・臨床環境医学(第10巻第2号)
海外論文の紹介NS Prang' vvon Baehr' WP Bieger
Zeitschrift fur Umweltmedinn 9: 3&45, 2開1」
(臨床環境10 : 93 ~ 102,932001)
多種類化学物質過敏症および慢性疲労症候群患者の環境化学物質に対する遺伝的感受性の亢進
まとめ
多種類化学物質過敏症または慢性疲労症候群患者40名について、生体異物(注参照)に対する感受性の個人差を検査した。
90 %以上の患者が、解毒の第一段階である酸化過程の亢進が認められ、患者は酸化的ストレス状態にあることを示していた。
興味あることに、殺虫剤に暴露して発症した患者は、健常者に比べてグルタチオン一S一転移酵素冗(GSTPI)の遺伝子の機能的変異が2.5倍高率に認められた。
慢性重金属中毒を示す患者では、グルタチオン一S一転移酵素(GSTMI)遺伝子の欠損と、Nーアセチル転移酵素ー2 遺伝子の軽度の変異が認められた。
一方化学物質暴露を受けていない患者では、解毒酵素の多型性は正常範囲内であった。
今回の結果は、遺伝的な化学物質に対する感受性が、慢性疲労症候群や多種類化学物質過敏症の発症に関係していることを示している可能性が強い。将来、環境汚染物質に慢性に暴露している患者の確定診断に、解毒機構の遺伝子的解析が最適手段となるかも知れない。
注:体の中に人ってきた農薬(除草剤、殺虫剤)、ホルムアルデヒド、トルエン、有害金属などを意味する。
最近の多種類化学物質過敏症や慢性疲労症候群の患者数の増加は著しいものがある。
本疾患の症状は、理由不明の体の弱り、集中力の喪失、再発を繰り返す感染症、脳神経症状、非特異的胃腸障害(例えば慢性の胃炎、腸の刺激症状)、関節の痛みや腫脹、筋肉痛、ミオパチー、線維筋痛症、膀胱の刺激症状や炎症、前立腺疾患、肺疾患、肝疾患などが含まれる1)。
患者のこのような症状は、伝統的な診断法では解明されないために、しばしば精神的な原因によるとされる。
実際、化学物質過敏症や慢性疲労症候群患者が多く存在しており、その患者は不安症やうつ病として扱われている。
しかも、遺伝的に感受性の高い人が、持続的な環境汚染物質の負荷により、多種類化学物質過敏症や慢性疲労症候群に進展していくのか、それとも腫瘍発生に進展するのかなどはほとんど知られていない2, 3)。
環境汚染化学物質の中毒効果は、解毒酵素系の第一相、および第二相の総合作用として現れてくる。
第一相では、化学物質は還元、加水分解、そして酸化がなされる。
これは、種々なミクロゾーム酵素、すなわち各種のチトクロームP450の酸化酵素類(MFG))によりなされる4)。
このMFO酵素類は肝細胞のendoplasmic reticulum (小胞体)の膜に存在し、各種の代謝産物の毒物の分解を司る。
肝細胞は、種々な化学物質による酵素誘導により、一連の特異性のあるチトクロムP450イソ酵素(CYP系)を形成する5)。
遺伝的に差はあるが(多型性)、特異的酵素は容易に誘導され、非常に高い活性をもって物質を分解する。
例えば、第一相の酵素であるチトクロームP4501A1およびIA2は、多環炭化水素化合物のような多数の生体異物を分解する新)。
これら酵素の働きにより、化学物質はさらに毒性の高い産物になるわけであるが、正常ではそれら物質は第二相酵素に手渡され分解される。
それらの分解産物や細胞毒性物質に、肝臓ではグルタチオン、酢酸、システィン、硫黄化合物、グリシンおよびグルクロン酸のような小さな分子の水溶性物質を添加して、肝臓や腎臓から排出しやすい水溶性物質とする。
この第二相の酵素に、グルタチオン一S一転移酵素(GSTs)やNーアセチル転移酵素(NATs)を上げることが出来る。
現在のような化学物質汚染環境では、グルタチオン関連酵素に特に重要な意義がある8, 9)。
それらの酵素は環境毒物の代謝産物による引き起こされる非常に反応性の高い遊離基をグルタチオンの酸化と引き換えに毒性を弱める。
グルタチオン-S一転移酵素のタンパク合成か減少したり、欠損したりすると、代謝産物が溜まってしまう。
すなわち、遺伝的に一つ、または複数のグルタチオン一S一転移酵素が欠損したり、活性が低下している人は、生体異物が入ってくると、多臓器疾患の発症や、免疫力の低下をきたす傾向を示す川)。
このような患者では、第一相の酵素系はしばしば活性化しているが、それで生しる代謝産物が次の段階でうまく代謝されていかない可能性がある。
結果として、有害物質が蓄積して臓器に負担を掛けることとなる。
今回の研究では、慢性疲労症候群または多種類化学物質過敏症患者40名について、有害物質の負荷状態と遺伝的な解毒機構との関係を先す研究した。
Ⅱ .患者および研究対象項目
患者.ドイツ全国から、支援団体や環境問題の研究家から紹介されてきた40名の患者を対象とした。20名の女性と20名の男性である。
年齢は27歳から59歳にわたっている。
患者の症状、現在の環境負荷状況の問診、一般診察、臨床検査を行った。これら患者は次の3群に分けた。
A群殺虫剤発症群
平均年齢は42.8歳。8名が女性、6名が男性であった。
末梢血液や尿から、殺虫剤が高い濃度で検出された。
ガスマスでⅡ名の尿中から、殺菌剤ペンタクロールフェノール(PCP) 504g/'lから0.5mg月が検出され、特に1名の農業従事者では12mg/1と対照値254g/I)の約500倍に達していた。
殺虫剤へキサクロロへキサンはEDTA採血をキャピラリーカラムで、、アに分別し、5例にたへキサクロロへキサン(HCH、リンデン)が0.4 ~ 1. 24g/1の値が示された。
さらに3例にPCBO. 8 ~ 1.6卩g/賃を検出し、1 例には高速液クロで殺鼠剤に使用されているクマリン誘導体が検出された。
2名の農業従事者と1名の花屋の例は、職業的な暴露からと思われた。
その他の職業では、4名の家庭主婦、1名の保険業者、2名の事務員と銀行員が含まれており、4名が身体障害のために受診時には失職していた。PCPおよびHCH 汚染患者の多くは、室内空気の分析を行い、居住環境負荷が明らかになった。
本群患者の症状には、慢性疲労とともに、神経系の障害,持続性の頭痛、視力障害、平衡感覚の障害、めまい、筋力低下が認められた。
B群重金属発症群
平均年齢は37.6歳であった。
14名( 6名の女性と8名の男性)で重金属水銀が検出された。
それは多分アマルガムから来たものと思われた。
水銀はEDTA採血血液と唾液から、原子分光光度計で検出した。
血液は11 ~ 6 g/1、唾液からは4 ~ 134g/1であった。
5名については、補足的に歯の金属に対する感受性を調べるためにELISAテストを行った。
金属工業従事者の一人は血清アルミニュウム濃度が1014g月あり、危険値であった。
患者はしばしばロ内炎を発症し、さらに歯周炎、自律神経障害(例えば過敏性胃腸症状)、そしてハウスダスト、栄養剤、花粉に対するアレルギーのような免疫疾患へと発展する傾向があった。
C群毒物発症歴が明らかでない群
平均年齢は51歳であった。
11名の患者( 6名の女性と5名の男性)は環境汚染物質による暴露歴はなく、また臨床検査でも負荷物質が証明されなかった。
これらの患者では、関接痛、頭痛、自律神経失調を伴なっ
た再発性のウイルスや細菌感染が認められる傾向があった。
酵素と遺伝子解析:地域のホームドクターと協力して、採血したEDTA加全血は、ミュンヘンの中央検査室へ24時間以内に送られた。
第一相酵素のCYPIA2とCYPIIA6を、Detox-Test (カフェインクリアランステスト)による酵素法で測定したⅡ靆2 )。第二相酵素としては、GST-a、GST-g. GST-Z、GST-O 量をイムノアッセイで測定した13コ5 )。
さらに第二相酵素の、GST-CG GST-gn GST-7t、GST-Oの遺伝子シークエンスを調べた。
さらに末梢血からのDNAを取得して、酵素活性や解毒速度に影響を持つ多形性をPCRや制限酵素によるフラグメントの多型性~期やDNAシークエンス( 310, AppliedBiosystems, Weiterstadt)を調べた。