私はもともと遺伝学をやっていたので、これだけ自閉症児が増えたということは、明らかに環境要因だと思います。
環境の変化が原因だとすれば、予防や治療による回復の可能性があるということです。
特に、農薬の汚染は1950年頃から始まっていました。
農薬の安全性は一応チェックされることになっていますが、子どもへの悪影響は全く調べられていません。
だから、私は研究費を得て、環境化学物質が子どもの脳の発達にどんな影響を与えるのかということを研究しました。
発達障害児の増加要因は環境化学物質
問題が大きいのは、何らかの理由で有害な化学物質に高濃度に被ばくしている方たちです。
ところが、そういう高濃度に汚染をされた方が1%とか2%だと統計的には有意ではないと考えられます。
たとえば、PCBによる汚染濃度が高ければ、いろいろな健康被害が起こっているはずですが、高濃度に汚染された方の割合が少ないから注目されません。
今年7月初めに日本毒性学会での菅野純先生(国立医薬品食品衛生研究所・毒性部部長)の講演で、非常に面白いたとえがされていました。
たくさんの方がいるところに向けて矢を撃つと、大体誰かに当たります。
1本撃てば1人にあたり、2本撃ったら2人当たります。
矢を1本について1人が死ぬとしても、統計的には有意ではないとされてしまいます。
仮に、矢を10本打って10人死んだとしても、1万人に10人では、やはり疫学では有意な数字とは考えられません。
このような構造のため、環境化学物質に汚染された人がいても、統計的に有意ではないとか、科学的にデータが証明されていないという理由で、これまでは無視されてきました。
最近は、子どもの遺伝子に突然変異が起こると自閉症になるというデータが蓄積されています。
両親の細胞の遺伝子は正常ですが、精子や卵子、受精卵のDNAに突然変異が起こり、自閉症になるという例が増えています。
両親の高齢化、とくに父親の高齢化がリスクになっています。
精子は卵子よりもずっと小さく、DNAの修復機構がまったく入っていません。だから、高齢化で精原細胞に突然変異が蓄積されると、突然変異を持った精子が多くなってしまうのです。
環境化学物質と放射線の多重複合汚染
遺伝毒性がある化学物質と放射線の多重複合汚染が、発達障害ばかりでなく、これからの日本の社会問題になると思います。
特に内部被ばくによるベータ線で、DNAの病気になりやすい部位が傷つくと、発ガンばかりでなく各種の病気にかかりやすくなり影響が大きく出ます。福島第一原発からはセシウム–137ばかりでなく、ベータ線を出すストロンチウム–90が海中に広がっています。
ストロンチウムはカルシウムと似ていますので、植物プランクトンから動物プランクトン、さらに魚介類と食物連鎖で濃縮されたり、プランクトンの死骸が海底に落ちて、それを食べる海底の魚介類が汚染されることから、大変危険だと思います。
福島第一原発の事故が自閉症にも関連していることになるので、これから大変な問題になると思います。
化学物質の発達障害への影響については、ここ数年のうちに論文が増えて、他にもいろいろな化合物によって影響が起きている可能性が分かってくると思います。
(報告:広報委員会)