アレルギー性疾患への環境化学物質の影響6 | 化学物質過敏症 runのブログ

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●新たな in vivo 試験法の開発

疾患の影響評価に関する動物実験に当たっては、まず動物に疾患を発症させることが必要です。

アトピー性皮膚炎モデルでは、一般的に自然発症、あるいはタンパクと結合して抗原性を発揮するハプテンという物質を塗布して皮膚炎を発症させる方法がありますが、動物試験としてはいくつかの問題点がありました。
まず、これら 2 つの方法は評価できるようになるまでに長い時間を要します。飼育期間が長くなると、飼育環境やマウス同士の相性などによって症状の出方に差が生じやすく、正確な症状の把握が困難でした。

また、ハプテンを塗布する場合は、比較的重度の皮膚炎を発症するため、化学物質との複合的な影響を検討するには感度などの面で問題がありました。そこで今回の研究では、動物個体を用いた新しい生体内(in vivo)試験法を開発することにしました。
この研究で開発した生体内試験法の最大の特徴は、疾患を引き起こす原因物質を直接投与し、短期間で疾患を発症するようにしたことです。

これまでの試験法より、影響が評価できるようになるための時間を短縮することが可能で、実験では 3 週間程度で影響を評価することができました。

in vivo とはラテン語で「生体内(動物個体内)」という意味で、動物実験で一般的に用いられる言葉です。
しかし、早く評価することが可能になったとはいえ、まだ時間がかかる、一度に複数の物質を評価する場合には向かない、といった面があります。

そのため現在、生体外(in vitro)試験法の確立も並行して進めています。

「アレルギー反応を指標とした 毒性メカニズムの解明]
以前から、一部の環境化学物質がアレルギー性喘息やアトピー性皮膚炎の症状を悪化させるという指摘がありました。

そこで本研究は、環境化学物質が実際にどの程度アレルギー症状を悪化させるのかを、動物試験によって評価しました。

現在は動物試験での評価のほかに、細胞レベルでできる影響評価手法の確立もめざしています。

●アレルギー性喘息に与える影響
これまでの研究で、ディーゼル排気微粒子(DEP) の曝露がアレルギー性喘息の病態(症状)を悪化させることは知られていましたが、どの構成成分が増悪作用において主たる役割を果たしているかは不明でした。
そこで、まず DEP から有機溶媒で抽出される脂溶性化学物質と、有機溶媒に溶けない元素状炭素粒子に分け(図 7)、それぞれマウスにアレルゲンと一緒に投与し、アレルギー性喘息に与える影響を検討しました。


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その結果、アレルギー性喘息の基本病態である気道への炎症細胞浸潤は、元素状炭素粒子よりも脂溶性化学物質とアレルゲンとの併用投与により悪化していました。

また、リンパ球の一種でアレルギー性炎症にかかわるTリンパ球の Th2 タイプに含まれるサイトカイン、ケモカインという活性タンパク質の肺での発現レベルも同様に、脂溶性化学物質とアレルゲンとの併用投与によりアレルゲン単独投与より上昇していました。
以上のことより、アレルギー性喘息を悪化させる DEPの主たる構成成分は元素状炭素ではなく、脂溶性化学物質であることが明らかとなりました。
次に、上記化学物質群でさらにどの有機化合物がアレルギー性炎症を悪化させ得るかを明らかにすべく、一般大気中の浮遊粒子状物質に含まれている多環芳香族のキノン類に注目しました。

キノン類は in vitro 試験で酸化ストレスを誘導して生体に障害をもたらすことは確認されていますが、動物個体に対する影響は確認されていませんでした。

そこで本研究ではキノン類のうち、フェナントラキノン(PQ)とナフトキノン(NQ)を用い、アレルギー性喘息におけるそれぞれの増悪効果を検討しました。

その結果、気道への炎症細胞浸潤は、アレルゲンの単独投与時よりも PQ、NQ との併用投与時で増強していました。

また、アレルギー反応増幅に重要な役割を果たしているアレルゲン特異的抗体の定量により、アレルゲンと PQ、NQ を併用して投与すると、アレルゲンの単独投与により誘導されたアレルゲン特異的 IgG1 抗体の産生が増加していました(図 8)。


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以上より、PQ、NQ といったキノン系化学物質も、アレルギー性喘息の悪化に寄与していることが示唆されました。