第五章 生理的ストレスと神経内分泌軸
視床下部下垂体副腎軸におけるガス状神経伝達物質の役割
Role of gaseous neurotransmitters in the hypothalamic-pituitary-adrenal axisC Rivier一酸化窒素(NO)は、脳、特に神経内分泌機能に重要な役割を演じる不安定なガスである。
NO は正中隆起‐下垂体軸内では脳内と反対の効果を発揮することを示した。
即ち、[前炎症性サイトカインやバソプレッシン(VP)の全身投与にみられる]血行性シグナルに対するACTH の反応は抑制する。
脳室内投与では、血液―脳関門により脳内に留まり、NO は視床下部ペプチドである副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)やVP の合成を促進する。
神経終末からペプチドが放出され、視床下部の室旁核を活性化する(例えば緩やかな避けることの出来ないフ―トショックの様な)刺激が動物に負荷されると、NO はその2つの効果のバランスを取り、ACTH の放出に関わる。我々は、ラットを用いた実験で、以下のことを提唱する。
弱いショックの少なくとも初期では、NO とVP との相互作用に依存してACTH の放出が起る(この作用は、NO 形成を阻害する薬剤により促進される)。
より強いショックでは、NO と視床下部との相互作用によりACTH の放出が起る(すなわち、NO 形成を阻害する薬剤により抑制される)。
海馬の可塑性:慢性的なストレスに対する適応と Allostatic Load
Plasticity of the Hippocampus: Adaptation to chronic stress and allostatic load.Bruce S. McEwen
海馬は記述的および空間的記憶にとって重要な部位で、慢性的な痛みの認知に関係している。
海馬体は、発作や虚血や頭部外傷などに対して非常に脆弱性をもち、日内リズムや慢性ストレスの時に分泌される副腎グルココルチコイドの影響に対して特に感受性がある。
副腎ステロイドは短期間においては適応の効果を持つが、ストレスが繰り返されたりHPA軸の調節がうまくいかない機能不全があるような時には病的状態に陥る。
そのような状況下において障害を与えるようなグルココルチコイドの作用はAllostatic Load と呼ばれてきた。
それは副作用に対する体の適応障害に関係している。
副腎ステロイドは、海馬においては防御的でもあり障害を与えるものでもある。
副腎ステロイドは、海馬の神経細胞の興奮を二相性に調節し、高いレベルのグルココルチコイドや重篤な急性ストレスは、可逆的に記述的記憶を障害する。
海馬は構造的な可塑性をも示し、歯状回において引き続き起こるneurogenesis、CA1 領域でエストロゲンのコントロール下でおこるシナプス生成、そして繰り返されるストレスや外来性のグルココルチコイドによって起こるCA3 領域の樹状突起リモデリングがそれに該当する。
3つの構造的可塑性すべてにおいて、ステロイドホルモンと興奮性アミノ酸が共に働く。
グルココルチコイドとストレッサーは、歯状回においてはneurogenesis を抑制する。それらはまた、虚血や発作によっておこる障害を増強する。
さらに老齢ラットの海馬では、急性ストレスの間に放出される興奮性アミノ酸レベルが非常に高くて長く続く。
我々の作業仮説では、連続ストレスに反応する構造的可塑性は適応や防御という反応で始まるが、そのキーメディエータの調節による非平衡が解決されなければ障害となる。
いろいろな種類のAllostatic Load によってもたらされる海馬の形態的な再構築は、記憶機能に関係する海馬の関与を変え、それはおそらく慢性痛覚の認知において重要な役割をすると考えられる。