デンマークEPAの報告書多種化学物質過敏症-2 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・緒言


 過去数年間に、デンマーク環境保護局(EPA)に相談に来る人の数が増えており、それらは少量の化学物質、典型的には様々な消費者製品からの化学物質への曝露に関連して経験する症状についての相談である。

メディアはある人々は化学物質に対して感受性が極端に高くなることがあり得るという事実に着目している。

 低濃度の化学物質に暴露した時に、他の人々には何も起こらないのに、なぜある人々は激しい反応を示すのかということについての知識は欠如している。

多くの国々では、多種化学物質過敏症(MCS)は長年の間、科学界におけるひとつの課題であるが、デンマークではそうでもない。

医学界がこの新しい現象に対して積極的ではなく、デンマークにおけるこの問題の大きさの程度は調査されていない。

 消費者は化学品及び日々の生活用品に含まれる化学物質への曝露が増大している。

ある人々は明らかに、広い範囲の化学物質への低濃度曝露に対して非常に感受性が高い。

 化学物質への曝露の結果、不特定の症状が全国的にどのくらい発症しているのかは明確ではない。

この問題を明らかにすることに寄与するために、デンマークEPAはこのプロジェクトの取り組みに着手した。

その目的は、デンマーク及び諸外国のMCSに関する既存の知見と経験を総合的に記述することである。

そのことが、MCSのより良い理解と将来の問題への対処のための基礎となることを望んでいる。

 デンマークではMCSは”匂い及び化学物質過敏症( odour and chemical hypersensitivity)”と呼ばれている。

 この報告書の技術的な部分はデンマークEPAとの契約の下に、2001年7月から2002年2月まで、産業地域医学の専門家、医学博士マーティン・シルベシュミットによって執筆された。

運営グループは技術的パートナー及びインスピレーションの源として機能した。

プロジェクト期間中に2回、会合した運営グループは下記のメンバーからなる。


ピア・ジュル・ニールセン デンマークEPA(議長)
ポール・ボ・ラーセン デンマークEPA
フィン・ギンターベルグ ビスペピエ病院 労働環境医学診療所
ゾーレン・ベスターハウゲ デンマーク国立病院 コペンハーゲン大学病院 頭首外科 耳鼻咽喉科
アンダース・カールセン ビブログ郡健康研究所医療部長
オレ・ラデフォーグド 家畜食品局食品安全毒物部門
ペダー・ウォルコフ デンマーク国立産業健康研究所


概要と結論


 化学物質は我々の身近な環境中に存在して常に増え続けており、公衆に対し何らかの懸念を引き起こしている。

ある人々が有害な影響を与えるとされる濃度よりもはるかに低いレベルで化学物質の匂いに突然耐えることができなくなるという新たな健康障害の出現が、さらに懸念を大きくしている。

このような状態は多種化学物質過敏症(MCS)と呼ばれ、以前には健康であった人が、非常に低濃度の化学物質に曝露した時に多種の不特定な症状を経験する。

 MCSは海外、特に北アメリカで関心が持たれてきた。

デンマークでは、MCSはほとんど知られておらず、医学界はこの症状に対してあまり関心を示していない。

化学物質の適切な環境管理の責任を全うするために、MCSに関するいくつかの不確実な点が明らかにされる必要がある。

化学物質は低濃度で疾病を引き起こすことがあるのか? どのようなメカニズム(機序)が人を化学物質に対して極端に過敏にするのか? どのような化学物質が関係するのか?

 この報告書はデンマークにおいてMCSに関し、現状の知見及び対応方法についての総合的な検証を行うものであり、それにより、MCSの問題についてのより良い理解に貢献することが望まれる。

 この報告書は、科学的文献、会議、ワークショップ、及び論評に基づいているが、それらの多くはアメリカからのものである。

ヨーロッパ諸国及び北アメリカの環境管理の手法もまた記録されている。

 MCSは、いくつかの状態の症状と非常に類似しているので、他の状態と混同しやすい曖昧に定義された状態である。

他の状態には線維筋痛症(fibromyalgia)、慢性疲労症候群、シック・ビルディング症候群、湾岸戦争症候群、その他、多くのいわゆる環境病などがある。

 MCSの定義と暫定的な診断は 7 つの基準 (カレン基準 Cullen's criteria)に基づいており、これはまたMCSを他の環境病と区別するのに役に立つ。

 アメリカでは、MCSの発症の大部分は個人の家の中で起こり、屋内での揮発性有機化合物(VOC)への曝露と殺虫剤の過度な使用に起因する。アメリカ、スウェーデン、及びフランスでは労働者のMCSについていくつかの報告がある。

これらはデンマークの症例と同等である。

 アメリカの有病率の調査では全人口の0.2~6%という数値が示されている。

ヨーロッパでは全人口における有病率を示す数値はない。

スウェーデンの調査では、家屋塗装工の30%はMCSである。

 現在までのところMCSの原因機序の最終的証拠はない。

鼻炎と知覚神経機能不全に関する、中脳辺縁系の神経感作(過敏)に関する、そして心理的機序に関する、いくつかの証拠は、免疫、毒物耐性の喪失、身体化障害(somatization 訳注:人が心の不安や心理社会的ストレスを身体症状のかたちで訴えることと)や条件反応など、他に提案されている機序よりも説得力があるように見える。

 現段階では、MCSは、環境刺激に敏感な人々に、より多く起こりやすいように見える。

 正確な機序はわからないし、器質的又は機能的変化を示すものはないが、疫学文献の中にMCSが存在するということを示す明確な証拠がある。

 MCSの状態は2段階で進行すると考えられる。

最初は高濃度の化学物質に頻繁に曝露する初期段階であり、次に引き金段階-低濃度の化学物質に曝露することによる多くの症状の誘発-である。

 ほとんどの国々におけるMCSに関する管理及び予防的措置は、MCSの原因機序の最終的証明を期待するものである。

デンマークでは、建材中の化学物質ガスを防止するための共同措置がデンマークの屋内空気汚染の削減に貢献したかもしれれず、それは間接的にいくらかのMCS発症の防止に貢献したかもしれない。

カナダでは、当局による国民参加の”無香気政策(no scent-policy)”のための各地域での活動が一部成功している。

スウェーデンとドイツの環境・公衆健康当局は現在、疫学的調査を実施中である。

 高濃度及び低濃度の化学物質に曝露するリスクを制限することが、MCSの新たな発症を防ぐ第一歩であると思われる。

初期曝露を回避することが特に重要であり、例えば、大きな表面を塗装した後の高濃度溶剤への曝露、又は密閉した部屋での高濃度噴霧(例えばヘアースプレー)への曝露、等からの回避である。

 消費者は常に、いつ、そしてどのような種類の化学物質に曝露したかを知る必要がある。

消費者は高濃度の揮発性化学物質への屋内曝露を避けることによって、また香水や香料入り製品などを含む、強い匂いのある製品の使用を控えることによってMCS症状の発生を防止することに貢献できる。

 この報告書の情報に基づけば、下記の試みが化学物質への曝露を削減することを示している。
•一般的に日常生活での化学物質の使用の制限
•個人の手入れ用及び家庭用の揮発性化学物質(香料)及び噴霧状の化学物質の使用の制限
•殺虫剤と除草剤の使用の制限
 特別な注意を払うべきものとして: •香水、洗浄剤、表面処理用品の内容物及び使用
•建材や家具からの屋内空気汚染、タバコの煙、及び車の排気ガス
 MCSの予防措置は、化学物質に曝露する全ての人々、特に最も脆弱なグループのよりよい保護に貢献するであろう。

疾病であるMCSを理解することは、MCSの患者と彼等が必要とすることをよりよく理解することにつながるであろう。