その5:ネオニコチノイド系農薬のヒト・哺乳類への影響 | 化学物質過敏症 runのブログ

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6.昆虫のnAChR や下等動物のACh
 昆虫の神経系は、中枢ではACh、末梢の筋接合部ではグルタミン酸が主要神経伝達物質であり、哺乳類とは逆になる。

昆虫のnAChR は哺乳類と同じαβ の5個のサブユニットからなり、ACh 結合部位は哺乳類nAChR と類似性が高い。
 さらにACh は単細胞生物から高等生物に至るまで存在が確認され10)、進化的に普遍といってもいい重要な生理活性物質である。

nAChR 類似の5量体イオンチャネルもバクテリアで見つかっており、ACh と受容体は進化の過程でごく初期から細胞機能調節や細胞間の情報伝達系として利用され、神経系を持つ動物が出現した際に多様に進化したと考えられる。

表1 神経系以外の臓器におけるnAChR の発現2, 9)
組織と細胞ニコチン性受容体nAChR の種類
免疫系
  単核球α2, α5, α7, β2, β4
  好中球α3, α4, α7
  マクロファージα1, α7, α10
  樹状細胞α2, α5, α6, α7, α10, β2, β4
上皮系細胞
  気道上皮細胞α1, α3, α5, α7, α9, β1, β2, β4
  皮膚角質細胞α3, α5, α7, α9, α10, β1, β2, β4
血管内皮細胞α3, α5, α7, β2, β4
胎盤栄養膜細胞α2, α3, α4, α5, α7, α9, α10
癌細胞多種類(肺癌発症にはα3, α5, α7, β4 が関与)
nAChR は上記以外の組織、細胞にも発現し、それぞれシグナル伝達系、遺伝子発現を介して、機能調節に関わっている。mAChR も多様な組織に発現している。


Ⅳ.蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder:CCD)とネオニコチノイド
 近年注目されているネオニコチノイド系農薬とハチ大量死の詳細については、本誌掲載Yamadaらの原著を参照されたいが、ここでも簡単に触れたい。

欧米や国内で起きているハチ大量死の原因は、ハチの複雑な本能行動に関係する神経回路でnAChR が重要な役割を果たしていることと、ネオニコチノイドの使用が始まってから大量死が見られたことから、ネオニコチノイドの関与が強く疑われてきた。

一方大量死には、有機リン系などの農薬、ウイルス感染、寄生ダニ、ストレス、複合汚染などの関与も考えられ、ネオニコチノイド主因説には異論も出ていた。

今年3月Science 誌に仏研究チームは、ネオニコチノイド系チアメトキサムに低用量曝露したハチが帰巣できず、巣外で死ぬ率が2 3倍高くなると報告した11)。

同誌には、ネオニコチノイド系イミダクロプリドの低用量曝露により、女王バチが減少するというUKチームの論文も掲載され12)、ネオニコチノイドが大量死に関与している根拠が明らかとなってきている。

イミダクロプリドに曝露したハチが大量死の一因とされているノゼマ原虫に感染しやすいという報告や13)、ネオニコチノイドは他の農薬との併用で毒性が増強され、中でもネオニコチノイド系チアクロプリドでは千倍も毒性が高くなるという報告もあり14)、ハチ減少の要因となる可能性が高い。

ネオニコチノイドは体内で分解するため検出されづらいが、国内では大量死したハチにネオニコチノイド系クロチアニジンが検出された例がある。

検出されなくとも、ハチの幼虫は花粉を餌とするため、発達期にネオニコチノイドに曝露されて正常な神経回路形成ができず、帰巣できない異常個体(ハチ脳の発達障害)が増えている可能性もある。

ヨーロッパの農業国では、ネオニコチノイドを使用規制している国もある。

イタリアでは、イミダクロプリドなど数種のネオニコチノイドの種子処理を一時的に停止し15)、フランスでは、イミダクロプリドによるヒマワリ、トウモロコシの種子処理を禁止し15)、さらに今年の6月にはチアメトキサムの菜種への使用を中止すると発表した16)。

国内の赤とんぼ激減は、GABA 受容体を阻害する殺虫剤フィプロニルとネオニコチノイド系農薬の使用が要因とも報告されており17)、ハチだけでなく生態系全体への影響が危惧されている

表2 アセタミプリドの農薬残留基準(ppm)
食品 日本 USA EU 食品 日本USA EU
イチゴ3 0.6 0.01* 茶 葉30 50** 0.1*
リンゴ2 1.0 0.1 トマト 2 0.2 0.1
ナ シ2 1.0 0.1 キュウリ 2 0.5 0.3
ブドウ5 0.1 0.01* キャベツ 3 1.2 0.01*
スイカ0.3 0.35 0.01* ブロッコリー 2 1.2 0.01*
メロン0.3 0.5 0.01* ピーマン 1 0.2 0.3
* 検出限界 ** USA では輸入茶に対してのみ基準値を設定
図4 ニコチンとネオニコチノイド系農薬の化学構造


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