メチル水銀毒性とセレン | 化学物質過敏症 runのブログ

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https://www.jstage.jst.go.jp/article/toxpt/43.1/0/43.1_S8-1/_article/-char/ja/
メチル水銀毒性とセレン
*坂本 峰至1)

1) 国立水俣病総合研究センター 環境・疫学研究部

公開日 20160808 
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抄録

 メチル水銀は中枢神経毒性を有し、特にヒトでは胎児の発達期脳の感受性が高いことが知られている。

一方、セレンは必須微量元素であり水銀との結合性が高く、海洋哺乳類の組織には共に高濃度で存在することから、その役割が注目されてきた。

加えて、1970年代にセレンが水銀化合物の毒性発現抑制効果を持つことも知られるようになり多くの研究が行われてきた。

しかし、無機水銀と異なり、メチル水銀の毒性に対するセレンの防御効果とそのメカニズムについては諸説あり十分には解明さていない。

今回は、セレンは本当にメチル水銀の脳での神経細胞傷害作用を防御することが出来るのか? 鯨肉を食べる風習を持つ住民の血液中水銀とセレンの関連は? 歯クジラはどうしてメチル水銀中毒にならないのか? また、歯クジラ肉を食べることのヒトへのリスクは? というメチル水銀とセレンに関するいくつかの疑問について、最近の研究成果を紹介し検討を加える。

【ラット発達期大脳における神経細胞変性メカニズム並びにセレノメチオニンによる防御】 ヒトの脳発達のピークは出産前の3ヶ月間で、脳のメチル水銀に対する感受性もその時期が最も高いとされている。

一方、ラットの脳の発達ピークは出生後であり、胎児期ではなく新生仔期のラットにメチル水銀を投与することによって、ヒト胎児性水俣病で見られたような影響が観察できると期待される。

そこで、我々はラット新生仔を用い、メチル水銀による特異的神経症状と大脳皮質における神経細胞死のメカニズムの検討を行なった。

更に、メチル水銀によって引き起こされる発達期の大脳皮質での神経変性を、自然界に存在するセレノメチオニンが防御した成果について紹介する。

【ヒトにおけるメチル水銀とセレンの共存について】 ヒトはメチル水銀とセレンを主に魚介類摂取によって取り込み、ヒト血液における水銀とセレンの共存が注目されている。

一般住民及び歯クジラ類を摂食する集団における血液中の水銀とセレンの関係を紹介する。

【歯クジラにおける水銀の化学形態別分析とセレンの共存について】 海洋ほ乳類や一部鳥類はメチル水銀を無機化し、臓器、特に肝臓に高い濃度で不活性なセレン化水銀を蓄積し、メチル水銀の解毒能を有しているのではないかと考えられている。

一方、筋肉や脳ではメチル水銀化はそれほど起こらないと考えられている。今回は、多数例の歯クジラ筋肉を用い、筋肉中の水銀の化学形態別分析とセレンとのモル比に関する検討を行った。

更に、X線吸収微細構造分析、電子プローブ・マイクロ分析による水銀・セレン化合物の構造分析を行った結果を紹介する。