6.4. 高湿度環境への対応
湿度形成にかかわる水は様々な形で姿を現して役割を果たしますが、一方では建築躯体や内 外装、室内環境に影響を与え、甚だしい場合には耐久性や美観を損なって、居住者の健康と安 全を脅かす場合もあります。
特に結露とそれに伴うカビ発生はダンプネス状況を招き、空気環 境を悪化させることから、合理的な対策を行うには、建築物内の水の素性と動きを知っておく ことが必要です。
図 6.4.1.には建物に係わる設計と性能の連鎖を簡略に示しました。
熱と水分と空気は伝搬の 機構と媒体に共通な部分が多く、本マニュアルの目的である健康性(図 6.4.1.右下)にも様々 な形で影響を及ぼします。
なお特に断らない限り、文中では「相対湿度」を「湿度」と称しま す。
注意点は移動のメカニズムにもあります。液水を動かす力が重力、水圧、毛細管現象(細い 管や隙間内の液体が内表面との親和力で引き上げられる現象)、運動エネルギー(移動する物 体が持つ動き続けようとするエネルギー)などであるのに対し、気体である水蒸気では、分圧 差による拡散と、温度差(密度差)や風圧(全圧差)による移流(空気移動)が主役となるため、機械換気設備の運転やダクト/隙間の形状と量、防水・防湿の抵抗と配置なども考慮しなく てはなりません。
一旦結露が起きると液水は思わぬ部位に移動し、場合によっては壁内や土台 材上にトラップされて滞留・蓄積を生じ被害を大きくします。
様々な恵みをもたらす水ですが、四つの形に変身します。
水の第一の顔は、トイレ・洗面・ 湯沸し・厨房や散水などで日常的に接する、液体(液水)です。その多くは上水道或いは中水 道から供給され、洗浄・洗面・飲用・調理や雑用に供された後、排水設備を通じて処理されて います。問題はこのように飼いならされた水が、想定から逸脱したとき、或いは思わぬ所から、 想定されない形で侵入してきたときに生じます。漏水、浸水、溺水、結露などが主なトラブル 要因です。
第二の顔は、気体となった「水蒸気」です。建築物とは室内湿度としてかかわり、多すぎれ ば結露・生物汚染や不快感、少なすぎれば粘膜/皮膚/眼の乾燥、ウィルスの生存、静電気の発 生などに関係すると言われています。
身の回りの空気中には蒸発した水分子が気体の形で含ま れ、液水と共存(平衡)しています。結露対策ではその移動の管理と相変化(凝縮)の阻止が ポイントです。
空気中の水蒸気は、少ない冬季(気温 20°C、湿度 40%)には 1 m³当り約 5g、 多い夏季(28°C、60%)でも約 11g程度と、量的にはわずかですが、挙動や影響が特異なため 環境工学分野では、水蒸気と乾燥空気の混合物を「湿り空気」と呼んで別格に扱います。
乾燥 空気と共存できる水蒸気量の上限である「飽和水蒸気圧」或いは「飽和絶対湿度」は、温度と 圧力につれて増減するので、その飽和の程度である「(相対)湿度」も温度と圧力によって変 化します。一般に温度と水蒸気量との関係は「湿り空気線図」として表現され、温度変化や結 露現象などが線図上で説明されます。
第三の顔は、固体となった「氷」です。
近代建築では冷媒配管や冷蓄熱などで目にする機会 が増えています。
一方、寒冷地では転倒の危険や「すが洩り」(屋根上氷堤からの浸水)、建 具の開閉障害、配管や外装の凍結破損、コンクリート等の凍害(凍結融解に伴う障害)などが 今も身近な問題です。
人工的な手段で防止・解消するにはそれなりの施設とエネルギーを要す るため、一般にはそれらが滞留する箇所が氷点下にならないような形態(設計)の配慮や、保 温・熱配分による温度維持を優先しなくてはなりません。
目に触れる機会も少なく存在に気づきにくいの ですが、建築内の水の大半は、躯体(コンクリートや木材)や内外装材(木質製品、多孔質材 や家具・什器)の中に当初から存在し、空気中の水蒸気との間で吸放湿しながら安定していきます。
多くの場合、吸放湿には室内水蒸気の急な変化を緩和して湿度を安定させる働きが期待 できるのですが、高含水状態が続けば害虫・害獣や微生物の増殖を招いたり、乾燥しすぎれば 材の収縮や変形などトラブルの原因となる危険もあります。
また、カビの生育には、酸素と適 切な温度のほか、材料の水分もかかわっていることが知られています。
このように、一口に「水」と言っても、ひたすら封じ込め
てしまいたい「液水」「氷」もあ れば、生理的・衛生的に適量(必要量)があって管理が必要な「水蒸気(湿度)」や「含水率」 もあり、経路も多様ですから、取扱いは一筋縄ではいきません。
表 6.4.1.に水に係わる問題 と対策の概略を示しました。
以下、ここでは結露に伴う被害に注目して状況判断と対策につい て述べていきます。