・出典;化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
・EHN 2014年6月23日
自閉症のリスクは農薬を散布した畑の近くが高いと研究が報告
リンドセイ・コンケル (EHN スタッフライター)
情報源:Environmental Health News,June 23, 2014
Autism risk higher near pesticide-treated fields, study says
By Lindsey Konkel
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2014/jun/autism-and-pesticides
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
掲載日:2014年10月31
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/ehn/140623_EHN_Autism_risk_pesticide-treated_fields.html
本日発表された新たな研究によれば、広く使用されている農薬を散布された作物畑から1マイル(約1.6km)以内に住む母親から生まれた赤ちゃんは自閉症になりやすい。
北部カリフォルニアの農業地帯で生まれた970人子どもの研究は、自閉症と環境暴露の関連を調査する今日までの最大のプロジェクトの一部分である。
居住場所と農薬散布畑との距離を調べるために母親の住所を利用したカリフォルニア大学デービス校の研究は、胎児期の農薬曝露を自閉症および関連する疾病に関連付ける3番目のプロジェクトである。
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hepingting/flickr
米国の子ども68人に1人は自閉症スペクトラム障害であると特定されている。
”証拠の重みは、母親の妊娠中の暴露が自閉症スペクトラム障害の発症にある役割を果たすかもしれないことを示唆し始めている”と、カリフォルニア大学バークレー校環境研究と子どもの健康センターの副ディレクターであるキム・ハーレイは述べた。彼女はこの新たな研究には関与していない。
米・疾病管理予防センターによれば、米国の子ども68人に1人は自閉症スペクトラム障害-社会的な相互作用が困難であることにより特徴づけられる様々な神経発達障害の集合-であると特定されている。
”この研究は妊娠中の農薬曝露は、おそらく良いことではないことを示唆しているが、農薬が自閉症を引き起こすらしいということは示していない”と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校で自閉症の子供を研究している小児精神科医のベンネット・レベンサル博士は述べた。
彼は研究に参加していない。
自閉症リスクへの知られている最大の要因(contributor)は自閉症の家族である。国立健康研究所によれば、自閉症の子どもの兄弟姉妹は、自閉症ではない子どもの兄弟姉妹より35倍、自閉症を発症するらしい。
新たな研究の中での比較によれば、妊娠中に有機リン系農薬を散布された畑から1マイル(約1.6km)以内に住んでいた母親の子ども達は、その母親が農薬を散布した畑の近くに住んでいなかった母親の子ども達より約60%多く、自閉症を発症するようであった。
女性(母親)のほとんどはサクラメント・バレーに住んでいた。
ジャーナル『環境健康展望(EHP)』に発表されたこの研究によれば、妊娠中期(第二期)にクロルピリホス-最も一般的に散布される有機リン系農薬-が散布された畑の近くに住んでいた場合には、彼女らの子どもは3.3倍多く自閉症になるようであった。
かつて家屋や庭で害虫を駆除するために広く使用されたクロルピリホスは、子どもへの神経学的影響と関連があることが判明した後、2001年に住宅での使用は禁止された。
しかしクロルピリホスはまだ、堅果樹(ナッツ)、アルファルファ(マメ科の重要な飼料作物)、野菜、果物を含んで、作物に広く使用されている。
同研究はまた、ピレスロイドと自閉症との関連を報告した最初のものである。妊娠直前のピレスロイドの散布は、82%リスク増大をもたらし、妊娠第三期(末期)の間ではリスクは87%以上高まった。
”ピレスロイド”は有機リン系農薬に比べて、より良く、より安全な代替であると考えられていたので”、この発見は特に重要であると、自閉症への環境的及び遺伝的関連を調査するためのカリフォルニア大学デービス校のプロジェクトを率いている疫学者で、この研究の上席著者であるイルバ・ヘルツピッチオットは述べた。
近年、ピレスロイドは、他の農薬が禁止されたので、その使用は農場及び家庭の両方で増大している。いくつかの研究は、ピレスロイドが発達中の胎児にリスクをもたらすかもしれないことを示唆している。
個々の農薬に起因する自閉症のリスクは軽微のようであると、非営利団体 Autism Speaks の環境及び臨床科学の上席ディレクター、アリシア・ハラデイは述べた。
”自閉症の原因に関わる全てのことを理解するために、複合暴露がお互いにどのように作用し、遺伝子に作用するのかを理解する必要がある”と、彼女は述べた。
しかし、同研究中で報告されているリスクは遺伝的要素に比べれば小さいが、出産時の両親の高年令、妊婦用ビタミン剤と服用しないことなど、自閉症の他のリスクに匹敵するとヘルツピッチオットは述べた。
”自閉症を発症しているどの子どもも、遺伝的及び環境的要素の組み合わせが作用している。
この系への傷害の蓄積がある。
我々が見ていることは、農薬は、ある子どもたちを混乱させるかもしれないもうひとつの要素かもしれないということである”と、彼女は述べた。
この研究のために研究者らは、女性の住所を入手し、特定の商用農薬が、どこで、いつ、どのように、使用されたかについての詳細を提供する州のデータベースと比較した。約3分の1の女性が農薬散布の畑から1マイル(約1.6km)以内に住んでいた。
しかし、研究者らは女性たちがその農薬に暴露したかどうかはわからない。
2012年、米環境保護庁は、クロルピリホスへの暴露削減に役立たせるために、住居と学校の近くの畑の周囲に緩衝地帯を設けることを求めた。
”もし農薬が適切に散布され、連邦政府により義務付けられているラベルの指示に従っていれば、妊婦を含んで人々は農薬への暴露について懸念する必要はない”と、農薬製造業者らの団体である CropLife America の人間の健康政策上席重役クレア・ソープは述べた。
カリフォルニア州農薬規制局のデータベースによれば、2012年には 110万トン以上のクロルピリホスが、カリフォルニアの 22,000 の農場に散布されたが、これは2005年に40,000 の農場に散布された200万トンより減少している。
母親の大部分は、妊娠期間中にわたり、いくつかの異なる農薬が散布された畑の近くに住んでいたので、個別の化学物質毎に潜在的なリスクに分けることは難しいと、主著者であるジャニー・シェルトンは述べた。シェルトンは現在、国連の顧問科学者である。
同研究はまた、母親がメソミル(訳注:米国デュポン社の商品)及びセヴィン(訳注:農薬や動物用医薬品として用いられるカルバリルの商品名)を含むカルバメート系の殺虫剤が散布された畑の近くに住んでいた子どもたちの中の、自閉症ではなく発達遅延のリスク増大を報告した。
研究者らは、農薬は社会的相互反応、学習及び行動にある程度影響与える脳の発達と新語伝達を損なうことがあり得ると述べた。
以前の研究もまた、カリフォルニアにおける農薬使用を自閉症スペクトラム障害と関連付けていた。
2007年に、ハーレイと同僚らは、母親の尿中の有機リン系農薬のレベルが高かったカリフォルニアのサリナスの子どもたち531人の中で広汎性発達障害(自閉症を包含するより大きいグループ)が2倍増大していることを見つけた。2007年からのもうひとつの研究は、現在は禁止されている2つの農薬エンドサルファンとジコホル-が最も高いレベルで散布された畑の近くに住んでいた母親は、自閉症スペクトラム障害を持つ子どもを6倍多く持っているようであった。
近年、米国では自閉症の割合が上昇している。
2012年から2014年の間だけでも、割合は30%上昇した。
この増加は主に、自閉症の診断基準の変更に起因するとされてきた。
”我々が知的障害と呼んでいたものや、社会性の欠如をもったもっと多くの症状が現在、自閉症スペクトラムとして認識されている”と、ワシントン DC にあるジョージタウン大学イガクセンターの小児心理学者キャシー・カッツは述べた。
しかし、専門家のある者は、環境的暴露もまた、自閉症率の上昇に寄与しているかもしれないと示唆している。
カリフォルニアだけでも、自閉症診断は1990年から2001年の間に600%(6倍)上昇した。
そして、研究者らはこの上昇の約3分の1だけが診断基準の変更又はもっと年少時に自閉症であると診断される子どもがいることによって説明することができることを見出した。
今年の初めに、スウェーデンで生まれた200万人以上を検証した研究者らは、遺伝子が子どもの自閉症リスクの約50%を占め、残りが環境的要因であることを報告した。
発症の増大を環境的要因に結び付けることに興味がそそられるが、何が起きているのか確実に知ることは難しい。
ある環境リスクは過去数十年間で増大しているが、一方他の環境リスクは減少しているからであると、ハラデイは述べた
”農薬の使用は上昇しており、自閉症も上昇している。しかし、大気汚染もまた改善されており、我々は大気汚染が自閉症スペクトラム障害リスクにある役割を果たしていることを知っている”と、彼女は述べた
いくつかの研究が、遺伝子により自閉症になりやすくなる人々に対して、環境的暴露がどのように異なって作用するのかを調べ始めている。
今年の初めに研究者らは、自閉症に関連するある遺伝子変異体を持ち、かつ大気汚染への暴露が高い人々は、同じ遺伝子変異体を持つが、大気汚染への暴露は低い人々より自閉症のリスクが増大していたことを示した。
この次には、シェルトンは、ある遺伝子変異体をもつ母親の中から農薬曝露による自閉症リスクを探すことを希望している。
”我々は、ある母親たちが他の母親たちよりリスクが高いかどうか、そしてそのリスクとは何かを知る必要がある。だれが最も脆弱なのかを知ることが、彼らをよりよく保護することを理解するために重要である”と、彼女は述べた。
訳注:自閉症関連情報
•National Public Radio October 29, 2014 Scientists Implicate More Than 100 Genes In Causing Autism
•EHP 2014年10月 サイエンス・セレクション 農薬と自閉症スペクトラ CHARGE 研究からの新たな発見
•EHP 2014年9月 サイエンス・セレクション 大気汚染暴露で自閉症? 吸入される超微粒子とマウスの脳の変化
•EHN 2014年6月23日 自閉症のリスクは農薬を散布した畑の近くが高いと研究が報告
•EHP 科学セレクション 2014年5月1日発表 自閉症的行動への手がかり: 内分泌かく乱物質の役割を調べる
•マウントサイナイ子ども環境健康センター(CEHC)2012年4月25日 プレスリリース 自閉症と学習障害を引き起こすことが疑われる上位10有害化学物質のリストを発表
•SFGate 2011年7月5日 米大学の自閉症研究:環境的要因が遺伝子的要因より大きいという驚くべき事実を示す
•EHN 2009年3月31日 科学者ら 自閉症とビニル床材との不可解な関連を見つける
•EHN 2009年1月9日 自閉症の流行 診断基準の変化のためではない 多分、環境的要因による( マーラ・コーン EHN 編集主幹)
•EHP 2007年10月号 サイエンス・セレクション 自閉症と農薬 傾向を追跡するためにデータを統合
•第1回2007年5月12日(土)/第2回2007年6月16日(土)講演録:脳の発達と化学物質 子どもの脳が危ない(黒田洋一郎さん (東京都神経科学総合研究所))
•ES&T ポリシーニュース 2007年5月23日 自閉症研究の方向を変える 研究者と活動家が自閉症と環境の因果関係の将来の研究方向を討議するために参集
•EHP 2006年7月号 論説 自閉症と環境 (ジュリー L. ダニエルス ノースカロライナ大学公衆健康校)
•EDIATRICS(小児科学) 2006年7月号 モントリオールの広汎性発達障害 有病率と予防接種との関連
•EHP 2006年7月号 Focus 自閉症の起源を追う広範な新たな研究
•EHP オンライン2006年6月21日 自閉症スペクトラム障害とサンフランシスコ湾岸地域の有害大気汚染の分布との関連