(3)原因
1)発症因子
広義の化学物質過敏症の発生機序については、「化学物質過敏症について-総説」(平成16 年2 月、加藤貴彦)によると、ホルムアルデヒド、有機溶剤(トルエン、キシレン等)、有機リンその他の化学物質が原因となり、化学物質の曝露による自律神経系や免疫系等への作用が推測されているものの、今なお正確な発生機序は不明とされている。
一方、シックハウス症候群について、「室内空気質と健康影響 解説シックハウス症候群」(平成16 年2 月 室内空気質健康影響研究会)にあっては、発症関連因子の化学物質について、「従来、建材や内装材などから放散するホルムアルデヒドや、トルエンをはじめとする揮発性有機化合物の吸入が、シックハウス症候群の主な発症関連因子の一つであると指摘されてきた。
確かに、室内環境中には、ホルムアルデヒドをはじめとして、高濃度での曝露を受けた場合に、粘膜刺激症状などの健康障害を引き起こすことがある化学物質が存在するのは事実である。
また、トルエンなどの有機溶剤のように高濃度の曝露を受けた場合に、頭痛やめまい、さらには意識障害といった中枢神経障害を来すことがある物質も存在する。
中でも、ホルムアルデヒドについては0.08ppm という建築物衛生関係法令上の基準値が定められている。これは、環境衛生上良好な状態を維持するという観点から定められた基準であり、皮膚や粘膜に障害のない者については本基準値をわずかに上回った濃度の曝露を受けたとしても直ちに影響が生じることはないと考えられるが、アトピー性皮膚炎や気管支喘息をはじめとするアレルギー関連疾患の既往等があり、皮膚・粘膜の防御機能に障害がある者では、本基準値を上回る濃度での曝露が持続した場合、皮膚や粘膜の症状が増悪するおそれがある値でもある。
また、防蟻剤として使用されてきたクロルピリホスについては、これを使用するしろあり駆除従事者の健康影響を示唆する報告がなされており、気密性の高い住宅でこれを使用し比較的高濃度の曝露が持続した場合、特に感受性の高い居住者に健康影響が生じる可能性は否定できない」としている。
また、化学物質以外の環境因子の関与については、
「皮膚・粘膜刺激症状や不定愁訴を誘発する要因は必ずしも化学物質だけではない。
皮膚・粘膜刺激症状は、アレルギー疾患や感染症などの患者でも高頻度に認められる症状であり、また、温度、湿度及び気流等の温熱環境因子が増悪因子となり、自覚症状のみでは、アレルギー疾患等との鑑別が困難であることに留意が必要である。
また、全身倦怠感、めまい、頭痛・頭重などの不定愁訴は、各種疾患により生じるほか、温熱環境因子、生物因子(感染症)、照度、騒音及び振動等の様々な物理的環境因子、精神的ストレスなどが発症・増悪に関連することから、化学物質が係る症状の関連因子であると判断するためには、十分な除外診断が必要である」としている。