http://www.nichibenren.or.jp/jfba_info/publication/newspaper/year/2003/358.html
日弁連新聞 第358号より抜粋
【第2分科会】
蓄積する化学汚染と見えない人権侵害 次世代へのリスク
第一部 「化学汚染の現状はどうなっているのか」
田辺信介教授(愛媛大学)は特別報告「生態、特に海洋哺乳類の化学汚染」で映像を交えながら、特に北方の寒い地域に棲息する海洋哺乳類が化学汚染の被害を被っているというショッキングな現状を報告し、「化学汚染の発生源と到達点とは別であり、意外なところで化学汚染の影響が出ている」と指摘した。
続いて、カネミ油症の被害者が、一九六八年に発生した被害が今なお続き、子供にまで影響が出ていることへの恐ろしさを語り、ダイオキシン被害として対応してこなかった国の姿勢と、第一審の国家賠償訴訟の結果、国から支払われた仮払金の返還請求がなされていることへの不当性を強調した。
また、新築の自宅により、シックハウス症候群・化学物質過敏症に悩まされている被害者は、加害者である建設会社の不十分な対応を非難し、被害の重大さと、それに対する周囲の人たちの無理解について、切実に訴えた。
最後に、坂本博之会員(茨城県)が、鹿島郡神栖町木崎地区における、旧日本軍の遺棄毒ガスが由来と疑われる有機ヒ素汚染の現状について報告した。
第二部 化学汚染のない環境を次世代に手渡すために
竹澤克己会員(東京)が、「危険性が疑われる化学物質については、その危険性が科学的に明確にならなくても使用を規制するという『予防原則・予防的措置』をとるべきである」と基調報告を行った。
国際化学物質事務局所長のパー・ロザンダー氏は、基調講演「スウェーデン、EUの化学物質政策‐今、なぜ予防原則か」で、一九九八年に行われたEUの閣僚会議において、既存の化学物質規制立法が目的を達していないことが確認され、それを受けて、予防原則の概念を取り入れた新しい立法案が提案されていることを紹介し、「次世代に対して、安全で健康な環境を保障するためには、予防原則が絶対に必要である」と熱く語った。
また、愛媛県の環境団体の代表者から、市民の取り組みに関する報告がなされた。
第三部 パネルディスカッション
立川涼名誉教授(愛媛大学)が「一般家庭内でも化学物質が蔓延している現状においては、法律による規制を強化していく必要がある」と強調すると、安栖宏隆氏(経済産業省化学物質管理課)は「自主的な規制が必要であり、また危険な化学物質を使用している企業の製品は購入しないという消費者の姿勢が大事である」と述べ、安井至教授(東京大学)もそれに同調した。
これに対し、神山美智子会員(東京)が「現状のように、企業が消費者に対して嘘の内容のコマーシャルをしている中で、消費者に賢くなれ、というのは無理がある」と主張すると、会場からは拍手があがった。