2)労災保険
労災保険は、労働者災害補償保険法に基づく制度で、その目的は、「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行うほか、労働福祉事業として、被災労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、適正な労働条件の確保を図り、もって労働者の福祉の増進に寄与すること」とされている。
化学物質過敏症等についても、上記の「労働者の負傷、疾病、障害」に含まれるとして、労災保険給付請求を行う事例が近年見られるようになっている。
しかしながら、通常の外傷や疾病と違い、その原因や発症との因果関係の特定が難しいため、認定を得るためには相当な困難を伴う場合が多い。
労災保険の適用を受けるための認定基準については、厚生労働省が労働基準法施行規則に基づく「労災保険の業務上疾病の範囲」として、疾病の内容について細かい規定を設けており、化学物質についても、「労働大臣が指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)にさらされる業務による疾病であって、労働大臣が定めるもの」(第4 号1)として、アンモニアや塩酸から一酸化炭素、アセトン、クロロホルム等々、数多くの物質が列挙されている。
厚生労働省が室内濃度指針値を示した13 物質では、トルエン、キシレン、ダイアジノン、スチレンの名称が示されている1)。
表-4.4.8 に、新聞報道等より化学物質過敏症等によるとされる労災保険が認定された主な事例をまとめた。
表-4.4.8 化学物質過敏症等によるとされる労災保険が認定された主な事例
地域疾病の区分発症した場所発症原因認定者数認定理由認定の時期
東京都立川市化学物質過敏症
航空機厨房等製造工場燃焼試験でガスを吸引
2検出された化学物質による症状の発現
平成10年12月
大阪府堺市シックハウス症候群
市立五ヶ荘保育所
仮設園舎内に発生したホルムアルデヒド
4
ホルムアルデヒド特有の症状があり、既往症がなく、園舎より離れると症状が治まった
平成14年6月
大阪府大阪市シックハウス症候群
家具雑貨卸会社
社屋の改装工事で発生したホルムアルデヒド
1建材からホルムアルデヒドを検出
平成14年6月
愛媛県化学物質過敏症-
職場で塗料に含まれる化学物質を吸引
1
トルエンとキシレンによる健康被害
平成15年6月- シックハウス症候群病院
消毒液グルタル
アルデヒドの使用
2 - 平成15年以前
神奈川県横須賀市シックハウス症候群
地球環境戦略
研究機関新館の建物内で発生したホルムアルデヒド
1
ホルムアルデヒドの検出、複数の職員からの症状の発生
平成17年3月
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1) 「労働基準法施行規則の規定に基づき労働大臣が指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)並びに労働大臣が定める疾病を定める告示の全部改正について」、平成15 年3 月、労災保険・業務上疾病の認定基準及び関連通達集、厚生労働省労働基準局労災補償部補償課
3)公害苦情調査
公害苦情調査は、公害紛争処理法に基づき実施するもので、全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口が受け付けた公害苦情の受付状況や処理状況を把握することにより、公害苦情の実態を明らかにし、公害対策等の基礎資料を提供するとともに、公害苦情処理事務の円滑な運営に資することを目的としている。