Q:症状が悪化したかどうかは、どのようにして判断されるのですか。
井上: アレルギー性喘息の場合は、肺の炎症に関係する白血球の分析と、アレルゲンに対する抗体が血液中にどれだけ産生されたかを調べて判断します。
まず評価したい化学物質を投与した後、マウスを解剖して肺の中を生理食塩水で洗い、気道に表出した白血球の種類と数を調べます。
この解析により炎症の程度を判断することができます。
また、血液中にある異種タンパク質に対する抗体を調べるのは、抗体がどの程度つくられたかによってアレルギー症状の程度が推測できるためです。
柳澤: アトピー性皮膚炎では、まずダニからの抽出物(ダニアレルゲン)を計 8 回、マウスの耳に注射し、この間 4 回にわたって腹腔内に DEHP を曝露します。
症状の変化は、アレルゲンを投与した翌日に腫れや引っかき傷、乾燥、発疹といった 4 つの状態を肉眼で確認します。
肉眼での評価は、評価者によって評価にばらつきが生じることも考えられますので、評価項目にはすべて基準を設けました。腫れに関しては、厚みをレバー操作で簡単に測定できるハンディタイプの測定器で耳を挟み、数値化も行います(図 3)。
また、最終的にダニ抽出物の投与で炎症を起こしている耳の組織を採取し、アレルギー性喘息モデルと同様にそこに集まる白血球の種類や数を調べたり、どのようなタンパクが産生されているかを調べたりします。
Q:研究の結果、とくに目立った所見を教えていただけますでしょうか。
井上: DEP を元素状炭素成分と脂溶性化学物質成分に分け、それぞれをマウスに投与したところ、元素状炭素よりも脂溶性化学物質の方が、アレルギー性喘息の症状・病態を悪化させることがわかりました。
また、脂溶性化学物質成分に含まれる PQ や NQ を投与したときも同様に、症状が悪化するという結果になりました。
しかし、最もアレルギー症状を悪化させたのは、DEP そのものを投与したときでした(図 4)。
つまり、様々な成分の混合物としての DEP が、アレルギー性喘息の悪化に最も寄与しているといえます。
柳澤: 研究では、1回あたりの DEHP 投与量を0.8、4、20、100μg 動物/週の 4 段階設定し、影響を評価しました。投与量は1日あたりに換算すると4.8、24、120、600μg/kg/日に相当しますが、これらは DEHP の毒性が認められないとされる最大量の19mg/kg/日よりかなり低濃度です。1日の予測摂取量が 6μg/kg/日、最大で 40μg/kg/日との報告もあることから、今回の設定濃度はヒトが 1 日で摂取し得る濃度と言えます。実験の結果、最も症状を悪化させたのは、20μg を投与したときでした。
一方、100μg を投与したときは、逆に症状を悪化させなかったのです(図 5、6)。
環境ホルモンの中には、高濃度になると影響が消失する逆U字形の反応曲線を描くものがいくつかありますが、DEHP もこれに類似した反応曲線でした。
このメカニズムの解明については今後の検討課題であり、細胞レベルでの研究結果と合わせて検討していく必要があります。
しかしいずれにしても、DEHP が国内における 1 日予測摂取量と同じぐらいの濃度でアレルギー症状を悪化させ得る結果が得られたことは、非常に重要です。