化学物質過敏症の労災認定をめぐって | 化学物質過敏症 runのブログ

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タイトル 化学物質過敏症の労災認定をめぐって
傷病名 化学物質過敏症
カテゴリ 労災認定
号数 
1.広島高裁岡山支部 認定判決の意義
 2011年3月31日、広島高裁岡山支部は、ガスボンベの洗浄・塗装作業に従事してトルエンなどの有機溶剤に曝露し、化学物質過敏症を発症したYさんの原処分取消しを求める裁判で、和気労基署の労災不支給処分を取り消す判決を下した。

 この判決は、初めて化学物質過敏症を労災として認めた判決である。

1998年の厚生省研究班で提唱された石川哲博士の診断基準を採用して、化学物質過敏症の存在は肯定できるとして、この診断基準をYさんの症状に当てはめて化学物質過敏症に罹患していたと認めたものである。

そして、化学物質過敏症の病因として「比較的大量の化学物質に曝露される」か、「低濃度の有害化学物質に繰り返し長期に曝露されると」発症するとし、後者に当るYさんの場合は「5年半もの期間にわたり有機溶剤にかなりの程度曝露されていた」として、Yさんの化学物質過敏症の罹患を認めた。

 判決は、トルエンなどの作業環境測定による管理濃度が基準値以下だったのを根拠に、「有機溶剤の高濃度曝露又は大量曝露があったとは到底認められない」という第1審判決(岡山地裁2008年6月24日)の被告側主張に対し、「化学物質過敏症は低濃度の有害化学物質の長期間反復曝露」で発症するとして、急性の有機溶剤中毒と区別して化学物質過敏症を認めた点でも画期的であった。

 この判決で、トルエン、キシレン等の有害化学物質と化学物資過敏症との因果関係を証明する重要な証拠として採用されたのは、「トルエン、キシレン等の負荷テストに陽性である」とするデータだった。

この負荷テストは、石川診断基準の検査項目にも加えられているが、クリーンルームにおいて被験者が直接極めて微量の化学物質を吸入し、その反応を診るものである。

判決後、被告である厚生労働省が上告しなかったため判決は確定した。

この判決で、曝露した化学物質と化学物質過敏症との因果関係を明らかにする有力な証拠として認められた負荷試験を実施できるクリーンルームを備えた全国の病院を調査したところ、軒並み閉鎖されていることがわかった。

この画期的な判決を活かし、多くのCS患者のためにも復活させてほしい。

2.認定をめぐる状況
 初期の状況
 厚生労働省は、化学物質過敏症について、「その病態や発生機序について未解明な点が多く、現段階では確立された疾病の概念になっていないことから、保健給付の対象とはしていないところである」(内閣衆質169第471号平成20年6月13日の政府答弁)との見解を示している。

しかしながら、労災の請求書の傷病の部位及び傷病名欄に「化学物質過敏症」と記載されてあっても、調査の結果、当該疾病が平成8年労働省告示第33号(労働基準法施行規則別表第1の2第4号の規定に基づく厚生労働大臣が指定する化学物質及び化合物(合金を含む)並びに厚生労働大臣が定める疾病)に示されているものは該当し、かつ、業務に起因することが明らかならば保険給付の対象となる、としている。

要するに、「化学物質過敏症」という病名は認めないが、その疾病が、特定の化学物質に曝露する業務に起因することが明らかであれば、認めてもよいという考え方だ。

実際には、急性の有機溶剤中毒のように、高濃度で大量の化学物質に曝露したかどうかで判断されることが多いようだ。

従って、「化学物質過敏症」のように微量で多種類の化学物質に反応する疾病の場合、労災と認められるケースが少ない。

 厚生労働省は、平成20年の時点で「平成15年度から平成19年度までの間において労災の請求書の傷病の部位及び傷病名欄に「化学物質過敏症」記載されているものは14件であり、そのうち支給決定された件数は零件である」(政府答弁)としている。

なお、公害等調整委員会などの調査によれば、平成10年から平成17年の間に7件の化学物質過敏症及びシックハウス症候群が労災認定されている。

化学物質過敏症が社会的問題となったこの時期は、「化学物質過敏症」が労災の対象疾病として認められないにせよ、労働基準法施行規則別表第1の2第4号の規定に基づいて労災認定されていたことがわかる。

ホルムアルデヒド等の一定量の化学物質の曝露が明らかな事例に限られてはいるものの、7件も認定事例があったことは記憶されておいていいだろう。


 「個別症例検討会」の設置以後の状況
 2007年6月21日に厚生労働省内に「化学物質に関する個別事例検討会」が設置されて以降、状況は一変する。

次頁の表3は厚生労働省の職業病認定対策室から情報開示したものだが、18件中1件しか業務上認定されていない。

認定されたケースは、「急性症状のみ業務起因性が認められる」とあり、やはり高濃度で大量の化学物質曝露による有機溶剤中毒として認められたと推定される。

結局、少なくとも「化学物質に関する個別症例検討会」で検討された案件については、「化学物質過敏症」の労災認定は全滅に近いと言わざるをえない。

 この開示行政文書は、文書名を「化学物資過敏症に関する個別症例検討会の第1回~第6回で検査された事例の数及びその検査結果がわかるもの(一覧表)」と特定できたものだけであり、墨消しされている署名、請求人氏名、傷病名以外に、本来ならば検討に要した期間なども情報開示させる必要がある。

しかし、そのようなデータはとっていないということで、署段階での「化学物資過敏症」案件の処理を遅滞させていると思われる同検討会での検討期間について、行政文書開示をさせることはできなかった。

 全国の労基署で労災請求されている化学物質過敏症案件が何件本省協議扱いとなっており、事案処理にどのくらいの期間を要しているのかについては、「化学物質に関する個別事例検討会」にかけられない本省協議事案もあるということなので、その実態は不明である。

 しかし、ひとつ明らかになったことは、「化学物質に関する個別症例検討会」設置の前と後では、労災認定状況に雲泥の差があるということ。

政府答弁と公害等調整委員会の調査期間は必ずしも一致しないが、認定率が、同検討会設置前は約50%(14件中7件)だったのに対し、同検討会設置後は5・6%(18件中1件)になっている。

その最大の理由が同検討会そのものにあることを窺わせるが、化学物質過敏症に関わるすべての本省協議事案について、

①年度別本省協議件数(うち個別症例検討会事案件数)、

②平均協議(検討)処理期間、

③協議(検討)結果などを明らかにさせていく必要があるだろう。