・温度変化が大きかったり換気の少ない部屋はダニが多くなりやすい。
6.5.2. 保守管理の原則
上記の調査結果などを踏まえて示唆を記します。
地域の気象条件よりも室内の温湿度環境が要因として強いので、暖冷房機を適切に用いた室内温湿度管理が重要です。
室内空気を汚すファンヒーターや開放型燃焼器具の使用は控えましょう。
ダニの密度を下げるには清掃が最も効果的です。清掃の頻度が下がるにつれてダニ数や表面のカビは増大します。
冬季には室温を維持して湿度を抑え、結露防止を図ることがカビ・ダニ数を抑える上で効果的です。
同様の理由から、夏季には通風・除湿などに心掛け、湿度を抑えることがカビ・ダニ数を抑える上で効果的です。
屋内ペットがいても、清掃を頻繁にしさえすればカビ・ダニ数は増えないようです。
室内空気が滞らないよう、換気設備の管理(フィルター保守など)や、通風にも配慮しましょう。
空気清浄機の導入には、部屋の大きさに応じた機種選定とフィルターの管理が不可欠です。