・3.SLCPs対策を進めるために
SLCPsという概念は、その誕生からまだ日が浅くまだまだ確固たるものではないと言えます。
例えば、本稿でSLCPsとして取り上げた対流圏オゾンは、メタンを含む炭化水素化合物などの前駆物質から大気中で生成される二次汚染物質ですが、これを削減しようとした場合、図1にあるようなメタンの排出抑制策のみでは、東アジアのような非メタン炭化水素によるオゾン生成が活発な領域では思うような便益が得られないかもしれません。
このような領域ではSLCPsにそうした物質も含めるなどの修正が必要になってくると思われます。
多面的な便益を持つSLCPsによる地球温暖化緩和策は、気候変動枠組条約に基づく二酸化炭素(CO2)の削減が、世界各国の利害対立からなかなか進まない状況下にあって、とても魅力的なオプションであることは間違いありません。
ただし、個々のプロセスの科学的な理解度は、現時点で決して高いわけではなく、便益の評価に用いる数値モデルの違いによる結果のばらつきは、図1に示されているようにまだまだ非常に大きいものです。
SLCPsによる地球温暖化の緩和策を大きな流れとしてゆくには、今後もプロセスの理解を深めながらモデルの改良を進め、得られる便益の評価をよりよいものにしていく必要があるでしょう。
図1 メタン対策を行った場合とそれに加えてブラックカーボン対策を行った場合における全球平均気温、早期死亡者数、穀物収量損失の改善効果(拡大表示)
オレンジの縦棒は評価モデルの違いによるバラつきの範囲。(UNEP/WMO Integrated Assessment of Black Carbon and Tropospheric Ozone: Summary for Decision Makers, 2011 から改変)
(ながしま たつや、地域環境研究センター
大気環境モデリング研究室 主任研究員)